青の洞窟
暗い洞窟の足場は地下へと急な勾配を見せていた。洞窟に足を踏み入れた三人はまずそこに広がる景色に目を奪われ足を止める事になる。
海水で湿った洞窟内部は淡い光を放つ青や白の珊瑚で彩られ、その幻想的な光の芸術は外の世界とはまるで別世界だった。
「珊瑚が……光ってる」
壁際の珊瑚に手を伸ばし、そっとその欠片を手に取るリンス。
「Materialize」
手にした物質がVoice Commandによってカード化される。
Realizeとは逆に物質をカード化するVoice Commandである。
〆カード名
•光珊瑚の欠片
〆分類
•アイテム-素材
〆説明
•ティムネイル諸島に分布する珊瑚の亜種。一般的な珊瑚と異なり、この光珊瑚は発光バクテリアと共生関係を持つ。
海水が浸水した所々の窪みは大きな水溜りと為っていた。その深さは足首程のものから窪みによっては底の見えない身体が完全に水没してしまう深さまで。それ故に三人は水溜りのその隙間を縫うように避ける所作を余儀なくされた
洞窟内部は肌寒いと感じる程のひんやりとした冷気に包まれ、自然と三人の言葉数を少なくさせる。洞窟の奥へと下る勾配を慎重に確かめながら、三人は洞窟入口の光が遠のいて行くのを感じていた。
移り変わった視界の多くは黒ずんだ壁面に覆われ暗闇に呑まれつつあったが、それは完全な闇では無い。まるで冒険者を導くように洞窟内に点在する光珊瑚のお陰で、三人は洞窟の奥へと進む事が出来た。
淡い光を頼りに約百メートル程の勾配を下った所で、傾斜はそこで上向きへと変わる。先の見えない深い闇。洞窟はさらに奥深くまで続いているようだった。
どのくらいの距離を歩いただろうか。向う先も闇。引き返すも闇。
正直、三人の心には少なからずの不安感が生まれていた。もしも、このまま地底に閉じ込められたら。深い闇の中にただ取り残される。
ふと目を閉じて完全なる闇の姿を確認する。そして再び瞼を上げ、視界に飛び込んでくるその光景を前に僅かながらに安堵する。闇の中に漂う光珊瑚の微かな光。その微かな光こそがこの闇の中では三人にとっての希望だった。
「なんか小さい頃お母さんに物置に閉じ込められたこと思い出しちゃった。あの時は凄く怖かったけど。今はちょっと楽しいかも」
リンスの言葉に暗闇の中で微笑するスウィフト。
「年取れば感性は変化するんだ。物の見方だって変わるよ。リンスもきっと成長したって事じゃない?」
上から目線の物言いにエルツは苦笑を堪え切れずに笑い声を漏らす。
そんな他愛も無い会話も時が経過する毎に消えて行く。
一体この闇はどこまで続くのか。少なくとも洞窟に入ってから既に大分時間が経過している。まさか、いつの間にか果ての無い異次元空間に紛れ込んでしまったのでは。
そんな想いから自然とその足取りを三人が速めたその時だった。
視界が開け、目の前に巨大な円洞が姿を現す。
突然広がった空間を前にただ三名はただ呆然と立ち尽くしていた。
一面に広がる青の世界。浸水した海水は宝石のような輝きを放ち、その輝きは洞窟全体を照らし上げていた。その純正な青色は、今まで彼らが目にしたどんな色よりも美しく、そして神聖だった。そのあまりに美しく神秘的な光景に彼らは言葉を失ったのだ。
「ここが……神秘の洞窟」
石灰質の洞窟の壁面には、ランプが取り付けられており、ここが少なからず人目の行き届いた土地である事を示していた。青い色彩の中に浮かび上がる淡いランプの白光の中では永久燐が燃えている。
腰元まで浸かった水面を這うエルツの隣でリンスが両手で水面をすくう。
隙間から零れる青色の雫が舞い、落下し水面に溶け込んでゆくその様子を彼女はただ声も無く見つめていた。
だが、三人が頑なに沈黙した理由には他に理由が存在した。それは邂逅ではない。必然的な出会い。
淡い光が零れる薄暗闇の中で、ゆっくりと蠢く白影。
三人の視線が一点で交錯した。
――Simuluuだ――