38:合流
「……後ろから?」
チェイスさんが何かを感じ取ったようで、後ろをふと振り返った。
その瞬間、隙を狙ったかのように、横からウルフが飛び出してくる。
飛び出してきたウルフに気付いた私は、思わず、ウルフに向けて水魔法を放っていた。
唐突なことで、びっくりした私は何もイメージすることなく、水を放っただけだった。
それでも、ハッと正気を取り戻し、威力が一番強い銃のような魔法でもう一度ウルフを狙う。
「チェイスさん!しゃがんで!」
私のとっさの指示も聞いてくれるのか、シュッとしゃがみ、ウルフとの動線を確保させてくれる。
そのまま「アクアガン!」と言ってウルフに向けて細く強い水魔法を放つ。
この前、岩に向けて試していた水鉄砲のような魔法。これを試していたことが幸いだった。
岩に穴をあけるような威力を持つ銃のような魔法は、さすがにこういう緊急事態の時でしか使えない。というのも、頑丈な岩で貫通するのに、それよりも柔らかい動物相手に同じような強さで撃ってしまうと、もちろん、銃で撃たれたように貫通して、あまりにも惨いように感じてしまったから。現に、チェイスさんを襲ったウルフは、私のアクアガンが直撃したことにより、身体の一部に穴が開いた。
いうまでもなく、血が噴き出し、私としても、少し気分が悪くなってくると同時に、やりすぎたとも感じでしまった。
「すいません。ありがとうございます。助かりました」
「いえ。私こそ、やりすぎました。できれば、あのウルフを遠ざけてもらえたらうれしいんですけど……」
見るだけで吐き気がしてしまう。というか、シールドを張りながら、近くの草むらで胃から上がってきたものを口から吐き捨てていた。
やっぱり、血を流したものを直接見るのはきついか。当たり前っちゃ当たり前なんだけど。にしては、傷だらけのものを見てもあまり感情がわかなかった。それに関しては、自分がそういう立場で育ってきたからなのかもしれない。
とりあえず、しばらくは、アクアガンを封印しておかないと。
「アイスアロー!」
右方向からウルフが襲ってきたと思えば、今度は後ろ方向から氷の矢が飛んでくる。
なんだか、忙しいな。なんて思いながら、矢が飛んできたほうを見ると、ウェルメンさんが走ってこっちに向かってきていた。
「ミネコ、一人で勝手に行くとかずるくない?私だって獲物は欲しいし、クエストに強制参加させられているなら、一匹だけ狩ってすぐに帰りたいのに。その勇気の決意すら無視することができるなんてね」
合流してからすぐに愚痴を吐き捨てるように私に言ってくるウェルメンさん。
私としては別においていったつもりはないんだけどなぁ。なんて思いながらも、片手でごめんとしながらも、もう片方の手で水球を飛ばす。
「それにしてもすごい数ね。今でどれくらい討伐したの?」
「数えている暇がないくらい次から次に来ている。とりあえず、片っ端からやるだけやってるって感じかな」
「私はどっちのサポートに入ればいい?あなた?それとも、もうひとグループのほう?」
「そうね……。ウェルメンさんは私のサポートをしてくれない?というのも、向こうはパーティを組んでるから、無理にサポートしようとすると邪魔になるだろうから」
「わかったわ。おとといと同じやり方でいいの?」
「そのほうがやりやすそうだね」
「それなら、先にアイスアロー!」
事情が分かっている人とコンビを組むのはとてもやりやすい。私が言わなくても、おとといの夜のことを覚えていたみたいで、ウェルメンさんはウルフの足元に氷の矢を次々に打ち込む。
そして、私はその後ろから水の矢をイメージしてウルフの足元に続けるように打ち込む。
氷を解かそうにも、ウェルメンさんの氷の矢は、冷気が強くて、濡れているものを瞬時に凍らせてしまうという特性があって、私の水魔法も始めた後は瞬時に凍ってしまうくらい。
もちろん、凍らせてしまったら身動きが取れなくなるから、私としても、ウェルメンさんの氷魔法はとても重宝している。
たぶん、氷魔法は単体だと、発揮できる効果が小さいんだろう。で、特定の相手と一緒になれば、その効果は何倍にもなるんじゃないかって思っている。それは、私の水魔法と相性が良かったから。としか言いようがないけど、本人もこれほどの威力になると思っていなかったのかもしれない。
ウェルメンさんのおかげで、前列にいるある程度のウルフは、足が凍り、動けなくなっていた。
「とりあえず、動けないなら3匹ずつ行っときますか」
そうつぶやくように言うと、さっきよりも一回り大きい水球を作り出し、ウルフに向かって投げる。
「さすがミネコ。3匹も軽々と飲み込めるなんて」
「ちょっと無理しているけどね。あからさまに数が多すぎるし、私もいつまで持つかわかんないからね。できるだけやっておきたいし」
「と言いながらも、もう10匹は討伐しているでしょ?」
「さぁ、もう数えるのはやめたよ。もう数えてられないし。次から次にウルフは襲ってくるし。正直、何匹かウルフを確保したら逃げようかと考えているくらいだし」
「そう。それでも、あと20匹もいないように見えるけどね。大玉はいるけど」
それを聞くだけでも全然違うかな。終わりが見えないのと、総計が分からないうちの残り20って言われる方が気が楽だ。




