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91:買い物

「その顔は思い出したようですね。あの時に書いてもらった紙は、少しでも恥ずかしくないようにと用意しているものです。お客様や人様に向けて出すときはこれにしなさい。と口酸っぱく言われたので、今じゃ間違うことはありませんけど」

「間違うことってことは、その紙よりも品質が悪いものもあるの?」

「はい。宿のお金を計算するときは、値段も半分くらいのものを使っているって聞いてます。色が違うので、すぐにわかりますし、その紙については、ほかのところだと、紙袋にしているところもあると聞きます」


 紙袋か。まぁ、そうだよね。パン屋さんでもらう紙袋があるもんね。

 書くための紙がないなんて思っていたけど、紙袋があるんだから、紙を作る技術はあるみたいね。


「両方ともギルドで買えるの?」

「はい。あと、ギルドでガラスペンも売っていますよ。いろんな種類があったと思います」


 それもいい情報だ。それじゃあ、納税するついでに行くとしますか。


「ありがとう、メイランちゃん。またこれで私もひとつ賢くなったよ。またなにかあればよろしくね」

「何もなくてもお待ちしてますよ。ミネコさんのためなら」


 なんだろう。ものすごくかわいいこと言ってくれる。一瞬で堕ちそうだよ私が。


 そんなことを思いながら、来た道を戻り、貿易ギルドのほうへと向かう。

 また少し冒険者ギルドのほうがあわただしいな。なんて思いながら、気にも留めず、のんびりとした足取りで貿易ギルドに入り、いつも通り、ルーイさんのところに。


「ミネコさん、こんにちは。今日はどうされました?」

「ルーイさん。ひとつお願いがあるの」


 なんとなくいたずらをしようと、わざと声を低く、小さくしてルーイさんのほうに顔を近づける。

 そうすると、ルーイさんもカウンターから少し身を乗り出すようにして、私のお願いを聞こうとする。ものすごく真剣な表情だ。思わず笑ってしまいそうになる。

 それでも、真顔を貫き、重たく口を開く。


「ここで紙とペンを売っているって聞いたんだけど、私にも売ってくれる?」


 そういうと、膝の力が抜けたのか、身体全体ががくんと落ちた。


「ミネコさん。そんなトーンで話されると、もっと重要なお願いかと思っちゃうじゃないですか。紙もペンも貿易ギルドでご用意していますよ」


 ずれたナースキャップを戻しながら私に言うルーイさん。少し呆れているところがあるのか、ばれないようにひとつため息をついた。

 こんなバカな私でごめんなさい。なんて思いながらも、ルーイさんと話をする。


「ご使用方法によって、推奨する紙の品質は変わります。もちろん、推奨する用途以外にも使えますので問題はありませんが、稀に用途との相性が合わない。なんてこともあります」


 なるほどねぇ。それなら、メイランちゃんの宿でも使っていると聞いた紙を使ってもいいかな。大したこだわりもなければ、使えるものは使っていきたいスタイル。いろいろ試したいところでもあるけど、まぁ、ルーイさんから提案されるものでいっか。この人が悪徳な人じゃないこともわかっているわけだし。


「ちなみに、ミネコさんはどのような用途で使おうとしていますか?」

「今日もね、広場で芸を披露したんですけど、終わった後に、ひとりの母親から、子どもと歌えるようになりたい。って言われたんですね。ただ、私が扱う音の魔法は私以外に人が使っちゃうと、失明や失聴の恐れがあるから、教えるわけにもいかないし、それなら、音無でも歌えるようになればいいじゃんと思って、私の歌を紙に書きだして、カードみたいにして配ろうかなって」

「なるほど。それなら、ある程度質が良くて、サイズも少し小さめのカードがいいかな。少しだけお待ちくださいね。サンプルを持ってきます」


 ルーイさんはそういうと、席を立って、奥へと引っ込んでいったかと思えば、すぐに何シュル会の紙をもって戻ってきた。


「おそらく、ミネコさんのご要望にあうのは、このサイズたちのどれかかなと思うんですが、どうでしょう」


 テーブルの上に並べられた数枚の紙は、どれも見た目は元の世界で言うA5サイズ。

 ただ、どれもわずかにサイズが違うみたいで、どれがいつも使っている半分のサイズなのかがわからない。

 参ったな。サイズは統一されている方がいいんだけど……。


「悩みますか?」

「一応ね。どれくらいのサイズが一番使いやすいかなって考えると、どれが一番ぴったりなんだろうって思ってしまって。できれば、サイズは統一した方がいいかなって思っているし、くしゃくしゃにならなかったら一番いいんだけど……」

「それだと、これですかね。サイズも一般的で、インクの乗りも十分ですし、滲みにくい、紙ですから、宿で使われることが多い紙ですね」


 もう、いろいろ考えているのもしんどいし、これに決めるか。


「それじゃあ、もうこれでいいや。カードにしては少し大きくなるかもしれないけど、一番使いやすそうだし」

「ありがとうございます。どれくらい用意しましょうか?」


 そうだな。とりあえず、50枚くらいかな。おそらくそんなに配らないとは思うけど、無くなったときのことが一番面倒だけど、様子見ってところかな。


「50枚お願いしていいですか?あと、書きやすいペンってありますか?」

「えぇ、そういうと思って、選んで持ってきています」


 さすがルーイさん。できる受付嬢は違うね~。なんて思いながら、差し出された3本のペンを見る。ボールペンや鉛筆といったものより、ガラスペンに近いか。ということは、インクもにじみそうだなぁ。なんて思いながらも、一本手に取る。

 ガラスというより持っている感じはプラスチックだ。それに、持った感覚もいい。これなら、疲れなさそう。


「全部一緒ですか?」

「細さが違うくらいですね。今は比較がしやすいように柄と細さはまったくかぶらないように持ってきています。組み合わせを言ってもらえたら、私も探してきます」


 そういうことか。それなら、お言葉に甘えて少しだけわがままを言わせてもらおうかな。

 とりあえず、柄に関しては、水色と黒のものを1本と、あとは、エレガントな薄いピンク色の花が散っているものがいいか。

 で、細さだけど、水色と黒のものは、歌詞を書きたいと思っているから、一番細いものがいいし、ピンクのほうは、サイン用にしたいから少し太めがいいかな。

 そして、選んだ2本の柄と細さを伝えると、ルーイさんはもう一度、奥に引っ込み、ペンを2本持ってきた。


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