64.ちょっとしたこだわり
「ミネコさん、お疲れ様です。すごい魔力を使いながらの芸なんですね」
声をかけてきたのは貿易ギルドのルーイさんだった。
「すごいかどうかは周りの反応に任せるとして、私としては、少しの魔力しか使ってませんからね。魔力で疲れたというよりは、動きで疲れたというほうがいいかもしれませんけど。それにしても、私、ルーイさんに何も言ってないのに、よくここでやっているってわかりましたね」
「耳だけはいいんです。放浪雑技団とは違った音が聞こえてきて、なんだろうと思って、抜けだしてきたんですよ。そしたら、ミネコさんが回ったり跳ねたり、して踊っているし、どこからかわかりませんけど、すごい音も聞こえていて、なんというか、場を支配していたっていうか、視線を独り占めしていましたし。なんというか、みんな何が起こっているんだろうっていうような表情をしていましたよ」
まぁ、そうだろうな。だって、空き時間で私が勝手に、何者かわからない状態でパフォーマンスして、そのパフォーマーがものすごい動きをしているんだから、そうなるのも無理はないと思う。むしろ、それを狙ったって言った方がいいかな。そのほうが話題になるし、投げ銭も日に日に集まっていくだろうし。
「急に始めたのも、場の視線を集めたかったっていうのもありますし、何が起こったかわからない状態から、自己紹介をしたら、また最初から見てみようって気になりません?」
「えぇ。私は、ミネコさんのことを存じ上げていたので多少は。やるなら教えてくれたらよかったのに。なんて今でも思ってますよ」
「でも、私は、このスタイルを変えることはしませんよ」
私がそういうと、ルーイさんは意味が分からなかったのか、首を傾げた。
「ちゃんとみなさんにお伝えした方が、集まる人が多くなると思うんですが?」
「それだけだと、同じ芸を何度も最初から見ることになって、飽きに繋がっちゃうんです。だから、わざとゲリラ的な芸にして、いつでも新鮮な芸を見てもらおうと、なにも告知せずにいきなり始めることにしたんです」
「偶然居合わせた人にミネコさんの芸を見せていくんですね。で、虜になってもらうと」
「そうなって、何度も私のことを見に来てほしいっていうのが本音ですけどね」
ただ、いろいろ考えちゃうよね。どういうパフォーマンスにするか、どういったセットリストを組むかっていうのは。
ずっと同じセトリというのは絶対に飽きられるだろうし、かといって、無理に作ったり、今回みたいにアドリブで行ったりすると、たぶん、ストーリー性が皆無になる。
そうなると、私がどういうパフォーマーかというのが伝わりにくい。となると、ある程度固定して、セトリの曲数を変えて、時間を調整するほうがいいかな。なんて、いろいろ頭の中で考える。
「それにしても、ミネコさん。音ってどうやって出していたんですか?楽器も何も持っていなかったのに、いろんな音が重なって聞こえたんですけど」
あまり答えたくないような質問が来てしまったな。
スマホやスピッカのことをド直球に返答しても、余計に謎を生むだけだし、ここは私が逃げるときによく使う得意技でもある「企業秘密」で押し通すことにするか。
「ごめんなさい。それに関しては、答えられないんです。私の秘密のひとつなんで。でも、大まかにいうと、これも魔法ですね。私にしか使うことができない魔法です」
「う~、なんだか、そんなことを言われると、もっと気になってしまいますが、そこは、さすがに私も深追いはできませんから……。いつかわかる日が来たらいいんですけど……」
少し残念そうなルーイさんだけど、さすがに私も説明しづらいところがあるから、隠し通すというのが一番なんだと思う。
「さて。それじゃあ、私は仕事に戻りますね。今度は、最初から見たいんで、やるときは読んでくださいね」
ルーイさんは、私の答えを聞く前に、ギルドへ帰ってしまった。
最初から見たいねぇ。もちろん、そのほうが集客できるのも事実なんだろうけど、それに関しては、もう少し後かな。今は、いろんな人に私のパフォーマンスを見てほしいところがあるし。
私にファンがある程度付けば、事前告知してからパフォーマンスをしてもいいと思っている。それまでは、事前告知しても、人が集まらないのは目に見えているから、今日みたいに、周囲の視線を全部くぎ付けにさせるならゲリラ的にライブをするのが一番だろう。
それは、前の世界で、告知なしの路上ライブをしたときに気づいたこと。
さすがにあの時は、警察にとめられて罰金を払うことになっちゃったけど、今回はそんな心配もない。
しっかりと私の手元に許可書があるんだから。これだけはまぁ強いでしょ。
とりあえず、休憩もできたし、投げ銭の金額を確認してからギルドに行きましょうか。今は、とりあえずやり方を覚えるってだけだし。
たぶん、パッと見る限り、そんなに集まっているわけじゃないから、納税額もそこまで多くないんじゃないかなって思っている。まぁ、ビビっているわけはない。手元にお金はたっぷりあるし、なんなら、ギルドで預かってもらっている分だってあるわけだから。
そう思うと、とりあえず、貿易ギルドのほうへ足を向ける。




