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第7話 説明した結果、負けました

 作戦会議室は、静かだった。


 静かすぎて、紙をめくる音がやけに響く。

 机の上には、地図と作戦案。

 俺が説明した内容を元に、まとめられたものだ。


「……つまり」


 騎士団長が言う。


「魔王軍は、前線を広げるつもりはない。

 撤退を前提に動き、こちらを引きつけている」


「はい」


 俺は頷いた。


「勝てる戦場を捨てているのは、

 “戦果”よりも“位置”を取っているからです」


 魔法師団長が腕を組む。


「ならば、こちらは追わず、

 補給線だけを断てばいい」


「そうなります」


 俺の説明は、筋が通っていた。

 少なくとも、頭の中では。


「よし」


 王が短く言った。


「この作戦で行こう」


 胸の奥が、少しだけざわついた。

 でも、それを口に出す理由が見つからない。


 ――説明できている。

 そう、思っていた。


 *


 結果は、負けではなかった。


 だが、勝ちでもなかった。


「被害は軽微です」


 報告を受けた騎士団長の声は、淡々としている。


「こちらの損害は想定以下。

 魔王軍も深追いせず、撤退しました」


「戦果は?」


「……ありません」


 室内が、静まる。


「つまり」


 王が言う。


「何も得ていない」


 誰も反論しなかった。


 俺は、報告書を見つめていた。

 数字。位置。時間。


「……俺の説明が、間違ってました」


 思ったより、はっきり声が出た。


 視線が集まる。


「間違い、だと?」


「はい」


 言い直す。


「理屈は合ってた。

 でも……それだけでした」


 リシアが、こちらを見る。


「どういうこと?」


「魔王軍の行動は説明できた。

 “なぜ撤退するか”も」


 紙を置く。


「でも、“その説明をされた後、どう動くか”を

 考えていなかった」


 騎士団長が眉をひそめる。


「説明は正しかったはずだ」


「正しかったです」


 否定しない。


「だから、相手は――

 その通りに動きました」


 少し、言葉が詰まる。


「説明した時点で、

 俺たちは“次の手”を相手に渡した」


 沈黙。


 魔法師団長が、低く息を吐いた。


「……説明が、読まれた」


「はい」


 それが、一番近い。


「俺は、魔王軍の行動を説明した。

 でも同時に、

 “こちらがどう理解しているか”も示してしまった」


 王が、ゆっくり言う。


「つまり――」


「説明は、武器にもなります」


 俺は続けた。


「でも、使い方を間違えると、

 相手に渡ります」


 誰も、すぐには言葉を返さなかった。


「今回の敗因は?」


 王が聞く。


 俺は、少し考えてから答えた。


「説明しすぎました」


 はっきりと。


「全部、言葉にした。

 だから、全部、伝わった」


 リシアが、目を伏せる。


「……あなたのせいだとは、思わない」


「でも、俺の責任です」


 そこは譲れなかった。


「説明役として、

 “どこまで説明するか”を誤った」


 王が、席を立つ。


「では、次はどうする」


 一瞬、迷う。


 そして、答えた。


「次は――

 説明しません」


 室内が、ざわつく。


「説明役が?」


「はい」


 深呼吸する。


「説明できることと、

 説明するべきことは、違います」


 リシアが、小さく頷いた。


「……やっと、その段階に来たのね」


 俺は、少し苦笑した。


「遅すぎました」


 会議が終わり、人が出ていく。


 最後に残ったリシアが、言った。


「怖くない?」


「怖いです」


 正直に答える。


「説明しないと、

 俺は役に立たない気がする」


「それでも?」


「それでも」


 地図を見る。


「魔王軍は、

 “説明される前提”で動いている」


 顔を上げる。


「なら――

 説明しない動きが、一番の異物です」


 リシアは、しばらく俺を見てから言った。


「失敗しても?」


「……また、説明します」


 彼女は、静かに笑った。


「いいわ」


 扉へ向かいながら、言う。


「次は、相手の番ね」


 俺は、その言葉を噛みしめた。


 説明役が、説明をやめる。

 それが、どんな結果を呼ぶのか。


 まだ、説明できなかった。

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