56:もうひとりの私
また懐かしい感覚だ。
……多色で彩られたステージが見える。そのステージでひとりの女の子がキラキラと輝きながら歌い、周りを魅了していく。
「美禰子をひとりで旅さすわけね!いつでも俺らがついてるぞ!俺らをもっと頼ってくれや!美禰子のためなら心臓捧ぐ!俺が今ここにいる理由!それは美禰子を守るため!美禰子を絶対守って見せる!からひとつだけ言わせておくれ!アイシテル!」
なんだか、なつかしいミックスコール。
ステージにいる女の子も、マイクをこちら側に向けて煽っている様子が見て取れる。
そして、しばらくしてから思い出した。
この曲、私がカバーさせてもらっている曲で、2サビのあと、少し長い間奏があって、そこで聞こえるミックスコールだ。
……ソロで歌って踊っているということは、あれは、私?……だけど、ちょうど目元が陰になって見えない。なんというか、目元だけないモブキャラが私の衣装を着て、歌って踊っているところを見ると、なんだか不思議。
客観的に見たことがないから何とも言えないけど、煽っているとき、こんなに生き生きしているんだ。と思ったよね。
「守ってくれるんでしょ!?へばらないでよ!」
煽り文句がまるっきり私。というか、カバー元のハイアスさんがこんなこと言ってるのを聞いたことがない。
まぁ、向こうは4人組で、その4人が間奏のときに決闘を模した振り付けしているんだから仕方がない。打って変わって私はソロで活動しているから、そういうことはせずに、振り付けを変えて、戦う相手がいると見立てて、振り付けを作り替えさせてもらった。
ここに関しては、何年か前、ソロになったとき、ハイアスさんの所属する事務所の代表の人に話をさせてもらい、快諾を得ている。その代わり、今持っている振り付けを何ひとつ変えないことを条件にね。
ただ、やらせてもらえるだけありがたい。
私の持ち曲うち8割がカバー曲、残り2割が前グループからの引継いだソロ曲だから。
……あれ?今日も?
場内を見渡していると、ステージにいる私みたいな女の子のうしろにジャック・オ・ランタンが浮いている。ただ、今日は2つも。
さらには、音楽に乗るようにしながら浮いたり沈んだり。
見ていて少し面白いな。なんて思いながら、私の目はライブじゃなくて、ジャック・オ・ランタンに注目が行っていた。
そのせいで、曲を聞く楽しみをジャック・オ・ランタンに奪われてしまったけど、楽しんでいるならそれでいいか。と思えてしまった。
ライブはどんどんと進んでいって、最後の曲が近いのか、私っぽいアイドルが「ラストだよ!」って叫んだのがわかった。
そういえば、そんなライブをしたことあったな。なんて記憶がある。
あれはこの前のイベントに呼んでもらったライブで、持ち時間が30分もあったライブだったと思う。
ソロになってからは、出演の依頼をこっちからお願いしてライブをもらうことが大多数で、土日を中心に、1日に2本のステージをこなすこともざらにあるから、これがどのライブかって言うのは、さすがに覚えきれていない。
数多くライブをしていかないと生きていけない世の中だしね。
この世界に放り出されてから、弱肉強食という言葉を身に染みて感じる。
幸いなのは、まだ私が高校生で、親の保護下にあるってことかな。それでも、「ソロで活動する」って両親に宣言したとき、「高校卒業までは面倒を見てやる。それ以降は家からでて自分でどうにかしろ」って言われている。
それもあと何ヵ月かで訪れてしまう。幸いなのは、大学じゃなく、就職が決まっていること。
ただ、今後の活動実績によっては廃業も考えているわけだし、なんだか、グラグラに揺れている。
だけど、これを見て気が変わったかな。
正直、パフォーマンスに必死で、ライブをしている私があまり楽しめていなかったっていうのがあるかもしれない。
でも、ちょっとだけ安心した。
これだけ、ドカッと沸いたり、楽しんでくれているなら、もう少し活動を続けてもいいかなって思う。
何かを目標にしているわけでもないし、今の私は、この活動を楽しんでいるだけ。楽しめなくなったら終わろうとはなんとなく考えている。それだけだ。
曲を借りているハイアスさんには申し訳ないんだけど……。
話がそれちゃった。
ライブのラストは〈はずしたシンデレラ〉という曲で楽しく終わるみたい。
この曲もサビ部分でコールがあったり、なんというか、外から見るだけで私に向けられている視線がごろっと変わり、印象も変わる。
即売会に並ぶ人はいつも少ないけど、これだけ、場内の熱を一致団結して感じさせてくれるなら、私だってもう少し頑張れると思う。
そんなライブのラストは舞踏会にいるようなイメージでフィニッシュ。
ソロの決めポーズまで決めきってしまった姿を見て、なんか、少し恥ずかしくなった。
こんな自信満々にキメ顔をしていたんだってはじめて気づいたから。
「またみんなの姿が見れること、楽しみにしてます!石崎美禰子でした!」
ちょっとした疑いから完全な確信に変わったときだった。
こうやって自分のライブを客観的に見ると、恥ずかしくなっちゃう。
『素敵なステージだったよ』




