第5話 説明役は、前に出ない
会議室は、広かった。
広いくせに、空気が重い。
長い机。
左右に並ぶ、騎士団長、魔法師団長、文官たち。
正面には、玉座ではなく、普通の椅子に座る王。
その端に、俺がいる。
「……場違いですね」
小声で言うと、リシアが即答した。
「いつものことよ」
慰めになっていない。
「では始めよう」
王が、手元の書類を閉じた。
「近頃、訓練の成果が出ている。
剣の命中率、魔法の安定性、いずれも改善した」
騎士団長が咳払いをする。
「事実です。
特に“視線”の指導は、全団に影響しました」
魔法師団長も頷いた。
「魔法の途中停止は、ほぼ解消されました。
……正直、理由が分かっていなかった」
全員の視線が、一斉に俺に向く。
胃が、少し重くなる。
「高瀬悠真」
王が呼んだ。
「そなたは、前に出て戦っていない。
剣も振らず、魔法も放っていない」
「はい」
「だが、結果は出ている」
王は、一拍置いた。
「この国に、今まで足りなかったものは何だと思う」
即答できる質問じゃない。
「……多分」
言葉を探す。
「能力、ではないです」
ざわ、と小さく音が立つ。
「皆さん、技術はあります。
才能も、努力も」
一人ひとりの顔を見る。
「でも、失敗した時に
“なぜ失敗したか”を、言葉にしていなかった」
文官の一人が眉を寄せる。
「反省はしている」
「してます」
頷く。
「でも、“気をつける”“集中する”“頑張る”で終わってた」
空気が、少し張る。
「それだと、次も同じ失敗をします」
リシアが静かに口を挟んだ。
「説明役が来てから、
失敗が“共有できる情報”に変わった」
「はい」
助け舟に感謝する。
「誰か一人の経験じゃなく、
全体で再現できる形になった」
騎士団長が腕を組む。
「つまり……
お前は戦力ではなく、補正か?」
「……近いです」
少し考える。
「でも、補正というより……
使い方、です」
王が口元を緩めた。
「不満か?」
「いえ」
首を振る。
「俺が前に出ると、
皆さんは“正解を聞く側”になる」
言葉を選ぶ。
「でも、それだと
自分で考えなくなる」
魔法師団長が低く唸った。
「……耳が痛い」
「説明は、使い捨てじゃないです」
俺は続けた。
「皆さん自身が、
説明できるようになるのが一番強い」
会議室が静まり返る。
王が、ゆっくり立ち上がった。
「高瀬悠真」
「はい」
「そなたを、前線に出すつもりはない」
内心、ほっとする。
「だが、会議には出てもらう」
「……会議?」
「作戦前、訓練後、失敗が起きた時。
必ず同席させる」
リシアが頷く。
「“説明役”を、王国の正式な役職にする」
一斉に視線が集まる。
「え、それ――」
「逃げ道はないわよ」
即、塞がれた。
王が言う。
「剣を振らぬ勇者もいる。
言葉で戦う者も、必要だ」
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
「……了解です」
そう答えるしかなかった。
会議が終わり、人が散っていく。
最後に残ったリシアが、俺を見る。
「どう?」
「胃が重いです」
正直な感想。
彼女は、小さく笑った。
「でも、逃げなかった」
「逃げ場、なかったですし」
「それでいいの」
立ち上がり、扉へ向かう。
「次は?」
俺が聞くと、リシアは振り返った。
「魔王軍よ」
一拍。
「……説明、通じますかね」
「通じないわ」
即答だった。
「魔王軍は、理由の分からない行動しかしない。
補給を断たずに撤退し、
勝てる戦場を、わざわざ捨てる」
「……それ、意味あります?」
「ない」
リシアは言い切った。
「だから、この国は負け続けてきた。
説明できなかったから」
俺は、無意識に息を止めていた。
「つまり――」
「あなたが必要なの」
逃げ場が、完全になくなった。
「……了解。
前には出ませんが、口は出します」
リシアは、それを聞いて静かに頷いた。
「それでいい。
魔王軍は、説明できないままじゃ、勝てない」
続きを書いていく予定です。
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