77.練習
まぁ、堪能するのはワンプレートだけでいいわけで、残っていたランチというから、量はあまりないかと思ったけど、そんなこともなかった。逆に、残っているものをすべて押し付けようかというような勢いで、プレートに盛られていた。
すぐにおなかいっぱいになるわけで、朝から動き続けていた分、満腹で少し眠たくなる。
だけど、こんなところで寝たら絶対に失礼だよね。なんて思ったから、ちゃんとお金を払って、自分の家まで眠気覚ましのかわりとして歩く。
さすがに、陽は前にいた世界と同じのようで、傾く時間が徐々に早くなってきている。まぁ、さすがに体感だけどね。それでも、家に帰ってスマホを確認すれば、時間は確認できる。さすがに、詳しい時間と日付に関しては、この世界に飛ばされてから狂って正確な時間を刻んでくれていないけど。
そこからだいたい30分くらい、いつも通り歩いて、自宅に帰る。
さすがに昨日の今日で私の家に泥棒が入るなんて命知らずなことをする人はいないみたいで、初めて平和な時間を過ごすことができた。
そして、夜ご飯も、昨日買っていた野菜の残りを使って、簡単に炒め物を作る。油がないからどうなるかなと思ったけど、あえて買っていた生のレッドウルフのブロック肉を薄くスライスして炒めたら、意外と油が出てきたからそれで賄った。
レッドウルフの肉から染み出た油は意外と癖がなく、使いやすいなという印象を持った。
これ、貿易ギルドに言ったら、レッドウルフの肉から作った油なんて売っているのかな?個人的にはサラダ油とかゴマ油のほうがありがたいんだけど……。
一応、市場でオリーブオイルに近い香りがしたルーヒッシュ油となるものは手に入れたけど、まぁ、一本当たりの値段が高くて、あまり使えないというのが現状なんだよね。だから、なんとかして、値段の安い普段使いできる油が欲しいところ。
一番は、野菜がほぼ日常で手に入る環境が欲しいところなんだけどね……。
そんなことを思いながら、食事をし、家事をして、ゆっくりとストレッチをした後、スマホとスピッカを使って、振り付けの確認をする。
さすがに、一日サボると、身体がガッチガチに動かなくなるしね。それに、この世界にいれば、自発的に体を動かそうとしないと、私の職業柄、まったく動かない日もあるわけで、ぷーちゃんになっていけば、さらに動けなくなるし、魅力がなくなって、仕事を失いかねない。体型維持のために、少しハードなダンスもするよ。
とりあえず、明日は広場でパフォーマンスの日にしよう。
で、パフォーマンスする曲は、昨日と一緒でいいかな。まぁ、スタミナに余裕があれば、もう1曲追加して、ちょっとでも長い時間パフォーマンスできたらいいなぁ。なんて思いながら、追加の1曲を選曲する。
正直言って、追加の1曲をどうしようか悩む。
バラードの曲もいいなぁ。なんて思うけど、動きがある曲も欲しいなんて思う。
……あっ、そっか。そうすればいいのか。
今からでも炎の龍を何か別のものに変えられる?もしそれができるなら、バラードを入れてもいいかななんて思ったけど、炎の龍を騎士に変えるより、水の蛇を女神に変えたほうがきれいか。
炎の騎士と熱く相まみれるよりは、多少、百合に見えたとしても、断然水の女神と相まみえるほうがマシなはずだ。
なにより、考えているのは、女性目線で少し切ない曲。水の女神を演出で出現させた方がきれいなのは確かだ。
それなら、明日の演目は決まったも同然。あとは、練習して、水の女神を制御できるように少しだけ裏で練習しようっと。
なんだか、いろいろできることを増やして、私のことを知ってほしい。
あわよくば、どこかの劇場かライブハウスを借りて盛大にライブをしたいな。なんて。
たぶん、この世界にライブハウスなんていう概念はないんだろうけど、そういうところを作ってもいいかもなぁ。なんて、いろいろなことが頭をよぎっては消えていく。
とりあえず、今の私にできることをしていこうか。
そう思うと、玄関を出て裏庭に回り、水の女神を作り出す。
……なんていうか、私の想像している女神って、自由の女神像に似ている気もする。だけど、なんか、もう少し美人な女神の姿にならないものか。それなら、もっと歓声が上がると思うんだけどなぁ。
こういうときに、スマホが使えたら、イメージだってつけやすいのに、なんだか、不便な世界だよね。……うん?待って。そういえば、私のスマホの中に入っている写真で、昔、ジャケット写真の撮影をしていた時、個人で写真を元メンバーに撮ったな。そのデータがまだ残っているはず。それをイメージできれば、完璧だと思う。
そう思うと、家に戻り、スマホを操作。……あった。懐かしいな。たぶん、3年前とかそんなものでしょ。若いよね。このころの私。
そんなことを思いながら、自分の写真を記憶にインプット。そしてまた外に出て、練習のために、私の姿を思い出しながらその場で水の女神を召喚させてみる。
「アクアドール」
そうやって召喚させた私の身代わり兼水の女神。
……アイドル衣装というのが少しナンセンスなところになるな。これなら、もう少しましな写真を探してみるか。ほかにもいい女神の写真がありそうなんだよなぁ。なんて思いながら、また家に戻り、スマホを見て、写真を覚えて、裏庭で女神を召喚させてみる。
なんてことを数回繰り返した後、ようやく満足のいく姿を作り出すことができた。
しかも、かなり美人で、ちょっと妬いちゃうくらい。
あと、しいていうなら、女神というより、プリンセスって感じ。でも、これくらいの淡麗さを備えていたら、私だってがぜんやる気が上がる。
あとは、このプリンセスを自由自在に動かせるようにするだけ。
それに関しては、このまま曲を練習していって、いろいろ想像しながら躍らせたりしたらいいだけ。何の問題はない。
ひとつ気になることがあるとするなら、私の家にかかる幽霊騒ぎに加えて、お姫様騒ぎが起きないかどうか。その心配をしなきゃいけないだろうけど、まぁ、どうにかなるか。
そんなことを思いながら、水のプリンセスを見ながら、どんな構成にするか考えた。




