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少年サッカー 第1話 短編版

作者: 岩田 ヒロ
掲載日:2026/05/05

「石川さん、サッカー経験ありますか?」


「いや、高校はラグビー部で」


「じゃあ、お父さんコーチ、やってみません?」


 ユースケの引率で練習試合を見に来ていたとき、村上コーチに声をかけられた。

 未経験の父親が二人でチームを回しているらしい。審判資格まで取っていると聞き、頭が下がる思いだった。


「平日は仕事、土日は少年サッカーのコーチ」

 どう考えても無理だと思った。


 家で話すと、ユースケは「恥ずかしいからやめて」と言い、妻は「あなたがコーチなら私が引率しなくて済む」と言う。

 二人の温度差に苦笑しながら、「やらないよ」と流した。


 ***


 八月の合宿で車を出せる親を探していると妻が言った。

 コーチは無理でも、お手伝いならできるかもしれない。

 そう思い、参加を決めた。


 山中湖の合宿所。

 子どもたちは浮かれっぱなしで、練習は上の空だった。


「集合」


 村上コーチが静かに呼び寄せ、十秒ほど黙った。


「今は練習の時間。おしゃべりは夜にいくらでもできるよ。九月から大会が始まる。勝ちたいでしょ。ちゃんと練習すれば、一勝は必ずできるようにしてあげる」


 怒鳴らず、押しつけず、ただ“分かるよね”と語りかける声。

 子どもたちは素直に聞き、練習に戻った。


 夕方の最後は、子どもチーム対親チームの試合。

 十三対六。

 大人は走れず、蹴れず、空振りばかり。

 一方で子どもたちは驚くほど上手い。

 フェイントで股を抜かれたときは、思わず笑ってしまった。


 試合は三対一で子どもたちの勝ち。

 手作りの温かさがそこにあった。


 ***


 夜、親たちでビールを飲んでいると、村上コーチが言った。


「サッカー以外にも教えることはたくさんあります。礼儀、挨拶、仲間を大事にすること。強い相手にどう向かうか。小学生はメンタルだけで勝つこともあるんです」


 昨年、格上のチームを前半0-0で折り返した話を聞いた。

「行ってこい!」と送り出した後半に二点取られて負けたが、あの前半は本当に誇らしかった、と。


「平日お仕事で大変でしょうけど、卒業までの二年ちょっと、一緒にやってみませんか?」


 胸が熱くなった。

 村上コーチ、話がうますぎる。


「明日の練習を手伝ってから考えさせてください」


 そう答えた。


 ***


 翌朝、山下コーチが来た。

 卒業した子の親だが、今もコーチとして残り、いろんな学年を見ている。

 指導は的確で、子どもたちがどんどん上達していく。

 自分もあんなふうに教えられたらと思った。


 合宿の最後、山下コーチが言った。


「石川さん、新横浜勤務なんですよね。駅近くの喫茶店で働いてるんで、来てくださいよ」


 店名を聞くと、いつもの蕎麦屋の隣だった。


 ***


 翌週、昼休みにその喫茶店に行った。

 昭和の香りが残る店で、山下コーチがフライパンを振っていた。


「毎週金曜の夜、コーチ会議してるんですよ。石川さんもぜひ」


 気づけば、エンリコに通うようになっていた。

 夏合宿、山下コーチの存在、ユースケのサッカー好き──

 いろんなものが少しずつ背中を押してくる。


 団体競技が好きだ。

 弱いチームが強い相手にどう挑むかを考えるのが好きだ。

 高校のラグビーで強豪校に挑んだときの作戦会議を思い出す。


 負けたけれど、あの時間は確かに楽しかった。

読んで頂き、ありがとうございます。


本編はこちらから読めます。

https://ncode.syosetu.com/n0828ls/


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