80:感想が聞けた結果
子供向けのMCって難しいなぁ。なんて思いながら、結局いつもの簡単なMCになっちゃったけど、なんとか、しゃべり終えて、スマホを操作し、前奏を流す。
前奏を流しただけで、物珍しさか、私のMCも効いたのかわからないけど、じりじりと親子たちが近寄ってくるのを感じた。まだまだ遠いところはあるけど、うれしいところではあるね。これだと、もう少し話題性を含ませたいから、2番のところでプリンセスに登場してもらって、一緒に簡単な振り付けをしてもらおうか。それが一番いい気がする。
そんなことを考えながら歌っていると、子供たちが無理に手を引いてお母さんを連れてこようとする姿も見える。本当に子どもって好奇心旺盛よね。そういうところが今はありがたかったりする。
そして、サビを歌い、間奏に入ったところで、プリンセスを召喚。わぁ!と驚きの声が上がったのと同時に、少しおびえた表情をしている大人もいる。
どういう意味でおびえているのかわからないけど、何もしてこなければ、私だって、プリンセスを通じて何かするつもりはない。
私に危害を加えようなら、水魔法も炎魔法も両方駆使して返り討ちにするつもりでいるけどね。
そして、無事に歌い終えるときには、子供たちが5メートルほど先にまで近づいていた。
少しだけ手を振ると、恥ずかしそうに手を振り返してくれ、それが何人もほぼ同時だったから、私も少しなごんでしまった。
こんな姿を見てしまったら、次の曲に行かず、このまま終わってしまいたいと思ってしまう。
こりゃ、曲構成を間違えてしまったな。なんて思いながらも、どうするか悩んだ挙句、〈だから別れる前に〉という曲を披露することをやめて、ここでパフォーマンスを終わらせる。
「はい。今日はこれで終わりにしたいと思います。ありがとうございました。ぜひね、明日もここで芸を披露させていただくつもりでいますので、遊びに来ていただきたいなぁと思います。あとね、今日やった歌以外にも、ほかに準備をさせていただきます。今日はこれにて失礼します。芸者のミネコでした!ありがとうございました!」
簡単に挨拶を済ませ、いろんなところから銅貨や銀貨が投げられてくる。そのために少しだけ頭を下げ続け、ある程度止んだところで、頭を上げて、ベンチで帰る準備をする。
「おねえちゃん、すごいね。おうたじょうず」
いろいろ反省点を洗い出しながら片づけをしていると、小さな男の子が、私のパフォーマンスを見ていたのか、声をかけてきてくれた。
「ありがと。楽しかった?」
そう聞くと、男の子はこくんとうなずき「たのしかった」と言ってくれた。
小さい子でも、こうやって言ってくれるんだから、私もやってよかったなって思える。あと、子供向けの曲も入れておいてよかったな。それだけで空気が変わった気もした。あのまま、大人向けの曲をやっていたら、子供なんて振り向くわけもないし、大人だって、やかましいBGMとしかとらえてくれなかったと思うし。
「また私の歌、聞きたい?」
「うん。あしたもうたうんだよね?たのしみにしてるね」
子どもは良くも悪くも正直だ。言いたいことは、善悪つけずズバッと言ってくるものだから。そんなのがなくなるのは、いつからだろう。そんなことを考えている私が少しおろかになってしまった。
少なくとも、この子は子供向けの歌に惹かれていた。たぶん、私の歌声なんて関係なく、初めて聞く歌にただただ楽しかったのだろう。
それだけで私はほっとする。
男の子は言いたいことがいえたのは、少しだけ恥ずかしそうに手を振ってから、走って親元に駆けていく。そして、お母さんの足にギュッと抱き着くと、また恥ずかしそうに私を見てくる。視線を上げてお母さんのほうを見ると、丁寧にお辞儀をしてくれた。その姿を見て、私も慌てて立ち上がり、お辞儀を返す。
礼儀のいいお母さんだな。元居た世界は、成人男性が主な対象だったから、そういうことはなかったけど、こういうのもありだなって思ってしまった。
ある程度片づけが終わり、広場の方に目をやると、私が来る前の日常を取り戻していた。
たぶん、この街で芸者として生計を立てている人は少ないのかな。と思えるほど、芸者とすれ違ったり、場所の取り合いになったりというのがない。
私からしたらありがたい話なんだけど、なんていうか、少し寂しい気もする。
まぁ、冒険者としても、元居た世界の私としても、一匹狼状態の時間が長いから、こういうのには慣れているけど、なんというか、張り合いがなくて、成長が見込めないな。って思ってしまう。
このまま芸者として活動をするなら、いろいろと考えないといけないことがあるな。
これからのプランをどうしていくか考えないと。たぶん、このままだと、3日に一度のペースで冒険者の仕事をしなくちゃいけないことにもなりそう。
正直、投げ銭が全然飛んできていないのが実情。放浪雑技団の時のことを見たら、楽勝だと思っていたのに、やっぱり、世の中はそう甘くはないね。やっぱり、ルーイさんの言っていたことは当たっていたのかと思ってしまう。
まぁ、これは私が決めた道だし、ずっと突き進むつもりで入るけどね。




