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自分では凡人のつもりなのに、なぜか世界の最終兵器扱いされています ~何もしない俺が、なぜか世界を安定させてしまう件〜  作者: 藍田ピクセル


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第15話 失敗が許されない場所

 次の“協力要請”は、今までとは少し違っていた。


 ギルドに呼ばれた時点で、空気が硬い。

 リーナの表情も、いつもの困った笑顔ではなく、はっきりと緊張していた。


「アルトさん……今回は」

「はい」

「少し、場所が悪いです」


 悪い、という言葉が妙に重く聞こえる。


 奥の部屋には、ギルド長、ノクスさん、そしてあの文官がいた。

 さらに、見慣れない男が二人。軍人だ。装備は控えめだが、姿勢と目つきでわかる。


「座ってくれ」

 ギルド長が言う。


 文官が、地図を広げた。

 指で示されたのは、街の地下――王国管理区画のさらに奥。


「旧地下貯蔵層です」

「……立ち入り禁止区域ですね」

 ギルド長が補足する。


 俺は、思わず息を呑んだ。

「そこは……事故が多いと聞きました」


「正確には」

 文官が淡々と訂正する。

「事故が“起きてはいけない”場所です」


 その言葉で、理解した。


 失敗が許されない。

 被害ゼロが前提。

 もし何か起きれば、責任の所在が消えない場所。


「今回も、あなたが前に出る必要はありません」

 文官は、はっきりと言った。

「むしろ、出ないでください」


 その条件に、少しだけ安心する。

「……見るだけ、ですね」

「ええ。“いてほしい”だけです」


 また、その言葉だ。


 地下への入口は、厳重に管理されていた。

 鍵、封印、見張り。

 通路は狭く、空気が重い。


 同行者は多い。

 軍の技術士官、警備兵、文官、ノクスさん、そして俺。


「アルトさんは、この位置で」

 指示されたのは、通路の中央。

 前にも後ろにもすぐ動ける場所。


 俺は、黙って頷いた。


 作業が始まる。

 計測器が設置され、壁面の確認が進む。


 ……嫌な感じが、消えない。


 水の音。

 石のきしみ。

 人の配置。


 ――二人、危ない。


 だが、俺は口を閉ざした。


 前に出るな。

 指示するな。

 見るだけ。


 そう言われている。


「……問題ありません」

 技術士官が言う。

「数値も安定しています」


 その瞬間、通路の奥で、微かな音がした。


 “ぱき”


 嫌な音だ。


 俺は、反射的に一歩下がった。

 同時に、視線を上げる。


「……天井、下がってます」

 声が、自然と出た。


 誰かに指示したわけじゃない。

 事実を口にしただけだ。


「何?」

 技術士官が顔を上げる。


 次の瞬間、天井の石が、ゆっくりとずれた。


「退避!」


 誰かが叫ぶ。


 だが、俺は動かなかった。

 動けなかった。


 代わりに、近くにいた兵士の腕を引いた。

 一歩だけ。


 それだけで、十分だった。


 石は、俺たちの“さっきまでいた場所”に落ちた。

 轟音。

 粉塵。


 だが――


 怪我人はいない。


 沈黙が落ちる。


 粉塵の向こうで、文官がゆっくりと息を吐いた。

「……被害、ゼロ」


 誰もが、俺を見ていた。


 俺は、喉が渇いて、言葉を探す。

「……すみません」

「何がですか」

 文官が聞く。


「もっと早く、言えたかもしれません」


 本心だった。


 技術士官が、震える声で言った。

「……あれ以上早ければ、作業が中断されていた」

「中断されなければ、今頃……」


 言葉は続かなかった。


 地上に戻ったあと、誰もすぐには口を開かなかった。


 ギルドへ戻る道すがら、ノクスさんが低く言う。

「今日の現場は、“失敗できない場所”だった」

「……はい」

「それでも、お前は失敗しなかった」


 違う。

 失敗しなかったのは、偶然だ。


 だが、文官はその夜、報告書にこう書いた。


 ――当該人物が存在する場合、

 ――現場における“致命的失敗”の発生確率が著しく低下。


 その一文を読み返し、ペンを置く。


「……もう、偶然とは言えないな」


 遠く離れた街で、俺は布団に入っていた。


 今日も、何も起こらなかった。

 ――正確には、起こる直前で止まった。


 それを、

 “普通の仕事”だと思っている自分が、少しだけ怖かった。


 失敗が許されない場所で、

 失敗しなかった凡人。


 それが、

 次にどんな場所へ連れていかれるのか。


 まだ、知らない。


ここまでご覧いただきありがとうございます。


明日からは1日1話の投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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