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70.悪い魔法使い

「叫んだり動いたりすると知らないよ。この子たち、おなかをすかせているから」

「あんた、なにもんだ」


 男は何とかして声を絞り出した。まぁ、蛇は軽く巻き付いているだけだから、呼吸はできると思う。ただ、舌が頬に触れているのか、恐怖のどん底にいることだろう。なんて思いながら、この馬鹿親子をさらに恐怖の底へと落とそうかと考える。


「そうね。一言でいうなら、この家の家主ってところかしら。この子たちの住処でもあるのよね。今まで若くておいしい人間を何人食べてきたことか」


 ふざけてそういうと、まぁ、面白いくらいに青い顔をする親子。今の時点で生きている心地はしていないだろう。

 だけど、私の家を興味本位で覗こうとした罰よね。

 とりあえず、この状態を保持して、気絶してくれるなら一番なんだけど、まぁ、そう簡単にいくわけがないよね。

 なんて思いつつも、男に巻き付いている蛇に首筋をひとなめさせる。

 まぁ、魔法と言っても、水なわけだし、結構な冷たさのはず。それに、秋口だしね。


 男は、首筋が濡れたことに気づいたのか、本物の蛇だと勘違いしたようで、ガタガタと体を震わせ始めた。

 そして、無理に振りほどこうとしているのか、よけいじたばたしはじめたし、攻撃しても、自分の体を痛めつけるだけなのになぁ。なんて思いながら、男が暴れる姿を見ていた。


「ぼくたち、よ~く見ておきなよ。悪いことをしようとすると、こうやって苦しむのよ」


 気分的には、悪い魔女のようにも見えてしまうだろうけど、こうなってしまえば、どうだっていい。いろいろな噂を撒いてもらって近寄らせないようにしてもらえるんだったら、それでいい。

 腰を抜かしている子供には残酷だろうけど、こういうのをしっかりと教えないといけない。

 そう思い、子供のほうをギッとにらむ。

 すると、腰に掛けたアイテム袋から、私が持っているものと似ている髪飾りとネックレスが落ちかけていた。


「ねぇ、それ、どうするつもり?もしかした、この子たちの住処から盗ったの?正直に言わないと、この人、どうなっても知らないよ?」


 間違いない。青と紫のグラデーションをした蝶の髪飾りと、三日月の中に蝶が入っているネックレス。見間違うわけがない。

 普段のライブならつけている代物。今日は、どういう反応をされるのかわからなかったからつけなかっただけ。

 ただ、髪を振り乱して踊るのは、ちょっと息が詰まる感じがして、明日からは髪飾りをつけるつもりでいた。

 ネックレスは、衣装のきらびやかさをつけるためにつけていたもの。ライブハウスでライブをするとなると、場内がキラキラしすぎていて、たまに、私が負けてしまうときもあって、衣装もそんなに変えられないから、ネックレスでキラキラさせていた。というのもある。まぁ、簡単に言えば、私をキラキラ輝かせるために着けていたってだけ。

 その両方は、私がソロ活動を始めたときからずっと使っているもので、それを盗まれるなんて、「返してもらったね、それじゃあ、おとがめなしね」なんて行くわけがない。

 ここはしっかりと、いろいろ罪として償ってもらいましょうか。

 それに、結構な騒ぎになっているから、近くの門から守衛の人や昨日の近衛兵、ギルドからも誰かしら来るんじゃないかなって思っている。

 ただ、聞きたいことはたくさんある。だから、誰かしら来る前に、何とかして自白させたいっていうのが、少し焦りにある。


「エレン、あの子のところ行く?」


 わざとらしく右頬の近くにいる水の蛇に聞いてみる。

 もちろん、この蛇を動かすのは私の意思。こくんと頭を動かして、舌をシャーと出して威嚇する。

 そして、アイテム袋を落としている男の子のほうにゆっくりと蛇を持っていく。

 まぁ、もちろん、男の子は、最初から腰を抜かしていて、動くことなんてできず、挙句の果てには、ズボンと地面を濡らしていた。

 傍から見たら、私がいじめているようにも見えるけど、そうでもしないと、ビビらせることはできない。

 そんなとき、視界の端に誰かがくるのがわかった。

 タイミングが悪いなぁ。昨日の近衛兵のような感じがする。

 たぶん、騒ぎに気づいて駆けつけてきたのだろう。

 ここでネックレスと髪飾りが盗られていることに気づかれると、いろいろ説明するのが面倒だ。私のお金が入ったアイテム袋と入れ替えて、あの2つを取り戻そうか。


「エレン、私の考えは気づいてくれているよね?行ってきて」


 水の蛇に簡易的に名前を付けて動かして、私の腰からアイテム袋をするっとほどき、隠しながら子供の方に向かわせ、こちからこぼれ落ちている私の装飾品を回収させて、戻らせてくる。

 ……よし。これで回収完了。とりあえず、泥棒の痕跡は残している。警察につれて行ってもらえたらそれでいいだろう。

 なんて思いながら、近衛兵が近づいてくるのを待った。


「何をしているのですか?」


 私たちからだいたい5メートルほどの距離まで来た時、ようやく声をかけてきた。

 その時には、私の首元にエレンはしれっと戻って来て、姿が見えるようにしている。


「私の家に誰か知らない人がいたので、なにをしているのか問いただしていただけです。あと、私の私物を盗んでいたので、逮捕してもらっていいですか?あの子供の腰にあるアイテム袋、私のものですので」


 さらっと近衛兵に事実を伝えて、さっさと連行していってほしいところなんだけど、まぁ、腰を抜かしている子供もいて、いつの間にか、女の方も腰を抜かしていたせいで、近衛兵の応援が来るまで私もいろいろと事情聴取をされる。

 とはいうものの、私がこの親子に対していろいろ暴行を働いていたという疑惑が出ていたため。

 もちろん、そんなことはなく、事情を説明すると、解放してくれたんだけど、まぁ、何度も同じことを言ったか。小一時間、話しをして、応援の近衛兵が来た時にようやく解放されるという無能っぷり。

 そこから、私のアイテム袋を持っていたということで、親子は無様な姿のまま近衛兵につれられてどこかに行った。

 ようやくひと段落ってところかな。

 もうすっかり夜も更けてしまったな。せっかく早めにご飯を作れるかなと思ったんだけどなぁ。なんて思いながら、少し疲労を感じながら家に入り、自分の晩御飯を作っていく。


 これからこういう馬鹿な人たちが増えるのかな。そのたびに私がこうやって対応するのも面倒くさい。

 やっぱりなにかしら対策を取った方がいいのかな。明日、貿易ギルドに行って相談でもしてみようかな。

 最悪、カトレアさんに相談して、引っ越しも考えようか。

 とりあえず、今日は無駄に疲れたな。早くご飯にして、お風呂入って寝るか。

 そんなことを思いながら舵を終わらせ、アイドル衣装を魔法で洗濯して、寝室に部屋干しをしてからベッドイン。

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