【7】
「ーいらっしゃい…、あら」
美加の甘味処で休んでいると、啓太がやってきた。
「こんにちは」
「はい。こんにちは」
美加は朗らかに返したが、凛は一気に不機嫌になる。
「あんた…。茶館に居なさいよ」
「嫌だよ、ブス」
「この…!!」
凛の平手打ちを避け、啓太が美加に言う。
「お姉さんのこと、気に入っちゃった」
「え?」
美加がびっくりしたように言い、啓太に問う。
「本当に?」
「本当に。ねえ、結婚しない?」
「あのね…」
ここは私の出番だと思い、凛が身を乗り出した。しかし、雅巳のほうが早く、啓太に言う。
「婚約の話なら断っただろう。もうここには来るな」
「そんな…。姉さんも来たのに」
「は?」
雅巳が珍しい声を出した。確かに傘をさして、日焼けしないように麗は静かに歩いてくる。
「これはこれは、こんにちは。皆さん」
「断っただろう?」
もう一度、雅巳が強い口調で言う。しかし、麗は無視し、美加を見つめる。
「あら、綺麗な方。あなたの名前は?」
「私は関係ないので言いません」
バチバチと炎の音が聞こえそうな闘いだった。凛なんて、怖くて入れない。
「ここの甘味処は?」
「私の店ですけど、それが何か?」
笑っているが、目が怖い。麗も負けずに言い返す。
「そうなの。随分と庶民的な店ですわね」
「面倒ですもの。庶民の店として親しまれていますわ」
おほほと2人とも笑い合う。ヘビ同士のようで、凛は身震いする。
「何か、食べさせて」
場を壊したのは啓太だった。2人とも「ふん」と顔を背けたその時、清が馬に乗ってやってきた。
「大変だ、火事だ」
「どうしたの、お兄ちゃん」
汗をかいているので、心配になり、凛が聞いてみた。すると、清が声を荒げながら、言う。
「茶館が、茶館が燃えてるって」
「え?」
慌てたのは全員だった。慌てて清に詰め寄る。
「本当なの、お兄ちゃん」
「本当だ。今、消しに入っているから、ボヤですむと思うが…」
「早く戻りなさいよ」
「うん、じゃあね、お姉さん」
「待った、俺たちも行く」
「もちろん」
「馬を使え」
「麗さんたちは?」
「馬車で行くから大丈夫。行くわよ、啓太」
「うん。誰だ、火なんかつけたの」
一瞬にして、その場が慌ただしくなったのだった。