96:感じたことのない倦怠感
「ジャック・オ・ランタン、私のことをよろしくね」
ボソッと言うように静かにジャック・オ・ランタンという名の炎魔法でボッと魔法を発動させ、私の周りをまわるようにふわふわと浮遊させる。
明るい森の中で、あまり効果がないことはわかっている。だけど、こうでもしておかないと、丸腰で襲われるに決まっている。
いざとなれば、この炎魔法に燃焼能力を追加して、もったいない気もするけど、丸焦げにさせてしまってもいいだろう。まぁ、極力は、水魔法で溺死させるつもりだけど。
さぁ、とりあえず、私が今できる防御はすべて張った。あとは、どこから攻撃してくるか。
こういうときって、たぶん、こちらから攻撃しに行くと、反撃されるのは目に見えていて、何もしないまま、向こうから攻撃してくるのを待つのがいいと思っている。
とりあえず、にらみ合いになるな。しびれを切らしてこっちから攻撃しないようにしないと。とりあえず、私は待つ。攻撃に向かってきたところを返り討ちにする。
……それか、先にアクアラインを這わせて、そこからアクアボールで包み、溺死を狙ってみる?……いや、無理だ。どれほど距離があるのかわからないうえに、外した時のリスクが大きいな。ここは無難に向こうから来るのを待とう。
にらみ合いはたぶん、15分くらい続いたと思う。しびれを切らしたであろうウルフ数体が私に向けて全速力で突っ込んでくる。
それでも、50メートルほど距離があったのが功を奏し、私の攻撃の準備をする時間が十分に取れた。魔法をイメージして出現させるなら、5秒もありゃ、どうにでもなる。
「アクアボール!」
正直、数体がまとまってこちらにとびかかってきている状態。1匹ずつなんてまともに対応できるわけもなく、確実性は下がるものの、道の幅いっぱい、そして、脇にある木の高さいっぱいまでの大きな球体を作り上げる。
もちろん、その球体に突っ込んでも抜け出さないほどの厚さで、包容力も粘性もイメージのおかげか今までに比べたら一番いい。ただ、魔力量を大きく使ってしまったのか、かなり負担がかかっているように感じる。
久々に感じる倦怠感。ちょっとまずいな。と思いながらも、魔力を供給し続け、アクアボールが弾けないように粘る。
今、これ、サイドから襲われたら、ひとたまりもないな。
おそらく、後ろのウルフは、獣道をたどってちょうど横から出てこられるはず。少し下がるか?……いや、このままでいい。いつでも私がセンターで輝くんだから。
何分くらい魔力を供給し続けていたのかはわからない。だけど、今までにやったことのないほどの大きさで魔力を供給し続けていたせいか、かなり体力も消耗してきている。
少し回復したいけど、私に回復できる技が何ひとつもないこと、魔力回復できるドリンクが私の手の中にないのが致命的すぎる。
ミスったな。これくらい余裕だからって、調子に乗らなかったらよかった。
「またあったな、嬢ちゃん」
後ろから聞こえる声に聞き覚えはある。この声は、たぶん、ルイスさん。
まるでヒーローみたいな登場の仕方だこと。
「とは言ってる暇もなさそうだな。ミネコちゃん、相当疲れてるみたいだけど、大丈夫かい?」
「大丈夫そうに見える?というか、無駄口をたたいてる暇がないのよ。悪いんだけど、あとでお金を払うから、魔力の回復薬か何かあればほしいんだけど。あれだけ大きな魔法技をしばらく使っているから、私自身がかなり疲弊してきているの」
「もちろんだ。この前の借りもある。チェイス、魔法をかけてやってくれ」
「ごめん。私にはそういう高度な技はできない。魔法技を使っている対象者に魔力回復をしようとすると、基本は爆発して、身がボロボロになるから。私が回復魔法をかけようとするなら、いったん、ミネコちゃんの魔法を解除してもらわないと」
「そうすると、ここ一帯、一斉に襲われるよ。私、どれだけの時間、こうやっているかわからないから、息絶えているものいれば、水魔法に突っ込んできたばっかりでぴんぴんと生きている者もいるから、危ないかもよ」
「だとするなら、即効ドリンクか?」
「だな。それを何本やったとしてもこの前の借りは返せねぇだろ」
なんというか、仲間思いの人たちだ。
そんなことを思っていると、ルイスさんが近づいてきて、ストローを口元に持ってきた。
「これで飲めるか?」
一瞬だけ視線を切って、ストローの先を見ると、栄養ドリンクサイズほどの瓶をルイスさんが持っていた。
「ありがと。これなら飲めるよ」
そういうと、ストローを加え、視線を水魔法でつながっている先に戻した後、一気に吸い込む。
味は何というか、栄養ドリンクそのまま。だけど、倦怠感はマシになった。グーっと持っていかれるような感覚になっていたのも少しだけましになる。




