83:朝の買い物
相変わらず夜明けと同時に鶏の鳴き声で起こされる。そろそろ慣れたころだけど、無理やり起こされている感が強くて、朝から少し機嫌が悪くなる。
今日の予定としたら、買い物をした後に、メイランちゃんの宿に行って、電灯のことを聞いてからいろいろ手配しようかな。
あと、今日もできれば、広場でライブがしたい。というか、パフォーマンス中に約束しちゃったから、さすがにやりたい。
ただ、ひとつ問題点があって、今日、昼から広場で公開処刑があるとか言っていた。それがいつ行われるかわからないから、私も、どれくらいの時間から始めようか悩む。
こう見ると、この世界では、罰金刑じゃなくて、鞭打ちの公開処刑が一般的なんだろうか?それに、この公開処刑を見る人なんてどれほどいるのかも気になる。
とりあえず、やることやって、広場に行って、時間が合えば見てみようか。
ということで、今日も今日とて野菜を売っているおばあさんのところへ。今日の野菜はどんなのだろうな。なんて思いながら少しウキウキしながら歩いていく。
「今日は一段とご機嫌さんだね。そんなに私の作る野菜が美味かったのか?」
「おはようございます。そりゃ、もうね。南瓜を使ってスープを作ったけど、クリーミーで美味しかったです。
「そうかい。さて。今日はどうする?栗もまだ残っておるし、昨日買ってもらった南瓜もキャベジもあるぞ」
そんな話をしながら、野菜を吟味。中には、芋系だと思う野菜もあるな。
これだけあれば、具だくさんのスープにしてもいいかもしれないな。いろいろ試しちゃおうか。
それに、栗も先に割ってくれているから、粒の大きさがわかりやすい。これだと、ペースト状にしてクッキーを挟んでもいいかもしれないな。あとで、パン屋のおばさんのところに行ってクッキーも買おうっと。
「今日はかなりの量を選ぶね」
「いろいろ試したいことがありますんで。あとは……南瓜も一玉貰おうかな」
そうして、私が持つ篭の中いっぱいに秋の野菜たちがたくさん入る。
「なら、銀貨6枚じゃな。また嬢ちゃんのためにいろいろ探さないといけないな。ええものばっかり買っていくよって」
「そりゃ、芸者ですし、食にはこだわりますから。そうじゃないと、生きている意味が半分ありませんよ」
「そういうところも好きじゃぞ。それじゃあ、ちょうどもらうな。また明日も来るかい?」
「たぶんね。その日暮らしだからどうなるかわからないけど」
「人間とはそういう生き物じゃからな」
おばあさんとそんな話をしながら、買い物を終わらせて、続いてパン屋さんに。今日も相変わらずいいにおいを垂れ流しながら営業中みたいね。
そんなにおいに誘われるようにして店内に。
ちょうど焼きあがったのか、パン屋の看板娘、テールちゃんが忙しそうに焼きたてのパンを所狭しに並べていた。
「あっ、ミネコちゃん、おはよー!今日はどんなパンが欲しいの?」
私の姿を見つけた瞬間、イヌが飛びかかってくるかのようにヒューンと寄ってきたテールちゃん。今日も今日とてかわいいね。
なんて思いながら、まだパンが入っている篭を上下に揺らす。
いつかは落とすんじゃないかとこちらがひやひやするけど、本人はまったく気にしてない様子で、私が余計に慌ててしまう。
まぁ、それに気づいたおばさんがテールちゃんを怒る。なんてシーンも時々ある。
「騒々しいと思ったらミネコちゃんが来ていたのね。テールも騒がしくするわけさ。またあんた、篭を上に下にしていたでしょ」
おばさんの指摘に、ギクッと身体をこわばらせるテールちゃん。隠し通したいことがばれると、態度が露骨に出るから見ていて面白い。
「はぁ。あんたねぇ。売り物を持ったままそんなことするんじゃないよ。落としてしまったらどうするんだい。次からそんなことしているのを見たら、黙ってお昼ご飯抜くからね」
さすがはお母さんというべきか。子供のしつけ方もわかっている。まぁ、それがあっているのかどうかはわからないけど、テールちゃんが小さく「はーい」と言ってうなだれている姿を見ていると、効果的なんだろうな。と思ってしまう。
「あっ、ごめんねミネコちゃん。みっともない姿を見せてしまって。この子ったら、ミネコさんがパンの感想を言ってくれるたびに、うれしくなっちゃうみたいでさ。今日も聞けるかなぁ。なんて言ってワクワクしているもんだからさ、今日も、つい、テンションが上がっちゃったんだろうね」
いろいろ読み取られているテールちゃんは、恥ずかしくなったのか、篭で顔を隠している。それもまたかわいいのよ。
そんな姿を見てから、ちゃんと目を見て「昨日のパンもおいしかったよ」と伝えると、もう、顔が真っ赤っか。
今に出も走ってどこかに行ってしまいそうなほど恥ずかしそうな表情でモジモジするテールちゃんは、もう平静を保っていられないだろうな。
ここはさくっと昼食用のパンとクッキーを買って、メイランちゃんの宿に向かうことにしよう。
「おばさん。今日のおすすめは?」
「新作をね、作ってみたんだよ。お代はいいから一度食べて味を教えてほしいのよ」
そういって差し出されたのは、見た目に関しては普通のパン。ただ、食パンにしては小さいし、ほかの菓子パンや総菜パンに比べたら少しい大きい。
「娘が『自信作だ!』なんて言って図面を見せてきてね。その通りに作ってみたら意外といいできでさ。常連のミネコちゃんに聞いてみようと思ってね」
「名前はね、5色パンって言うの。ひとつのパンで5個の味を楽しめるようにって」
「テールが食べたいだけだと思うんだけどね。たしかに、ひとつひとつのジャムやソースの量はそんなに多くないのよ。ただ、5つも入れちゃうから混ざっちゃうんじゃなかって思ってね。まだ試しでしかできていないけど、改善点があったら美食家のミネコちゃんなら教えてくれるかなって」
美食家って……誰がそんなことを言っているのよ。私は私が食べたいものを作って食べているだけだよ?それが美味しそうに見えるっていうのかな。
私が作るより、ほかの人が作るご飯のほうがおいしいと思うんだけどなぁ。なんて思いながらもおばさんから満面の笑みで5色パンを押し付けられ、これで、私は明日の朝もここに来る用事ができた。
まぁ、それくらいなら任されてみるか。と思い、10枚くらい紙袋に入ったクッキーを買ってから、いつも通り時間をかけ歩いてメイランちゃんの宿に向かう。




