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3.宿にて

「ミネコさん、どこかへお出かけですか?」


 階下に降りると、小さい女の子が声をかけてくる。

 この子は、メイランと言ってこの宿を経営している夫婦の娘さん。まだまだ小さいが、十分に働いている。

 両親が裏で食事の準備などをしていると、自分から進んで店番をしているようだ。


「いや、どこにも行かないけど、お風呂の使い方教えて貰っていい?私、田舎から来たからさ、こういうのに慣れてなくて」

「いいですよ。すぐ行きますね」


 健気だ。こういう健気な子に嘘をつくのは良心が痛むけど、私が怪しまれずに生きていくには必要な嘘だと思っている。

 そして、浴場の使い方は思った以上に簡単だった。

 光る石に手をかざせば良かっただけ。青い石にかざすと、水が出てくるし、赤い石にかざすと、熱々のお湯が湧いてくる。

 湯船に貯めて、混ぜ合わせて使うようだ。

 それから、泊まる人が使うこともあって、長風呂だけは控えて貰えたら。みたいなことを話していた。

 まぁ、身体は綺麗にしたいけど、長風呂は得意では無いから、問題ないか。なんて思いながら、ささっと身体を洗い、少しばかり湯船につかり、そそくさと風呂から上がる。


「ミネコさん。湯加減はどうでした?」

「うん。私好みだったよ。教えてくれてありがとね」

「いえいえ。そんな。それより、夕食が出来上がってますが、召し上がっていかれますか?」


 小さいのに丁寧な言葉遣いだ。相当鍛えられているんじゃないか?それとも、ご両親がこういう言葉遣いをしているから、自然と身についているのか。とにかく、私には少し難しい話だ。


「うん。食べていくよ」

「そしたら、適当に座っててください。すぐに持ってきます」


 そういうと、メイランちゃんはスタタタとカウンターの奥に姿を隠したと思ったら、お盆を持って出てきた。


「お待たせいたしました。本日の夕食、レッドバードの照り焼きです」


 聞いたことの無い鶏だな。この街の特産なんだろうか。

 それでも美味しそうだから、気にしなくていいか。味さえ良ければそれでいいし。

 それに、出してくれているだけありがたいし。

 味に関しては、もう言うことは無い。いつも、コンビニやスーパーの惣菜コーナーで買うのよりも比べ物にならないくらい美味しい。


「どうですか?お口にあいますか?」


 何故か不安そうにこっちを見て聞いてくるメイランちゃん。

 そんな彼女を安心させるように優しく「美味しいよ」と伝える。すると、一気に顔を輝かせて、ルンルンとカウンターのうしろに下がっていった。もちろん、お世辞抜きでね。

 あっという間に出された食事を平らげると。もう満足。あとは寝るだけだな。とか思いながら、自分の部屋に戻る。

 食器とかを片付けようとしたら、メイランちゃんに「わたしがやるんで」って言って、持って行っちゃった。


 ということで自分の部屋に戻ってきたのはいいものの、歩き回っただけでは、さすがに疲れることも無く、ベッドに横になっても寝られるわけもない。

 そんなことを思いながら、テーブルに置いた木簡をもう一度手に取り、中を読み込む。

 やっぱり、大雑把なことしか書いてないな。これで金貨1枚か。

 この宿が5日分で金貨3枚と銀貨5枚だから、大雑把にしか書いていないこの木簡がどれだけぼったくりなことか。

 買い物を間違えたかな。なんて思いながら、ため息をついて、ベッドに後ろからダイブする。


「どういうわけなんだろうな〜」


 無機質な天井に向かって声を出すも、何も変わらないのが本音。これで元に戻って今までの生活に戻れば何も問題はない。

 だけど、昨日、目が覚めても、夢から醒めなかったし、これが現実というのは変わらないのかもしれない。

 だとすると、この世界で生きていくとするなら、少し考えないといけないか。

 とりあえず、明日は、貿易ギルドに行ってみて、いろいろ情報を聞こう。それで、その後をどうするかを決めるか。

 そう思えると、掛け布団を頭までかぶり、無理に眠りにつく。


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