夏祭りとラムネ瓶
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―彼女視点
ある夏の日、私は帰省のため実家の田舎に帰ってきていた。
大学を出て、数年ぶりの帰省だ。
田舎道を歩いていると、数人の子供たちとすれ違った。
地元の子だろうか?
「ねぇ、りんご飴買おうよ!」
「えー、焼きそば食べたい」
「暑いからラムネ飲もうよ」
色々な声が聞こえてくる。
そういえば、この時季は夏祭りだったっけ。
そんな無邪気な子供たちの言葉に私は、昔彼いった夏祭りの事を思い出していた。
―――――
「ねぇ、どうかな?」と少し照れながら私は彼に質問をする。
「似合ってるよ」
そんな彼の反応を嬉しく思い、お祭りだから、と私はいつもより少しおしゃれをしてきて良かったなと思うと自然に笑みがこぼれた。
目の前の彼は少し照れたのか、少し目を逸らすと私の手を取って店をまわり始めた。
彼の行動に最初は少しドキドキしていたけれど、彼とまわるお祭りが楽しくて、次第に気にならなくなっていた。
「あ、りんご飴」
少し食べにくいけれど、真っ赤でキレイなんだよね。そう思っていると、彼が「買うの?」と聞いてきた。
悩んでいると、頭の上から「おい坊主、彼女に買ってやんな」とお店の人の声が聞えてきた。
その声に驚いたのか、「か、彼女じゃないですよ」と彼はいうと握っていた手を放してしまった。
私は少し脹れると「自分で買います」といい、そのまま飴を買った。
気を悪くしたのか、彼はその後手を繋ぐことはなく、私も特に繋ぐことはなくいろんなお店をまわった。
焼きそばを食べたり、金魚すくいをしたり、見てまわるうちに不機嫌だった気持ちはどこかへ行って、私は彼とのお祭りを楽しんでいた。
「あんたたち、これいるかい?」
祭りも終わりに近づき、帰ろうかと話していたそんな時、店のおばさんがラムネの瓶を2本差しだしてきた。
困惑する私たちを尻目に、ちょうど2本残ってたからね、なんて言っている。
嘘なんだろうな、と彼も同じことを思ったのか思わず顔を見合わせると、そのまま貰う事にした。
「美味しいね」冷たいラムネが暑く火照った身体に染みわたってゆくのを感じる。
「やっぱり暑い日には冷たいラムネだよな」
ちらりと横を見ると、もう飲み切ってしまったのだろう彼が、そんなことを言いながら瓶を眺めていた。
心地よい沈黙のなか、私たちはラムネの瓶を手で弄びつつ、夜風を浴びていた。
もう少しこうしていたいな、なんて思いつつふと横を見ると、彼が私の方を見ていた。
「何見てるの?」思わず口にすると、彼は慌てたように目を逸らすと「そろそろ帰るか」と返事をするのだった。
もう少しだけ、なんて言いたかったけれど、口には出さず、私は彼の手を握って帰りの道を歩くのだった。
―今度は彼が驚いても、握った手が離れない様に
―――――
「ラムネかぁ」
あの日の夏祭りもこんな暑い日だったっけと、懐かしくなった私は、ふと呟いていた。
私は駄菓子屋さんに向かうと、冷たい飲み物が入った棚から目的の物を探す。無かったらどうしようと思ったけれど、それを見つけた私は手に取ると、店のおばさんに声をかけた。
「おばさん、久しぶり」
「おや、久しぶりだね、ちょっと見ないうちにキレイになったんじゃない」
「そうかな?」
なんて会話をしつつ店を出る。いつまで経ってもおばさんの前では子供のままだと思っていたけれど、少しは成長していたらしい。
「やっぱり暑い日には冷たいラムネだよね」冷たいラムネが身体に染みわたるのを感じつつ、私は隣に向かって声をかける。
そんな彼女が去った後には、2本のラムネ瓶が寄り添うようにひっそりと残っていた。
―彼視点
ある夏の日、俺は帰省のため実家の田舎に帰ってきた。
何年ぶりだろうか、色々と理由をつけて暫く戻っていない気がする。
田舎道を歩いていると、目の前を男の子と女の子がすれ違った。
「ねぇ、りんご飴、買わない?」
「えー、焼きそば食べたい」
「もう、そればっかり」
「いいだろ、あ、でもラムネも良いな」
色々な声が聞こえてくる。
そういえば、この時季は夏祭りだったっけ。
ラムネ、という言葉に俺は、昔彼女といった夏祭りの事を思い出していた。
―――――
ドンドン
地元の小さなお祭り。活気だけは良い。
顔見知りのおじちゃんたちが、屋台を開いている。
「ねぇ、どうかな?」
照れたようにそう聞いてくるのは、幼なじみの女の子だ。
「似合ってるよ」
言葉に出していうのは恥ずかしいけれど、せっかく誘ったんだから、と少しいつもよりめかしこんだ彼女の様子にどぎまぎしながらも口にする。
そういうと彼女は嬉しそうにはにかんだ。僕は、彼女の手を取るとゆっくりと店を見てまわった。
「あ、りんご飴」そういうと彼女は一軒の屋台の前で止まった。
「買うの?」と僕は尋ねた。正直僕としては焼きそばとかタコ焼きとか、そういった物を食べたかったが。
そう思っていると「おい坊主、彼女に買ってやんな」と店の店主が言ってきた。
「か、彼女じゃないですよ」と焦って手を放す僕に対して、「自分で買います」少し不満げな様子の彼女が目に映った。
冷やかされたことで少し恥ずかしくなってしまった僕は、その後手を繋ぐことはなく、彼女とは並んで店を回った。
焼きそばを食べたり、金魚すくいをしたり、後半になるとりんご飴での一件は気が収まったのか、彼女も楽しそうに笑っていた。
祭りも終わりに近づき、帰ろうかと話していたそんな時
「あんたたち、これいるかい?」
とお店のおばちゃんがラムネの瓶を2本差しだしてきた。
「いいんですか?」と尋ねると、ちょうど2本残ってたからね、なんて答えてくれた。
小さい時から見てもらっているからなんとなくわかる。
絶対に嘘だろう、と
そんなことを彼女も思ったのだろう、口には出さずとも顔を合わせるとありがたく頂戴することにした。
「美味しいね」そんな彼女の声が聞こえる。
「やっぱり暑い日には冷たいラムネだよな」僕は空になったラムネの瓶を眺めながら返事をする。
僕らはラムネの瓶を手で弄びつつ、夜風を浴びていた。
沈黙が流れる。でもそれは決して嫌な沈黙ではなく、心地の良いものだった。
隣を見ると、屋台の灯りに照らされた彼女の横顔が見えた。
いつの間にか、僕は時間を忘れたままその横顔を眺めていた。
「何見てるの?」気が付くと彼女はこっちを見ていて、そう声をかけてきた。
そんな声に我に返った僕は、慌てて目を逸らすと「そろそろ帰るか」なんて返事をするのだった。
―――――
「ラムネか」
昔の記憶に想いを馳せていた俺は、ふと呟いていた。
懐かしくなった俺は記憶を頼りに駄菓子屋を探すと、ラムネを探す。昔と変わってないなーなんてそんな事を思いつつ。目的の物を見つけた俺はそれを手に取ると、店のおばちゃんに声をかけた。
「おばちゃん、これ頂戴」
「おや、久しぶりだね、あんたはいつまで経っても変わらないね」
「なんだよそれ」
「そういう所さ、たまにはあんたも帰ってきて顔見せなさいよ」
「分かったよ」
なんて会話をしつつ店を出る。いつまで経ってもおばちゃんの前では子供のままらしい。
「美味しいな」
俺は一気に飲み干すと、空を見上げる。
吹き抜ける風が、改めてあの日の祭りを思い出させる。
彼は大きく伸びをすると「帰るか、愛しのわが家へ」と言って歩きだした。
そんな彼が去った後、そこには3本のラムネの瓶が残っていた。
ひっそりと寄り添う2本の瓶と、それにもたれかかるようにもう1本。
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