『呼び声のない街にて』
掲載日:2025/12/31
とりあえず読んでみてください。
手を伸ばせば
届くはずのものを
わたしは いつからか
忘れていた
知っていた
それが そこにあることを
ただ 見ないふりをして
わたしは
わたしから
遠ざかっていた
誰にも届かぬ
声をあげながらも
わたしは いつしか
声を 失っていった
忘却は やさしい──
夢のような 仮面をかぶって
わたしを
誰かの残像に変えて
朝の光を
素通りさせていた
呼びかける人のいなくなった
この世界で
わたしは ふと
いつかの 自分の声を 聴いた
それは
霧の奥深くから
かすかに聴こえる
遠い 遠い
汽笛のようだった
わたしは 立ちどまり
その声のほうへ
歩きだした
そして
街灯さえない 路地裏で
わたしは
わたしに
還っていった
手を伸ばせば
届いたはずのもの──
この掌に
もう一度
もう
失わぬように
読んでくださった方々、ありがとうございました。




