68.夕食の買い物
とりあえず、いつも食べている焼き鳥は今日はパス。市場でちらっと野菜が売ってあるのを見つけたのよね。今まで行っていなかった場所に。とりあえず、そこに行って、スープを作って食べたい。
とはいっても、鶏を煮込んだブイヨンに野菜を入れるだけになるだろうけど。それか、そのまま刻み、魔力で水洗いしてそのままサラダでもいいかな。
あ~。それなら、オヤジの味が濃い焼き鳥で口の寂しさを紛らわせたらいいのか。それなら、味の薄い食事からは多少なりとも解放されるだろう。
となると、やっぱり、この前のパン屋さんと同様、急いで買いに行こう。悩んでいるうちになくなりでもしたら私の今日の楽しみがなくなっちゃう。
そんなことを思いつつ、アイテム袋を貨幣にかぶせ、扉を閉じた後、急いで階段を降りて買い物に小走りで出かける。
久しぶりに小走りをしているけど、楽しみなんだから仕方ない。それより、早くいかないと、売り切れていたらショックで立ち直れなくなりそうだし。
優先順位的に、焼鳥屋のオヤジのところは後回しでも構わないだろう。
美味なんだが、まぁ、準備している数が多いから、早々に売り切れることはない。
やっぱり、野菜だ。さっぱりしたものがやっぱり食べたい。さすがに、メイランちゃんの宿でも、サラダは多少なりともあったけど、やっぱり、量は私が食べたい分の何分の1にしかなっていなかった。
まぁ、冒険者を相手に寝床を提供しているわけなんだから、疲れた体にがっつり食べて、体力回復した!そういうのが口コミを呼ぶんだろうから、私が大きな口で、サラダもっとちょうだい!なんていったところで、私の意見が反映されることはない。
となると、やっぱり、野菜を売っているお店を独自に探して、その日の新鮮なものを買う方法しかないよね。
そうなってくると、やっぱり、ねらい目は朝。
朝のうちに買い物を済ませて、食糧庫に保管してから、仕事をするってやり方しかないかな。なんて思っている。
まぁ、予定に関しては、その日暮らしになりそうな私だから、思い立ったが吉日って言うわけじゃないけど、それに似た形になるんだろうなぁ。
そんなこんなで、30分の道のりを少し急いで20分で到着。
そして、朝見つけた八百屋って言っていいのかな。お店に向かう。
……よかった。まだある。それに、種類もまだ何種類も残っている。
「いらっしゃい。店じまいが近いから、安くしとくよ。あと、欲しいのがあれば、これに入れな」
そういって、サラダボウルくらいの籠を投げ渡される。そして、「私は知らん」といった表情でそっぽを向いた。
どうやら、好きに触って比べていいみたい。それなら、質のいいものを自分で選べるからありがたい。粗悪品を売りつけられたら、私はすぐに逃げると思うし。
そんなことを思いつつ、そっと野菜たちに触れてみる。……やっぱり生鮮食品だ。明日には売れないから、こうやって安くするんだろうな。
それは、やっぱり、日本でも同じこと。なんとなく安心するな。そう思いながら、サラダになりそうな野菜を次々に籠へ入れていく。
「それじゃあ、これを」
そういって、店主のおばあさんに渡すと、「あんたも見る目があるね」なんていって、野菜を優しく堅い順に紙袋の中に入れてくれる。
「銀貨4枚だけど、2枚でええぞ。タイムセールじゃ」
それなら、お言葉に甘えよう。もう、この世界の人たちに、遠慮をしていると、頑なに自分が言ったことを曲げないのもわかった。
アルテーノさんや、焼鳥屋のオヤジがそうよね。
「はい、ありがとね」
銀貨2枚と野菜の入った袋を交換すると、私はお礼を言って、パン屋さんへと向かって歩き出す。
ちょうどこの辺りは、ギルドに近いところなんだけど、パン屋さんはその反対。方角で言えば、メイランちゃんの宿がある近くになるのかな。
まだ私の頭の中で地図が出来上がってないから、どの辺かっていうのは、自分の足で迷子にならないとどうもわからないんだよね。
元の世界にいるときは、スマホの地図アプリで見たり聞いたりしながらライブハウスや会場に行っていたけど、さすがに通信という概念がないこの世界で地図アプリを使うことができない。
本当に、元の世界に慣れすぎたのか、今のこの世界が生きにくいと感じるときがこういうところ。まぁ、文明の力なんだろうけどさ。こういうのも魔力でどうにかならないものかと思ってしまう。
とりあえず、昨日は買うことができなかったパン屋さんに着いて、中を覗くと、まだいくつか残っているみたい。……ということはまだ開いているってことでいいよね。
そんなことを思いながらも中に入ると、ついさっきまでパンを焼いていたのか、いい香りが微かに残っていた。
「あら、ミネコちゃん、いらっしゃい。最近、姿を見ないからどうしたのかと思っていたけど、元気だったかい?」
「いろいろあったんでね。昨日もちょっと夜遅かったけど、食べたいなぁと思っていたら、売り切れちゃっていたみたいで、閉まっていたから、今日こそはって感じだったんだ。なんとかまだ残っていてくれてよかったよ。おばさんたちは早く閉めたいだろうけど」
「そんなことないよ。私らはいつも食べてくれるお客さんの顔が見たいだけだからさ。早く売り切れてしまったら、さすがに私たちもちょっと考えるさ。今日に関しては、昼から売り上げが良かったから、追加で焼いたくらいさ。まだ香りが残っているだろ?良くも悪くも、厨房と売り場がつながっているからさ。いい香りがうちの看板になっていたりするんだけどさ、なんというか、今日に限っては、なぜか昼からの売り上げが良かったんだよなぁ。なんて、ミネコちゃんに言っても何にもならないね。さぁ、好きなものを取っておいで。今日もまけといてあげるから」
なんだろう。この時間に来ると、私が値引きしているものを狙ってきているようにも見えてしまう。でも、それもたまたまのタイミングとしか言いようがないんだよなぁ。
なんて思いながら、クロワッサンやジャムパンなど5つ選び、おばさんに渡す。
「今日もありがとうね。でも、焼きたてが食べたいなら、朝がおすすめだよ。朝に焼きあがるパンが多いからさ」
それはよく知っている。
だって、ここのパンを朝一で食べたことあるんだから。焼きたてのパンが一番おいしいことも知っているし、何か所かパンを食べたけど、ここのお店が一番おいしいことも知っている。




