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第1話 説明役として召喚されました

はじめまして。

この作品は、戦えない主人公が「説明」だけで異世界に関わっていく物語です。


派手なバトルや最強スキルはありませんが、

「なぜ失敗しているのか」を言葉にすることで、

少しずつ世界が前に進んでいく、そんな話を書いています。


会話多め・テンポ重視で進める予定です。

更新を続けていくつもりなので、

気に入っていただけたら、ぜひ続きを読んでもらえると嬉しいです。


よろしくお願いします。

下校中だった。

横断歩道の白線を踏んだ、その瞬間。


足元が、光った。

反射とかじゃない。下から、噴き上がるみたいに。


「ちょ――」


言葉になる前に、世界が白くなる。

足の裏の感覚が消えた。落ちる、と思ったが、風も来ない。


次に見えたのは、天井だった。

やけに高い。石造りで、ひび割れがあって、――なんだか、線香みたいな甘い匂いがする。


「成功だ!」


誰かが叫んだ。


頭を起こす。体は……動く。制服のままだ。

視界の端に、赤い絨毯。目の前には、段差。その上に、椅子。


いや、椅子じゃない。玉座だ。


左右には鎧姿の兵士がずらっと並んでいる。

その奥。金色の冠をかぶった中年の男と、白いローブの老人。

そして――銀髪の少女が、じっとこっちを見ていた。


「……ここ、どこですか」


声が、思ったより乾いていた。


冠の男が、一歩前に出る。


「我らが王国、アルディアの大広間だ。そなたは勇者として召喚された」


「勇者?」


反射で聞き返してから、遅れて状況が追いつく。

いやいや。下校中だったんだけど。


老人が杖を床に鳴らした。


「鑑定を行う。名を」


「え、えっと……高瀬たかせ悠真ゆうまです」


フルネームを言うの、久しぶりな気がした。


杖の先に、水晶が浮かぶ。淡く光って、空中に文字みたいなものが並び始めた。

周囲の空気が、少しだけ張り詰める。


銀髪の少女が、半歩、距離を詰めた。

視線が、妙に刺さる。


「出ました、陛下」


老人が読み上げる。


「固有能力……『説明役』」


……ん?


広間の空気が、目に見えないのに冷えた気がした。


「……説明、役?」


王が眉をひそめる。


「攻撃魔法は」


老人は首を振った。


「適性、低。剣術適性、低。防御……並。身体能力、並」


並、って言われるの、地味に刺さる。


兵士の一人が、咳払いをした。


「では、勇者ではないのでは?」


少女が、そちらを睨む。


「黙りなさい。召喚陣は間違えない」


王は額を押さえ、ため息をついた。


「高瀬悠真。説明役とは何だ。戦えるのか」


「……たぶん、戦えません」


言ってから、逃げ道を塞いだ気がした。

でも、水晶が嘘をつくとも思えない。


老人が、少し言いづらそうに続ける。


「能力の詳細だが……

『この世界の仕組み・状況・因果関係を、正確に言語化できる』」


「言語化……」


王が、手を叩いた。


「その程度で魔王軍と戦えるか。困ったな」


「陛下」


銀髪の少女が口を挟む。


「試しましょう。能力は、使い方です」


老人も、少し考えてから頷いた。


「……よかろう。簡易試験だ」


兵士が小さな台を運び、水晶を置く。

老人が、いつものように呪文を唱え始めた。


「炎よ、集いて形を……」


ぱち、と空気が弾ける。

炎になりかけた何かが、煙みたいに散った。


「……む?」


もう一度。


「炎よ、集いて形を……」


また、失敗。


誰も何も言わない。

絨毯の匂いだけが、やけに鼻につく。


少女が言った。


「先生、詠唱が乱れてます」


「乱れておらん……はずだが」


その時だった。


「……あ」


気づいたら、声が出ていた。


全員が、こっちを見る。


「今の、途中で……引っかかってます」


「引っかかる?」


老人が聞き返す。


「えっと……詠唱の形は合ってるんですけど、最後の音で、力が……戻る。

あ、逆流、です。たぶん」


自分でも、言いながら確信が揺れる。


「息、吐くのが早いかも。最後……一瞬、止めた方が……」


言ってから、しまった、と思った。

俺、なんで分かるんだ。


老人は半信半疑のまま、詠唱をやり直す。

最後の一音で、呼吸を止めた。


「……炎よ、集いて形を成せ!」


ぼっ。


小さな火球が、生まれた。


「……出た」


誰かが呟く。

兵士たちがざわつく。


老人は杖を握り直し、俺を見る。


「なぜ分かる」


「……分かりません」


正直な答えだった。


ただ、見えた。

説明が、頭の中に流れ込んだだけだ。


少女が、また一歩近づく。


「説明役。あなた、戦えない代わりに……

“失敗の理由”が見えるのね」


「……たぶん」


王が、玉座から身を乗り出す。


「つまり、我らの弱点を――」


「埋められます」


少女が、先に言った。


「この国は、魔法も剣も、どこかで躓いている。

理由が分からない失敗が、多すぎる」


王は黙り込み、やがて言った。


「高瀬悠真。勇者とは呼べぬかもしれん。

だが……必要だ。協力してくれるか」


帰りたい。

でも、帰り方は誰も知らない。


「条件があります」


王が目を細める。


「申せ」


「俺、戦えません。

前線に出して、勇者っぽいこと、させないでください」


一拍。


「代わりに……口は出します」


少女が、小さく笑った。


「いいわ。あなたの役目は“説明”だもの」


老人も頷き、王が決断する。


「よい。口を出せ。存分にな」


その言葉が、なぜか、少しだけ心強かった。


少女が手を差し出す。


「私はリシア。王女よ。

あなたを使い潰したりしない。……ただし、逃げるのも許さない」


「……重い」


言ってから後悔したが、リシアは表情を変えない。


「この世界で、言葉は武器よ」


俺は、その手を握った。


「じゃあ……武器の扱い方、教えてください」


リシアは一瞬だけ目を瞬かせてから言った。


「まずは、この国がどこで失敗しているか。全部、説明して」


火球の残り香が漂う中、俺は頷いた。


「……了解。説明役、始めます」

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