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自分では凡人のつもりなのに、なぜか世界の最終兵器扱いされています ~何もしない俺が、なぜか世界を安定させてしまう件〜  作者: 藍田ピクセル


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第10話 公式判断

 翌朝、ギルドの掲示板は静かだった。


 紙が貼り替えられているわけでも、人だかりができているわけでもない。けれど、空気が違う。視線の向きが、ほんのわずかに揃っている。


 ――俺の方へ。


 それに気づいて、胃の奥が重くなる。


「……おはようございます」

 できるだけ普段通りに挨拶する。


「おはよう、アルトさん」


 リーナの返事は、丁寧すぎるほど丁寧だった。

 距離を取っている、というより、線を引いている感じがする。


「今日は……」

「はい。ギルド長がお呼びです」


 予想していた。

 だから、驚きはなかった。


 それでも、足は少し重い。


 部屋に入ると、ギルド長だけでなく、数人の職員と冒険者が同席していた。ブラムとカインもいる。ノクスさんは、壁際に立っている。


「座りなさい」

「はい」


 椅子に腰を下ろす。

 全員の視線が、自然と集まる。


「昨日起きた東区の件についてだ」

 ギルド長は、淡々と話し始めた。

「結論から言う。君に非はない」


 胸の力が、少し抜ける。


「だが――」

 続く言葉で、また緊張が戻る。


「放置もできない」


 その一言で、場が静まった。


「君は、指示を出していない」

「戦闘もしていない」

「だが、君の行動を起点に、被害が最小化されている」


 事実だけを並べている。

 だからこそ、反論しづらい。


「ギルドとしての判断を下す」

 ギルド長は、机に置かれた紙を一枚、こちらへ向けた。


「アルト。君のランクは、据え置きだ」

「……はい」


 それは、少し意外だった。


「だが、今後の扱いは変更する」


 紙に書かれていたのは、簡潔な箇条書きだった。


 ――高危険度依頼の受諾禁止

 ――単独行動の原則禁止

 ――行動報告の義務化

 ――同行者はギルド指定


 制限ばかりだ。


「これは処罰ではない」

 ギルド長が言う。

「管理だ」


 管理。


「君は危険ではない。少なくとも、意図的には」

 その言葉に、何人かが小さく頷いた。

「だが、“結果”が周囲に与える影響が大きすぎる」


 ブラムが口を開く。

「正直に言います」

「どうぞ」

「あいつは、何を考えているのかわからない」

「だが、放っておくのは怖い」


 率直すぎる言葉だった。

 カインも、低く言う。


「俺は助けられた。感謝してる」

「でも、再現できない判断は、怖い」


 怖い。


 その言葉が、胸に刺さる。


「……俺は」

 口を開く。

「普通に働きたいだけです」

「誰かを操るつもりも、目立つつもりもありません」


 ギルド長は、しばらく俺を見てから、ゆっくり頷いた。

「だからこそ、この判断だ」


 矛盾しているようで、否定しきれない。


「君が“普通”でいられるよう、周囲が枠を作る」

「それが、ギルドの責任だ」


 そう言って、ギルド長は宣言した。


「アルトは――特別扱いではない」

「だが、例外的に管理する」


 ざわり、と空気が動く。


 特別扱いではない。

 だが、例外。


 一番、ややこしい位置だ。


「今日から適用だ」

「異論は?」


 誰も口を開かなかった。


 会議は、それで終わった。


 部屋を出ると、廊下でリーナが待っていた。

「……大丈夫でした?」

「たぶん」


 自分でも、曖昧だと思う。


「条件、守れますか」

「守ります。守らない理由がありません」


 それは本心だ。


「ありがとうございます」

 リーナは、少しだけ安心したように笑った。

「じゃあ……これからも、よろしくお願いします」


 ギルドを出るとき、街の空は昨日より明るかった。


 俺は、何も成し遂げていない。

 英雄でも、天才でもない。


 それでも、世界は俺に“枠”を与えた。


 普通でいようとする俺を、

 普通ではいさせないための枠を。


 ――それが、公式判断だった。


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