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自分では凡人のつもりなのに、なぜか世界の最終兵器扱いされています ~何もしない俺が、なぜか世界を安定させてしまう件〜  作者: 藍田ピクセル


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第17話 欠けた前提

 異変は、俺が“呼ばれなかった日”に起きた。


 朝、いつも通りギルドへ顔を出した。

 特別な用事があるわけじゃない。

 軽い依頼があれば受けて、なければ帰る――それだけのつもりだった。


「おはようございます、アルトさん」


 リーナの声が、少しだけ慌てているように聞こえた。


「……今日は?」

「今日は、依頼はありません」

「そうですか」


 珍しいが、問題はない。

 俺は頷いて、そのまま引き返そうとした。


「――あ、待ってください」


 呼び止められる。


「はい?」

「一応……念のため、ですけど」

 リーナは言いづらそうに続けた。

「今日は、王国管理の現場が一件、あります」

「……でも?」

「アルトさんは、呼ばれていません」


 その言葉に、胸の奥がひくりとした。


「俺がいなくても、大丈夫そうですか」

「……そう、判断されたみたいです」


 “判断”。


 それは、正しいはずの言葉だった。

 俺は前に出ない。

 いなくても成立する。

 それが、あるべき普通だ。


「よかったです」

 そう答えた自分の声は、思ったより軽かった。


 ――これでいい。


 俺は村へ戻る道を選ばず、街を少し歩いた。

 久しぶりに、完全に自由な時間だ。


 露店を眺め、人の流れに身を任せる。

 誰も俺を見ていない。

 誰も期待していない。


 落ち着く。


 ……はずだった。


 正午を少し過ぎた頃、街の鐘が鳴った。

 緊急を告げる音ではない。

 だが、ざわめきが広がる。


「聞いたか?」

「管理区画で、事故だって」

「作業中に棚が――」


 足が、止まった。


 嫌な予感が、胸を締め付ける。


 俺は、無意識に人の流れを追っていた。

 東の管理倉庫。

 第16話で行った、あの場所だ。


 現場は、すでに騒然としていた。

 警備兵。

 文官。

 作業員。


 そして――倒れた棚。


 幸い、死者はいない。

 だが、負傷者が二人。

 軽傷ではあるが、確実に“被害”が出ている。


「……なんで」


 呟きは、誰にも届かなかった。


 遠くで、あの文官が指示を出している。

 顔色は、良くない。


「床下の補強、想定より弱かった」

「帳簿上は問題なかったはずだ」

「確認が――」


 言い訳が、空中で絡まっている。


 俺は、現場の端で立ち尽くした。

 中に入る理由はない。

 呼ばれていない。


 だが、目に入ってしまう。


 倒れた棚の位置。

 箱の積み方。

 人の配置。


 ――昨日と、ほとんど同じだ。


 違うのは、ひとつだけ。


 俺が、いなかった。


「……」


 胸の奥が、冷たくなる。


 そのとき、文官がこちらに気づいた。

 目が合う。


 彼は、ほんの一瞬、言葉を失った顔をした。


「……アルトさん」

「……呼ばれていませんでした」

「……ええ」


 沈黙。


「今回の件は」

 彼は、声を低くして言った。

「あなたがいない前提で、進められました」


 それは、責める言葉ではない。

 だが、事実として、重い。


「俺は……」

 言葉が、うまく出てこない。

「普通でいたかっただけです」


 文官は、ゆっくりと息を吐いた。

「ええ。だからこそ……」


 続きの言葉を、飲み込んだ。


 ギルドへ戻ると、ギルド長が待っていた。

 報告は、すでに上がっている。


「今回の事故」

「はい」

「君の責任ではない」


 即答だった。


「だがな」

 ギルド長は、机に手を置く。

「“君がいない場合”を、我々が軽く見始めていた」


 それは、最悪の答えだった。


「……俺が、いるせいですか」

「違う」

 彼は、はっきり言った。

「我々が、依存し始めていた」


 依存。


 その言葉で、すべてが繋がった。


 便利。

 安定。

 前提条件。


 それらが、欠けた瞬間に、被害が出た。


 その夜、文官の報告書には、これまでになかった一文が加えられた。


 ――当該人物が不在の場合、

 ――現場リスクが“通常水準”に戻る。


 それは、正しい。

 正しいが――


 裏を返せば、こういう意味でもある。


 ――当該人物が存在する場合、

 ――“通常”が成立しなくなる。


 布団に入っても、眠れなかった。


 俺は、何もしていない。

 今日も、何もしていない。


 それでも、

 “いなかった”という事実だけで、

 世界に傷が残った。


 普通でいたい。


 その願いが、

 誰かの安全と、静かに噛み合わなくなり始めている。


 それが、

 欠けた前提の正体だった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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これからもどうぞよろしくお願いします!

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