表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分では凡人のつもりなのに、なぜか世界の最終兵器扱いされています ~何もしない俺が、なぜか世界を安定させてしまう件〜  作者: 藍田ピクセル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/17

第11話 普通を選ぶ

 公式判断が出た翌日、俺は少し遅れてギルドに向かった。


 眠れなかったわけじゃない。

 体調が悪いわけでもない。


 ただ、急ぐ理由がなかった。


 管理される。

 前に出るな。

 指示するな。


 それが決まった以上、無理に動く必要はない。

 むしろ、慎重に過ごすべきだ。


「おはようございます、アルトさん」


 リーナの声は、いつもより穏やかだった。

 昨日までの張りつめた感じが、少しだけ薄れている。


「今日は……」

「軽い依頼だけです」


 差し出された紙には、街外れの農具倉庫での整理補助と書かれていた。

 魔物なし。

 危険度なし。

 戦闘想定なし。


 胸の奥が、少しだけ緩む。


「これなら……」

「はい。問題ないと思います」


 同行者は、年配の冒険者だった。

 名をゲイルと言う。


「俺が前に出る。君は後ろでいい」

「はい」


 それでいい。

 それが、普通だ。


 倉庫は静かだった。

 農具が整然と並び、作業も単調だ。


 俺は言われた通り、箱を運び、棚を押さえ、邪魔にならない位置に立つ。

 誰かの動線に入らない。

 余計なことを言わない。


 ……何も起きない。


 それが、ひどく心地よかった。


「今日は、楽だな」

 ゲイルが、肩を回しながら言う。

「こういう日も、必要だ」


「はい」

 本心だった。


 汗も、ほとんどかいていない。

 緊張もない。


 作業が終わると、倉庫の管理人が礼を言った。

「事故もなく、助かりました」

「いえ……」


 事故が起きなかったのは、当たり前だ。

 何もしていないのだから。


 帰り道、空を見上げる。

 雲がゆっくり流れている。


 ――これでいい。


 普通に働いて、

 普通に帰って、

 普通に眠る。


 それが、俺の望んだ生活だ。


 ギルドに戻ると、ギルド長が一言だけ言った。

「今日は、問題なかったな」

「はい」


 それで、終わりだった。


 評価も、記録も、特記事項もない。

 ただの一日。


 その夜、布団に入って、俺は安心して目を閉じた。


 管理されるのは、悪くない。

 枠があるなら、はみ出さずに済む。


 俺は凡人だ。

 その枠の中で、生きていけばいい。


 ――そう、思っていた。


 だが同じ夜、遠く離れた王都では、

 一人の文官が、束ねられた報告書をめくっていた。


 そこには、こう書かれている。


 ――当該人物、本日も問題行動なし。

 ――介入なし。

 ――指示なし。

 ――結果、安定。


 文官は、ペンを止め、しばらく考え込んだ。


「……安定、か」


 何もしていない。

 問題も起きていない。


 それは、確かに理想だ。


 だが――

 それが続いていること自体が、

 すでに“特異”だということを、

 彼はまだ、完全には理解していなかった。


 この日を境に、

 「アルトは管理下にあれば安全」という認識が、

 静かに、しかし確実に定着していく。


 本人だけが、

 それを“普通に戻れた”と勘違いしたまま。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ