第28話 共存という結論
会議は、長くはならなかった。
集まったのは、ギルド長、王国文官、技術部の代表、そして――監察官エルディア・クロウ。
俺は、端の席に座っていた。
今回は、立たされなかった。
それだけで、少しだけ空気が違う。
「結論を述べます」
エルディアは、書類を閉じて言った。
「アルト・リーヴスは、
安全装置ではない。
切り札でもない。
そして、前提条件でもない」
誰も、反論しなかった。
「彼の存在は」
エルディアは続ける。
「現場の判断精度を、平均以上に引き上げる傾向があります」
「しかし、それは“保証”ではありません」
全員が、第27話の事故を思い出していた。
「よって」
エルディアは、淡々と告げる。
「今後、王国管理下の案件において、
アルトの同行は“任意観測”とします」
任意。
「同行した場合」
「結果は、評価に含めない」
「同行しなかった場合」
「それを理由に、運用を変えない」
はっきりと、線が引かれた。
「そして」
彼は、俺を見る。
「あなたに、義務は発生しません」
その言葉が、胸に落ちた。
「来るも、来ないも」
「見るも、見ないも」
「あなたの自由です」
ギルド長が、静かに頷く。
「……受け入れよう」
文官も、続く。
「これ以上、依存する理由はありません」
それは、拒絶ではない。
切り捨てでもない。
ようやく辿り着いた、妥協点だった。
会議が終わり、皆が席を立つ。
エルディアが、最後に俺の前に立った。
「アルトさん」
「はい」
「あなたは、よく踏みとどまりました」
その評価は、重すぎず、軽すぎず、ちょうどよかった。
「世界は、完全な安全を望みます」
「だが、それを担える個人はいません」
少しだけ、口角が上がる。
「あなたが万能でなかったことは、幸運でした」
そう言って、彼は去った。
ギルドを出ると、空は澄んでいた。
特別な景色ではない。
いつも通りの夕方だ。
ノクスさんが、隣を歩く。
「一区切り、だな」
「……はい」
「これから、どうする」
唐突な問いだった。
俺は、少し考えてから答える。
「普通に、働きます」
「ただし……」
言葉を選ぶ。
「無理は、しません」
「期待にも、応えすぎません」
ノクスさんは、笑った。
「それができりゃ、上等だ」
その夜、久しぶりに、ぐっすり眠れた。
翌朝、ギルドの掲示板は、変わらない。
依頼も、街も、世界も。
ただ一つだけ、違う。
俺がいなくても、
世界は回ると、
皆が“本気で”信じるようになった。
それでいて――
俺がいてもいい場所が、
きちんと残された。
それが、共存という結論。
特別にならないまま、
無視もされない。
名前のない役割を持ったまま、
俺は、次の依頼書に手を伸ばした。
これは、終わりじゃない。
ようやく、
始めるための線が、引かれただけだ。
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