表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分では凡人のつもりなのに、なぜか世界の最終兵器扱いされています ~何もしない俺が、なぜか世界を安定させてしまう件〜  作者: 藍田ピクセル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/36

第29話 何も変わらない日

 その依頼は、本当に普通だった。


 街道沿いの倉庫での点検補助。

 人員も揃っている。

 危険度も低い。


 掲示板に貼られた紙を見て、俺は少しだけ迷ってから、受注札を取った。


「……行っても、行かなくてもいい」


 それが、今の立場だ。


 リーナが気づいて、顔を上げた。

「アルトさん、こちらですね」

「はい」


 特別な言葉はない。

 確認事項も、いつも通り。


 現場には、すでに数人の作業員が集まっていた。

 顔ぶれは見知った者もいれば、初めて見る者もいる。


「よろしくお願いします」

「こちらこそ」


 挨拶も、淡々としている。


 俺は、入口付近に立つ。

 第2章で決めた距離。

 前に出ない。

 指示しない。


 ……違和感は、ない。


 作業は滞りなく進む。

 壁の確認。

 床の点検。

 記録。


 誰も無理をしない。

 誰も焦らない。


 “普通にうまくいっている”。


 それだけだ。


 途中、若い作業員が小声で言った。

「……やっぱり、安心ですね」

「何が?」

「アルトさんが、いると」


 俺は、聞こえなかったふりをした。


 何かを言えば、空気が変わる。

 言わなければ、そのまま流れる。


 今は、流すべきだと思った。


 点検は、予定通り終了した。

 怪我人なし。

 問題点は軽微。


 現場責任者が、帳簿を閉じる。

「以上です。特記事項は――」


 一瞬、視線がこちらに向く。


「……ありません」


 その間が、少しだけ気になった。


 ギルドへ戻る道すがら、ノクスさんが隣を歩いていた。

「今日は、何もなかったな」

「はい」

「それで、どう思う」


 少し考えてから答える。

「……普通だと思います」


 ノクスさんは、笑わなかった。

「そうか」


 ギルドに戻ると、リーナが報告書をまとめていた。

「今日の現場、問題ありませんでした」

「はい」

「……安心しました」


 その言葉が、妙に引っかかる。


「安心、ですか」

「あ……いえ、その……」

 彼女は少し慌てて言い直す。

「現場が、落ち着いていたので」


 それ以上は、聞かなかった。


 その夜、王都では別の報告書がまとめられていた。


 ――地方倉庫点検

 ――被害なし

 ――進行円滑


 特記事項は、ない。


 ただ、末尾に小さく、こう添えられていた。


 ――本件は、過去の安定事例を踏まえた運用である。


 誰の名前も、書かれていない。


 だが、

 何を指しているのかは、

 関係者全員が理解していた。


 翌日、街ではこんな噂が流れ始める。


「昨日の点検、無事だったらしいな」

「そりゃそうだろ」

「だって……アルトがいたんだろ?」


 俺は、その場にいなかった。

 だが、その名前だけは、そこにあった。


 何も変わらない日。

 何も起きなかった現場。


 それでも、

 “物語”だけが、

 少しずつ、動き始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ