79:子ども人気を考える
まるっきりこの前と同じ光景に。ご飯を食べた後はしばらくゆっくりして、広場の様子を伺う。
……今日はこのまま演出を変えて、ここからスタートしてみるか。
不思議な恰好をしていると思われているのか、ご飯を食べている子供たちの視線が刺さるように感じる。
こうもなれば、子供向けの曲を披露して、子供人気を得ることも考えるけど、生憎さま、私のスマホの中に、曲はいくつか入っているものの、覚えているものはほんのわずか。振り付けのことを考えると、いますぐにっていうのはむずかしいかな。
帰った後、子供向けの曲を急ピッチで3曲ほど覚えますか。
そんなことを思いながら、水魔法で手元を隠しながらスマホを操作して、今日パフォーマンスするつもりの曲を選び、順番を並び替える。
さて。どのタイミングでパフォーマンスを始めようかな。なんて思っていると、子供たちからの視線がまだ刺さる。
……こうなれば、子供たちの好奇な目を残念がらせるわけにはいかないよね。となると、少し曲順を入れ替えて、中に入っている曲で覚えているものを選んで歌おうか。
……あった。これしかないでしょ。
子供向けの曲と言えば〈たんぽぽ団に入ろう〉しかないじゃん。他に何かあるかな。
……あっ、なんでこんな曲が入っているんだろう。〈どんぐりころころ〉が。
まぁ、都合はいい。〈たんぽぽ団に入ろう〉に関しては、季節が真逆な気もするけど、それは仕方ない。子供向けの曲を選ぶならそうするしかないんだから。
あとは、この音楽でどれだけの子供が食いついてくれるか。かな。でも、おとといパフォーマンスしたときは、物珍しさで食いついている人が多かった。今回ももしかしたら物珍しさで食いつくだけになるかな。なんて思いながらも、ゆっくりと準備を進める。
正直、今は物珍しさで食いついてくれるくらいでいいかな。物珍しさからファンを獲得できれば一番いい。
以前見た、放浪雑技団の物珍しさもあるだろうけど、こちらも負けてはいない。パフォーマンス能力自体は私の方が上だと思っているし。
あれから放浪雑技団の姿は見ていない。広い世界なのか、いろんなところを旅しているのかわからないけど、こうもなれば、私の独断場だ。放浪雑技団のことなんて忘れさせるようなパフォーマンスをしようよ。
そう思うと、この前は流さなかった私の登場曲を流し、ゆっくりと立ち上がる。そして、曲が終わると同時に、周囲にいる人に声をかける。
「皆さんこんにちわ!芸者のミネコと言います!おとといにここで芸を披露させていただきました!覚えている方もいらっしゃいますかね?そうじゃない人も楽しめるように頑張りますので、短い時間ではありますがよろしくお願いします!」
挨拶もほどほどにして、どれくらいの人が私に向いてくれるのかをはかるために、いきなりだけど、この前披露した〈最終論争〉をぶち込んでみる。
この曲だけなぜか反応が良かったんだよね。なぜかわからないけど。
少しだけ注目度を上げるために、ラストは水のプリンセスに振り付けを託してみるか。意外と面白いことになりそうだな。と思いながら、曲を進め、ラストサビに入る直前で水のプリンセスを魔法で召喚。
その瞬間、いろんな視線がプリンセスに刺さったことはわかった。
サイズも、私より一回り大きくしただけだから、私のほうがかすむ。それに、私がしゃがみながら祈っている様子も振り付けの中にいれているから、遠くから見れば私よりもプリンセスが目立つのは必須だろう。
そこから、ラストサビを歌い切ると同時に、プリンセスに手を振らせて、私の手に吸い込ませるように戻ってもらう。
そこまですると、周りから歓声が上がって、私も少しだけ気分が高ぶった。
そして、そこからあっという間に2曲披露し、子供たちが難しい曲ばかりで飽き始めているな。と感じてから、子供向けの曲として〈どんぐりころころ〉を流し始める。
今までの激しいロック調の曲から、いきなり童謡の優しい音楽に切り替わり、子供たちが変化に気づいたのか、そろりそろりと近寄ってくる。
だけど、まだまだ遠くで見ている感じだな。でも、ある程度近寄ってきてくれているなら、それだけで進歩かな。
どんぐりころころ どんぶりこ
お池にはまってさぁ大変
どじょうが出てきてこんにちは
坊ちゃん一緒に遊びましょう
ちゃんと『坊ちゃん一緒に遊びましょう』のところで、子供を手招きしてみる。
すると、少しうれしかったのか、遊べると思ったのかわからないけど、何人かの子供が母親の手を引いて近寄ってきた。
童謡なら意外と受けがいいな。童謡に切り替えた瞬間、母親も興味を引いたのか、私のほうを見ていたし。
これなら、もう少し歌える童謡を増やした方がいいな。で、飴と鞭じゃないけど、子供用の日と大人用の日を分けてもいいかもしれない。あとは、夕方や夜のパフォーマンスを増やしたり。
夜だと、酔っ払いが多そうだから、いろいろ気をつけなきゃいけないことになりそうだけど、芸者として生きていくなら、夜の楽しみとして私のパフォーマンスを見せつける。そんなことも考えたほうがいいか。
とりあえず、これを歌い切って、もう一つの曲、〈たんぽぽ団に入ろう〉も歌うか。
「はい、そろそろ終了に近づいていますけど、みなさん、楽しんでいただけてます?」
そういったところで、まだ様子見なのはわかっているから、声が返ってこなくても気にしない。それより、最後を締めないとさすがにダサいから、いい感じで終わらせるつもりで入る。
「前回同様、私が急に始めさせていただいていますが、今日はね、お子様も近くまで寄っていただいて、少し心が温かいなぁ、なんて思っていますけど、次の曲もね、お子様向けの曲を歌って終わろうかななんて思っています。よかったらね、近寄りにくいところはあるかもしれませんけど、私、怪しいものじゃないんで、ぜひ、近くで私の歌声を聞いてもらって、楽しんでいただければなぁなんて思っています。それでは、次の曲に行かせてもらいます。〈たんぽぽ団に入ろう〉」




