72.討伐開始
そして、そこまで深くないところだけど、少し進むごとに音が大きくなる。ちょっと嫌だな。音から戦況がわかるわけないけど、ギルドで聞いているユイナさんの話しから考慮して、かなり不利な状況なんじゃないかなと思う。
わたしは、この前と同じようにして、草むらに身体を隠して様子を見るか。
で、できれば、近くに寄ってくるウルフから倒していきたいな。あわよくばって感じだけど。
慎重に進んでいくと、途中でウルフが背を向けて『グルル』とうなっていた。
どうやら、草むらに隠れている私のことには気づいていないみたいね。それなら、サクッと水魔法を使って倒しますか。
「アクアライン」
もう、私の中ではおなじみになりつつあるけど、それほど使いやすい技のひとつ。この技がなくなれば、私の技構成は一気に弱くなるだろうな。なんて思いながら、クラウチングスタートのような体制で待っているレッドウルフの後ろを狙って水の糸を伸ばしていく。
そして、その水の糸は、ウルフに気づかれることなく、足元まで到達していた。
「アクアボール」
後ろから卑怯かもしれないけど、アクアボールでウルフを包み込み、ジタバタするウルフを抑え込む。
暴れるたびにゴボゴボと吐いた息が泡となり、水中に溶けていく。
泡が激しくなるのに比例して、ウルフも呼吸ができなくて苦しいのか、動きも激しくなる。
もちろん、息継ぎなんてさせるわけがない。息継ぎをさせると、倒すまでに余計な時間がかかるわけだから、やる意味がない。
それに、ここで時間をかけるのも違う。
私としては、サクッと終わらせてさっさと帰りたいというのもある。じっくり戦っている時間はない。
これが単独ならば、フグで遊ぶイルカのように、私もレッドウルフに息継ぎをさせて苦しませて弄ぶだろうけど、さすがに数が50匹もいると、そんなに遊んでいる暇はない。
とりあえず、いろいろ考えているうちにアクアボールに包まれたレッドウルフはおとなしくなった。もう少しだけこのまま閉じ込めて確実に息の根を止めてからもう少しだけ進もうか。
それにしても、本当にすぐのところだな。ほったらかしにしていると、森から出てくるかもしれないって言うのもあり得るな。
ただ、これほど森の入り口から浅いところでレッドウルフが見えたら、対峙している冒険者の姿も見えるはず。なのに、対峙する音は聞こえるものの、肝心な姿が見えない。これだけ音がしているのに姿が見えないということは、もう少し奥で戦っているのか?
それにしては、大きな音だという気もするんだけど、それほど数がいるのか?
だとしても、50匹は分担すればすぐに終わると思う。ここに氷魔法を使うことができるウェルメンさんがいれば、もっと楽に倒せるんだけどなぁ。なんて思いながらも、ゆっくりと近づく。
慎重に近づいていくと、私がウルフを倒したあたりからそう遠くはないところでいくつかのグループがレッドウルフと対峙している姿が確認できた。
ただ、やっぱり、パーティごとに動いているのか、連携はバラバラ。近距離が得意、遠距離が得意とかあるんだろうけど、傍から見ると、隙が多いな。不思議な連携で襲われていないだけなんだろう。
とりあえず、私も一番近くにいるウルフから一匹ずつ静かに倒していこうか。
そう思うと、さっきと同じように、一本のラインを一番近くにいるレッドウルフの足元に向けて伸ばしていき、足元に到達した瞬間に右足を魔法で巻き付け動きを取れなくした後、アクアボールで包み込む。
そして、暴れるウルフをじっと見つめて、動きがなくなったことと、泡がなくなったことを確認してから、魔法を解除。これで、ウルフを倒すのは完了。といっても、まだまだいるわけだから、油断はできないんだけどね。
そんなことを思っていると、異変に気付いたのか、一匹のウルフがあたりを見まわしはじめ、どうやら、においも嗅いでいるみたい。
肉食の獣って、目が悪いけど嗅覚が鋭いなんてきいたことがある。このレッドウルフも同じなのだろうか?だとしたら、私が気づかれなかったのはなんでだろう?それが気になるけど、とりあえず気にしないで、同じ技をあのウルフにもかけてみるか。
なんて思いつつ、溺死させては、気づかれかけ、またラインで足元を不自由にさせてはアクアボールで包み込み溺死させ、その隣のウルフに気づかれかけては……というのをたぶん、10匹くらい続けて溺死させていたのかな。
すると、あまり見えていなかった隙間が大きくなってきて、だんだんと、道の奥の方が開けてきた。
思った通りというべきか、統制が取れていないのは冒険者のほうか。レッドウルフの群れのほうが、統制が取れているようにも見える。
とりあえず、私はもう少しここで静観かな。ここで、寄ってくるウルフを溺死させながら、もう少し様子を見る。といっても、たぶん、何人いるかわからないけど、まったくウルフを倒せていないところを見ると、早々に手を差し伸べたほうがいいのかとも思ってしまう。
それでも、もう少しここから様子を見よう。なにかしらの策があるかもしれないし、あとから来た私が出しゃばるところじゃない。
そんなことを思いながら、後ろに警戒しつつ、どういう動きをするのかを見ていた。




