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自分では凡人のつもりなのに、なぜか世界の最終兵器扱いされています ~何もしない俺が、なぜか世界を安定させてしまう件〜  作者: 藍田ピクセル


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第27話 間に合わない距離

 違和感は、現場に着いた瞬間からあった。


 空気が、張りつめている。

 人の数は十分。

 準備も整っている。


 それなのに、誰も余裕がない。


「……急ぎすぎだ」


 思わず、心の中で呟いた。


 依頼内容は、旧街道沿いの石橋の補修確認。

 通行止めは、最小限。

 日没までに判断を出す必要がある。


 時間制限が、現場を硬くしていた。


 俺は、入口付近――

 決めた距離を守る位置に立つ。


 今日は、“観測”だ。

 前に出ない。

 口を出さない。


 ……はずだった。


 視界の端で、石橋の下を流れる水を見る。

 増水気味。

 流れが速い。


 人員の配置。

 重機の位置。

 橋の中央に集中しすぎている。


 ――危ない。


 明確に、そう思った。


「……」


 喉まで、言葉が上がってくる。


 だが、今日は“距離を取る”と決めた。

 俺が言えば、現場は止まる。


 それは、正しいのか?


 判断の責任を、また奪うことにならないか?


「工程、最終確認に入ります!」


 責任者の声が響く。


 橋の上に、人が集まる。


 ――まずい。


「……待っ――」


 声が出かけて、止まった。


 その一瞬が、致命的だった。


 “ごり”


 鈍い音。


 橋の中央部が、わずかに沈む。


「下がれ!」


 叫びが飛ぶ。


 だが、人はすぐには動けない。

 集中していた分、反応が遅れる。


 次の瞬間、石が崩れた。


 完全な崩落ではない。

 だが、足場は失われる。


 作業員の一人が、転落しかけた。


 ――間に合わない。


 俺は、考える前に動いていた。


 一歩、前へ。


 橋の縁に手をかけ、

 落ちかけた体を、引き戻す。


 重い。

 腕が、きしむ。


 周囲が、凍りつく。


 何人かが、慌てて手を伸ばし、

 ようやく全員が退避した。


 怪我人は出た。

 骨折一名。

 重傷ではないが、無事とも言えない。


 現場は、沈黙に包まれた。


 俺は、橋の端に立ったまま、息を整える。


 ――止められなかった。


 言えば、止まったかもしれない。

 早ければ、怪我はなかったかもしれない。


 だが、

 俺は迷った。


 距離を守るか。

 人を守るか。


 その迷いが、結果を分けた。


 ギルドへ戻る道すがら、誰も口を開かなかった。


 夜、報告書がまとめられる。


 ――工程判断に瑕疵なし。

 ――時間制約下での事故。

 ――再発防止策を検討。


 いつもの言葉。


 だが、追記が一行、加えられていた。


 ――当該人物は、

 ――介入したが、完全な回避には至らず。


 初めてだった。


 “アルトがいても、事故が起きた”。


 布団に入っても、眠れなかった。


 俺は、正しい距離を取ろうとした。

 世界に任せようとした。


 それでも、

 誰かは傷ついた。


「……万能じゃない」


 呟く。


 わかっていたはずだ。

 俺は、安全装置じゃない。


 それでも、

 “止められると思っていた”自分がいた。


 ブレーキは、

 踏めば必ず止まるわけじゃない。


 距離があれば、

 間に合わないこともある。


 その当たり前を、

 身をもって知った夜だった。


 そして同時に、

 世界もまた、学び始めていた。


 ――アルトがいても、

 ――完全な安全は存在しない。


 それは、

 依存を終わらせるための、

 必要な傷だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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