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自分では凡人のつもりなのに、なぜか世界の最終兵器扱いされています ~何もしない俺が、なぜか世界を安定させてしまう件〜  作者: 藍田ピクセル


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第23話 距離の取り方

 監察官エルディアが去ったあと、ギルドは少しだけ変わった。


 張りつめていた空気が、完全に解けたわけじゃない。

 ただ、誰もが「立ち止まって考える」ようになった。


 俺も、その一人だった。


 依頼掲示板の前に立ちながら、紙を見るともなく眺める。

 以前なら、内容よりも「危険かどうか」を先に見ていた。


 今は違う。


 ――俺が行く意味があるか。


 それを考えてしまう。


「アルトさん」


 声をかけてきたのは、リーナだった。

 少し遠慮がちな声音。


「今日の件ですが……」

「はい」

「監察官の指示を受けて、運用が変わりました」


 差し出された依頼書には、赤字で注記があった。


 ――観測対象立会。

 ――現場判断への介入禁止。

 ――結果評価対象外。


「……評価されない?」

「ええ」

 リーナは頷く。

「結果が良くても、悪くても、“アルトさんの影響”として扱いません」


 それは、少し不思議な感覚だった。


「行っても、意味がないように見えますね」

「はい」

 彼女は正直に答えた。

「でも……それでいいと、言われています」


 俺は、しばらく考えた。


 行けば、何も起きないかもしれない。

 行かなければ、何かが起きるかもしれない。


 その天秤に、もう答えは出ない。


「……行きます」

 そう言った自分の声は、思ったより落ち着いていた。

「ただし、条件があります」


 リーナが、少し目を見開く。

「条件、ですか」

「はい。俺は、入口から動きません」

「それと……気づいても、言いません」


 彼女は、息を呑んだ。

「それは……」

「俺なりの、距離の取り方です」


 ギルド長にも、その条件は伝えられた。

 短い沈黙のあと、彼は頷いた。


「……いいだろう」

「だが、無理はするな」


 現場は、王国管理区画の点検だった。

 危険度は低。

 人員も十分。


 俺は、約束通り入口付近に立った。

 一歩も動かない。

 視線だけを、巡らせる。


 ……違和感は、ある。


 だが、今日はそれを飲み込む。


 作業は、滞りなく進んだ。

 小さな齟齬はあったが、誰かが修正する。


 俺が口を出さなくても、世界は回っている。


 それを見て、少しだけ安心した。


 終わり際、若い技師がこちらに近づいてきた。

「……あの」

「はい」

「今日は、何も言いませんでしたね」

「約束なので」


 彼は、少し考えてから言った。

「それでも……助かりました」


「何がですか」

「……そこに、いてくれたので」


 その言葉に、返事ができなかった。


 ギルドへ戻る道すがら、ノクスさんと並んで歩く。

「今日のやり方」

「はい」

「悪くない」


 彼は、前を見たまま続ける。

「お前は、逃げなかった」

「でも、踏み込みもしなかった」


「……それで、いいんでしょうか」

「さあな」

 ノクスさんは、肩をすくめる。

「だが、世界に任せるってのは、そういうことだ」


 その夜、布団に入って思う。


 俺は、特別な役割を断ったわけじゃない。

 ただ、距離を決めただけだ。


 近づきすぎない。

 離れすぎない。


 それは、簡単なようで、難しい。


 でも――


 今日は、誰も怪我をしなかった。

 俺が何もしなくても。


 その事実が、

 少しだけ、未来を信じさせてくれた。


 普通に戻ることはできないかもしれない。


 それでも、

 普通から離れすぎない場所なら、

 まだ、選べる気がした。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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