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自分では凡人のつもりなのに、なぜか世界の最終兵器扱いされています ~何もしない俺が、なぜか世界を安定させてしまう件〜  作者: 藍田ピクセル


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第22話 監察官エルディア

 王国監察部の使者が来たのは、その三日後だった。


 ギルドの正面扉が開いた瞬間、空気が一段、静かになる。

 騎士の鎧も、軍の徽章もない。

 だが、誰もが直感的に「立場が違う」と理解した。


 背は高くない。

 服装は簡素。

 年齢は、三十代前半だろうか。


 無駄のない動きで歩み寄り、男は名乗った。


「王国監察部、エルディア・クロウです」


 それだけで十分だった。


 ギルド長が一歩前に出る。

「ようこそ。我々が要請した件で――」

「承知しています」

 エルディアは、穏やかに遮った。

「説明は、すでに受けています」


 視線が、ゆっくりと室内を巡る。

 人ではない。

 配置と距離、空気の流れを見るような目だ。


「……アルトさん」

 そして、自然に俺を見た。


 呼ばれたのは、初めてだ。

 名を知っているのも、当然だろう。


「はい」

「立場上、確認します」

 淡々とした声。

「あなたは、意図して介入していませんね」

「……していません」

「指示も?」

「していません」

「判断を強要したことは?」

「ありません」


 エルディアは、頷いた。

「結構です」


 それだけ。


 続いて、文官と技師、警備責任者に同じ質問を投げる。

 答えは、すべて一致した。


 ――アルトは、何もしていない。


「では」

 エルディアは、机の上に一冊の帳簿を置いた。

「結論から申し上げます」


 全員の視線が、集中する。


「この件は、個人の問題ではありません」

「能力の問題でも、善悪の問題でもない」


 それは、第21話で出た結論と同じだ。


「問題は」

 エルディアは、言葉を切った。

「構造です」


 再び、その言葉。


「皆さんは」

 彼は続ける。

「“アルトがいると安定する”という事実を、

 “安全装置”として扱い始めた」


 誰も否定できない。


「しかし」

 エルディアの声は、淡々としている。

「彼は安全装置ではありません」


 俺は、思わず眉をひそめた。


「安全装置とは」

 彼は説明する。

「再現性があり、操作でき、外しても想定内に収まるものです」


 そして、はっきりと言った。


「アルトさんは、そのどれにも当てはまらない」


 場の空気が、凍る。


「彼は」

 エルディアは、こちらを一度だけ見てから言う。

「“安全装置の誤作動”です」


 誤作動。


 その言葉は、妙に腑に落ちた。


「存在するだけで、確率分布を歪める」

「だが、本人も、周囲も、制御できない」


 ギルド長が、低く尋ねる。

「……では、どうすればいい」


 エルディアは、少しだけ考え、答えた。


「前提にしないことです」

「利用もしない」

「排除もしない」


 矛盾しているようで、筋が通っている。


「彼がいる現場と、いない現場を」

「明確に“別物”として扱う」

「混ぜない」


 それは、これまで誰も言えなかった答えだった。


「そして」

 エルディアは、最後にこう付け加えた。

「アルトさん自身を、“正常化”しようとしないこと」


 全員が、俺を見る。


「彼は、異常ではありません」

「ただ、平均から外れているだけです」


 平均。


 その言葉に、胸の奥が少しだけ楽になる。


「監察部としての判断は以上です」

 エルディアは、帳簿を閉じた。

「詳細は、書面で提出します」


 それだけ言って、踵を返す。


 扉の前で、彼は一度だけ立ち止まった。

「アルトさん」

「はい」

「あなたは、普通であろうとしていますね」

「……はい」

「それは、間違いではありません」


 その言葉は、初めて聞く肯定だった。


「ただし」

 エルディアは、静かに続ける。

「世界の方が、あなたに追いついていない」


 扉が閉まる。


 しばらく、誰も動けなかった。


 ギルド長が、ようやく息を吐く。

「……ブレーキが、かかったな」


 文官が頷く。

「ええ。やっと、です」


 俺は、その場に立ったまま、深く息を吸った。


 まだ、普通には戻れない。

 だが――


 初めて、

 「戻れない理由」を、

 誰かが正確に言葉にしてくれた気がした。


 それだけで、少しだけ、救われた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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