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ぴちぴち戦隊 夏の陣

 痛いほど照りつける太陽。

 浜辺はカラフルな水着をつけた男女で溢れかえっている。

 響き渡る歓声。

 戯れる恋人達。

 しかし、その平和な光景を睨みつける不穏な視線があった。



「許せん」

 黒いマントをなびかせ、黒い仮面をつけた男がブーツで砂を踏みつけて呟く。

「申し訳程度の布で体を隠し、男どもを翻弄する女どもめ。指をくわえて眺めているだけと思ったら大間違いだ……」

 場違いな姿の男は傍らの部下と思しき男にあごで合図した。

「やれ」

「はっ、エロ魔王様」

 男達がなにやら掃除機のようなものを取り出す。

「まずは、奴らじゃ」

 エロ魔王と呼ばれた男の指先にはグラマーな肢体を紐ビキニで覆った女性達がビーチボールに興じていた。

「羞恥心バキューマー、スイッチオン」

 掃除機もどきが唸りを上げる。と、同時に彼女達の顔が桃色になる。

「あ、暑いいいいんっ」

「脱ぎたいンンっ」

 手が結び目に伸び、紐ビキニがはらりと落ちる。

「ちょっと、何してるのっ」

 止めに入る友達にも、ビームが情け容赦なく当たる。

「わ、わたしも、こんなのぬぐーっ」

 浜辺に色鮮やかなビキニがひらひらと乱舞する。

「そりゃそりゃ、いけーっ」

 魔王の指令にバキューマーが全方位に向けられる。

「けけけけけっ、撮影隊、今のこのビーチの映像をしっかりと記録しておけ。楽しんだ後は売りに出して一攫千金だ~~~」

「おい、何を撮ってるっ」

 女性達の連れと思われる男達、中でもとりわけ筋肉隆々とした青年が不審な行動をとる男たちに詰めよった。

 取り囲む若者達をねめつけながら、魔王は不敵な笑いを漏らす。

「わしは、恐怖のエロ魔王。この世をエロで支配するためやって来た。一皮剥けば所詮お前らも同類。我がエロ魔術を受けてみよ」

 男達に、エロ魔王は今度は手に持った竹の杖を向けた。

「本能刺激ビームっ」

 ビームに包まれた男が濁った目に変わる。

「や、やめろっ……、けけけっ、おねえちゃ~~~~ん」

 エロ魔王に詰め寄っていた男たちは、たちまち目当ての女を追いかけ始めた。

「邪魔者はいなくなった、さあお楽しみはこれからだ。もーっと脱ぎたくなりまっせ~」

 逃げ惑う女達を見て、エロ魔王はにた~りと笑って叫んだ。

「バキューマー、最大出力っ」



「お待ちっ」

 声とともにバキューマーを抱えた男がもんどりうってひっくり返った。手から離れたバキューマーが空中で勢いよく爆発する。

「な、何者っ」

 狼狽して周囲を見回す男の頭を白いヒールが蹴り飛ばした。

「ピチピチ戦隊1号! キラーホワイト参上」

 透き通るほど白い四肢を白いワンピースから惜しげもなくむき出しにしたポニーテールの少女が砂地に着地した。

「ピチピチ戦隊2号! バトルルージュ推参」

 きらきらと光るピンクの口紅も鮮やかにショートカットの少女がアーミー柄のミニスカートを翻しホワイトの横に駆け寄った。

「ピチピチ戦隊3号! ミステリアスシャドー見参」

 切れ長のクールな瞳をひらめかせ、ジーンズ姿のスレンダーな長い髪の少女が現れた。薄いシャツから透ける黒い下着が刺激的だ。

 ホワイトを中心にポーズを決めると、三人は叫んだ。

「私達は女性の敵、品性下劣なエロリストに立ち向かうべく、総合美化学研究所が社会貢献目的に結成した美少女戦隊よ」

「こ、こしゃくな。やってしまえ」

 魔王の指令で部下達が三人に襲い掛かる。

「変身」

 声とともにホワイトがするりとワンピースを脱ぎ捨てると、白いビキニ姿に変身した。反動でビキニから白い胸がはみ出して揺れる。

 どよめくエロ魔王一団。

「馬鹿者、動揺するな」

 そう言うエロ魔王も視線が胸元から離れない。

「この世に仇なすエロリストども、ホワイトニング攻撃、いくわよっ!」

 彼女が跳躍すると同時に、肌、そして光沢のある髪までもが白く輝き始めた。彼女が発する光が浜辺を満たし、ホワイトの姿が消える。

「ぐえっ」

 いきなり、エロ魔王の横の男がみぞおちに手をあてて崩れ落ちた。

「ど、どこだ。ぶほっ」

白一色の視界の中、部下がまた一人砂地に突っ伏した。

「ま、魔王様っ」

 見えない敵に翻弄されエロ魔王の配下達が次々と打ち倒されていく。

 が、魔王は半眼のまま腕を組んで立たずむのみ。

 突如、彼は目をかっと開いた。

「見切ったぞ、小娘」

 魔王は杖をゆっくりと振り上げた。

「ふっ、真夏の太陽に容赦は無い。ホワイトニング敗れたりっ」

 言葉が終わるとともに杖が一閃する。

「きゃああっ」

 ホワイトの悲痛な叫び声が響いた。

 ふっつりと光の洪水が消え、砂地に倒れこむ少女の姿が現れる。

「ど、どうして……。この日焼け止めは最強のはず」

「ホワイト、み、耳が消えてないわ」

 ルージュの叫びに慌てて耳に手をやるホワイト。

「ふふふ、愚か者め。日焼け止めを耳に塗り忘れておるわ。この日差しにさらされて耳が焼け保護色効果が無くなったのに気づかないとは笑止千万! 耳なし法一ならぬ、耳ありホワイトというわけか」

 エロ魔王は手に持った杖をピチピチ戦隊に向けた。

「今度は、わしの番だ」

 杖からヘドロ色したどす黒い気体がうねって広がっていく。

「ファンタジーバンブーの術っ。わしの妄想でお前らを虜にしてやる」

「ああっ、いやんっ」

 たまらずルージュが涙を浮かべて膝をついた。

「そこは、だ、だめっ」

 胸を抱え蹲るシャドー。

「ファ、ファンタジーバンブー……妄想竹。あっは~んっ」

 砂地に転がって喘ぐホワイト。

 エロ魔王の精神攻撃に少女達は蹂躙されていた。

「どうした、もうこれまでか。ひーっひひひっ」

 魔王の声がいやらしく響き渡る。

「竹……」

 竹といえば空洞。苦しい息の下、ホワイトは邪念が噴出する竹の杖の先端の穴を見た。

「あの穴を塞ぐわよっ」

 二人に叫ぶ。

「ストロングパック攻撃っ」

 ホワイト、ルージュ、シャドウが声をそろえてパッククリームを投げつけた。

 次々とくっつくパックが竹の穴を塞いでいく。

 ぼぼぼぼぼ、ぷっ、杖から邪念の噴出が止まった。

「うおっ」

 行き場の無い妄想が充満し、魔王の持つ竹が不自然に膨らむ。その次の瞬間。

 バッカーンッ。

 妄想竹は激しい爆発を起こした。

 どっ、と巻き上がる砂煙。

 視界が開けた時、砂の上にはエロ魔王が倒れていた。

「お、お前らの反応が良すぎて、暴発するとわかっていてもすぐに妄想を止める事が出来なかった……」

 絶え絶えの息で魔王が少女達を睨み付ける。

「年にそぐわぬその発育の良さ、男の本能を刺激するフェロモン。お前らの存在自体が罪なのだ。エロ無きところに潤い無し。男女の関係もエロ無くしては成り立たない」

「限度ってもんがあるのよ、バカっ」

 ホワイトの蹴りが炸裂。黒い仮面に亀裂が走った。

「わしを倒しても第二、第三のエロ魔王が出現する……お前らの戦いは永遠に終わらないのだ。うおおっ」

 ぷしゅーという音とともに魔王はしぼんで消えていった。



「行き場の無い夏の妄念が彼を生んだのね」

 シャドーがエロ魔王の抜け殻を黒いサンダルのヒールで踏みつけた。

 しかしこの行為はある意味、彼にとって最高の弔いかもしれない。

「美ってどうしてもエロを誘発してしまう。美しすぎるのは罪、なのね」

 シャドーが長い髪をなびかせながら呟く。

「そうかもしれない。だけど無差別なエロとは断固戦わなくては」

 ルージュが唇をかみ締める。

「でも3人では戦隊と言えないわ。戦いはまだまだ続くのに……」

 ホワイトの言葉が風に吸い込まれる。

 夕暮れの浜辺で少女達は、新たな戦いの予感に身を震わせていた。




 この世をエロリストから守るため、今日もピチピチ戦隊が行く。

 ただいま隊員募集中。

 ピチピチ戦隊は、やる気のあるあなたを待ってます!!



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