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55:いたずらはバレない限りはネタばらしをしない

「それにしても、ここ、眺めがきれいね。坂道を上ってくるのはしんどいけど、これだけきれいな夜景が見られるなら、ここに住む価値はありそうね」


 窓の外を見てうっとりしているメルティさん。こんなときに頭をよぎるのは、魔法でいたずらを仕掛けたいというところ。

 もう、私の頭の中がそういう思考になり始めている。

 こうなってしまったら、止められはしないから、ここは、噂にもなっている火の玉で、ちょっと驚かせてみようかな。


「ちょっと寝室にものを取りに行ってくるね。すぐに戻ってくるし。そのままくつろいでいてもらっていいから」

「そうか。わかった」


 アイラさんは何も警戒していない様子で、しいて言うなら、サルティさんが私の行動を見ていたことくらいかな。

 そんなことは気にせず、2階の寝室に行くと、窓をガっと開き、下に何もないこと、周りに人がいないことを確認する。

 ちょうどこの寝室の窓も、街を一望できるようになっていて、メルティさんのちょうどいる真上あたりになる。

 ここから火の玉を浮かせて、少しそのままに。そして、私は寝室を出てから、1階にいるアイラたちと合流。

 私も椅子に座ってリラックスしているふりを始めたころに、ゆっくりと火の玉をイメージして動かして、窓の前を一瞬だけ通過させるように動かすスピードを早め、左から右に。

 目の前を通り過ぎた何かに、興味をひかれたメルティさんは、窓に近づいて、開けはしないけど覗き込む。その瞬間を狙ってそのあと、スピードを落とし、ゆっくりとメルティさんの前に。


「キャーッ!」


 甲高い悲鳴を上げたメルティさんの声に驚いたアイラとキルシュちゃん。なんだなんだと言わんばかりに、窓に近づく。

 もちろん、メルティさんが悲鳴を上げたと同時に、火の玉は、2階に避難させている。

 メルティさんに関しては、驚きすぎて腰を抜かしていて、アイラさんの問いに「でた……でた」としか言えていなかった。

 その姿が滑稽すぎて、笑いをこらえるのに必死だった。

 そして、もう一度火の玉を下ろしてくると、メルティさんは「ほりゃ~」と力なく火の玉を指さした。

 すると、キルシュちゃんが先に気づいたようで、「わっ!」と声を上げ、それに続いたアイラも驚いた声を出していた。

 だけど、アイラに関しては驚いた声を出したものの、ビビるわけではなく、火の玉に目を奪われていた。


「アイラ!そんなに見惚れていると魂抜き取られちゃうよ!」


 キルシュちゃんがすごいことを言った気がしたのは気のせいだろうか?というか、今、このタイミングで魂を抜き取るなんてこと、私にはできないぞ。息の根を奪うことはできるだろうけど。


「んなの単なるうわさ話だろ?それに、こんな火の玉が魂を奪えるわけねぇって」


 なんだろう。全く驚いてくれないな。ちっとも面白くない。

 火の玉を急激に大きくして驚かせてみる?ただ、私の腹筋が持ちそうにないかもしれない。


「あんたも性格悪いな。ずっと楽しそうにニヤニヤして火の玉を操っているんだから。まぁ、俺もメルティが腰を抜かすとは思っていなかったけど、あそこまで自由自在に操れるんだな」


 隣にいたサルティさんが笑いを必死にこらえている私に小さな声で話しかけてきた。どうやら、悪事は全部ばれていたみたいね。


「私もメルティさんが腰を抜かすとは思ってませんでしたよ。ただただ驚かせようとしていただけで。あとは、アイラが腰を抜かしたら面白いかなって思ってるくらいで」

「それはまた面白いだろうな。ただ、先にキルシュが怖がりすぎて泣きだすんじゃないかな」

「でも、本人は本気で心配しているから、噂を信じているのかもしれませんね。まぁ、噂の火の玉は本当に私じゃないんですけど」


 そんなこと言いながら、まだ私が火の玉を操っていることに気づかず慌てふためく3人の姿を見ていた。


「これだけ腰を抜かした冒険者を見るのは初めてかも」

「あんたの性格の悪さが出ているんじゃないのか?」


 そう言われてしまったら、私にはもうどうにもできない。


「ただ、驚かせすぎたかな。メルティさんが立てるようになるまでは、ここにステイだね」


 そう言うと、サルティさんは、堅物だった表情をほんの少し和らげ、ほんの少しだけ笑顔になった。


 メルティさんが腰を抜かしてから数十分ほど様子を見て、なんとか立てるようになると、さっきのいたずらのことを謝罪しつつ、昨晩の火の玉騒ぎは何一つ知らないことを改めて伝えて、誤解を解こうをする。……まぁ、そんなことは無理だったんだけどね。

 で、ある程度、メルティさんが落ち着いた後、私の家を後にして、メイランちゃんの宿に戻り、すでに就寝中のメイランちゃんに変わってお父さんが店番をしていて、「帰ってきました」とだけ伝え、自分の部屋に。

 もう、ほとんど何もなくなったこの部屋で寝るのも今日が最後。ふかふかのベッドで寝られるのも最後かぁ。なんて思いながら、今日も夢の中へ。


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