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自分では凡人のつもりなのに、なぜか世界の最終兵器扱いされています ~何もしない俺が、なぜか世界を安定させてしまう件〜  作者: 藍田ピクセル


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第31話 善意の推薦

 呼び出しは、突然だった。


 ギルドで依頼書を確認していると、リーナがこちらに近づいてくる。

「アルトさん、少しお時間いいですか」

「はい」


 奥の応接室には、見知らぬ女性がいた。


 落ち着いた服装。

 派手さはないが、背筋がまっすぐで、目に迷いがない。


 立ち上がり、丁寧に頭を下げた。

「初めまして。サリア・フェルディンと申します」

「アルトです」


 名乗った瞬間、彼女は小さく頷いた。

「お会いできて光栄です」


 その言葉に、少しだけ違和感を覚える。


「私は、地方行政とギルドの連携を担当しています」

「今回は、その立場でお話がありまして」


 机の上に、薄い書類が置かれた。


 表紙には、こう書かれている。


 ――現場安定化に関する推薦案(個人)


 嫌な予感がした。


「これは……」

「正式な任命ではありません」

 サリアは、すぐに言った。

「あくまで、推薦です」


 推薦。


「最近、地方の現場安定率が上がっています」

「事故件数も、目に見えて減少しました」


 事実だ。

 数字も、正しい。


「その要因分析の中で」

 彼女は、俺を見る。

「あなたの存在が、何度も挙がっています」


 胸の奥が、ひやりとした。


「誤解です」

 俺は、即座に言った。

「俺は、指示も介入もしていません」


「ええ。承知しています」

 サリアは、穏やかに頷く。

「だからこそ、です」


 だからこそ?


「あなたは、現場を“導いて”いない」

「ただ、そこにいるだけ」


 彼女は、言葉を選びながら続ける。

「それでも、結果が安定する」

「これは、評価すべき現象です」


 評価。


「制度として」

 サリアは言った。

「再現性を持たせたいのです」


 その瞬間、背中に冷たいものが走った。


「……無理です」

 俺は、はっきり言った。

「再現できるものじゃない」


「ええ」

 彼女は、否定しない。

「ですが、“配置”なら可能です」


 配置。


「特定の現場に、あなたを“観測者”として配置する」

「判断権は、現場に残す」

「責任も、押し付けない」


 どれも、理屈としては正しい。


「それでも」

 俺は、首を振る。

「それは、前提になります」


 サリアは、少しだけ目を伏せた。

「……そうならないよう、注意します」


 その言葉が、何より不安だった。


 彼女に悪意はない。

 本当に、現場を良くしたいだけだ。


「これは」

 サリアは、静かに言う。

「あなたを縛るための提案ではありません」


「では、なぜ」

「“あなたがいると、皆が慎重になる”」

「その空気を、失いたくないのです」


 空気。


 数字でも、規定でもない。

 だが、確かに存在するもの。


「……俺は」

 言葉を探す。

「普通に働きたいだけです」


 サリアは、微笑んだ。

「それは、素晴らしいことです」

「だからこそ、推薦したい」


 噛み合っていない。

 善意と善意が、ずれている。


「結論は、急ぎません」

 彼女は、書類を閉じた。

「考えてください」


 そう言って、立ち上がる。


 扉の前で、振り返った。

「あなたが断っても」

「評価は、止まりません」


 その言葉が、重く残る。


 サリアが去ったあと、部屋は静まり返った。


 ノクスさんが、壁にもたれて言う。

「……来たな」

「はい」

「一番、厄介なやつだ」


「敵では、ないですね」

「そうだ」

 彼は、苦く笑う。

「敵なら、殴れる」


 俺は、椅子に座り、天井を見上げた。


 評価されること自体は、悪くない。

 善意で動いてくれる人がいるのも、ありがたい。


 それでも――


 俺のいない場所で、

 俺の名前を使って、

 “良かれと思った配置”が始まろうとしている。


 それは、

 第2章で否定したはずの構造が、

 形を変えて戻ってくる兆しだった。


 英雄化は、

 叫び声や称賛から始まるわけじゃない。


 丁寧な書類と、

 穏やかな微笑みから、始まる。


 それを、

 止める言葉を、

 俺はまだ、持っていなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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