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2.夢じゃない

 翌朝、ニワトリに似た声に私は叩き起こされる。

 なぜニワトリなのかすらもわからないけど、まだ寝たい気持ちを抑えて体を起こす。

 いつもと違う床の柔らかさに違和感を覚えると同時に、見たことのない天井が目に入った。

 ……えっと、もしかして、夢から醒めていない?もうひと眠りしたら、夢から醒めるだろうか?

 う~ん。やっぱり、ひと眠り……。


「うぎゃ!」


 みっともない声が出てしまったのは、どうやら、寝床になっていたソファーから落ちたからだったようだ。

 そして、痛みを感じても、景色が変わる様子が何一つない。

 ……。これは覚悟しなければならないのかもしれない。


「おはようございます。お目覚めはいかがでしょう?」


 昨日と同じ男がレディーの部屋にも関わらず、ノックもせずに入ってきた。

 ノックもせずにレディーの部屋に入ってくるとは、常識知らずもいいところだ。これで、私が着替えていたりしたらどうするんだ。

 なにより、目の前のことが現実と突きつけられるのは、男の声が床に落ちたときに感じた痛み、そして、しっかりと聞こえたこの男の声。

 ……これが現実か。なんて思いながら、男を少し睨む。


「……おっと。申し訳ない。ただ、お時間なので、こちらがご用意した宅に移っていただきたいのですが……」


 まだ寝起きということもあって、私の頭が理解することを拒んでいる。


「えっと、それはどういうことですか?」

「こちらのお屋敷は聖女様専用のお屋敷でございまして、聖女様以外は速やかに退出いただくことになっております。昨晩は、夜も更けておりましたため、特別対応として1晩お過ごしいただきました」


 なるほどねぇ。聖女様専用か。そういう私は聖女じゃないからすぐに出ていけ。なにが入っているのかはまだ見ていないので知らないが、昨日渡した迷惑料はそういうことか。


「で、私はここからどうすればいいんですか?」

「速やかにこの屋敷からご退出いただければ」


 どうやら、話しは伝わらないらしい。

 そして、早く物事を終わらせたいのか、面倒くさそうに私を見るこいつに腹立たしさを覚えるが、昨日見たものがすべて現実とするなら、今の私にできるすべはないのかもしれない。

 いっそのこと居座ってもいいのだろうが、警察を呼ばれると厄介だ。ここは、そうそうに退散して、これからのことはゆっくりと考えるとするか。


「わかったよ。そういう適当なことをしていると、自分に返ってくるから気を付けてくださいね」


 嫌味のように言って、迷惑料の入った袋を手にして部屋を出る。

 そして、男に連れられて、屋敷の外に出る。

 どうやら、やっぱりここは私の知っている街ではない。これを見てようやく確信した。


 ここは異世界だ。


 こういう時はどうしたらいいんだろうか。

 とりあえず、こんなところにいつまでもいるわけにはいかない。不審者に間違われるのだけはごめんだ。

 とりあえず、街に行って情報を仕入れようか。

 ということで、遠くはなかった街の中へと歩いてやってきた。

 街の中に来ると、改めて思うけど、私のような恰好をしている人なんていない。やけに浮くな。とりあえず、先に古着屋に入るか。

 ……いや。浮いているからこそ情報収集もしやすいか。


 そこから道行く人にジロジロと見られたけど、いろいろと情報を仕入れることはできた。

 とりあえずの宿も確保することはできた。幸いなことに朝と夜の食事がついて1カ月泊まることのできるほどの迷惑料が入っていたことがわかった。

 ただ、1カ月泊まるだけで手持ちがなくなるわけで、それだけでは足りない可能性もあるので、とりあえず5泊だけ前払いで泊まることにした。

 そして、職業を聞かれたりもしたけど、そこはアイドルと言っても伝わることはないだろうと思ったから、芸人だと伝えると、貿易ギルドへ行くといいだろうと教えてもらった。

 それから、別の人には、魔法が使えることを伝えると、冒険者ギルドの場所を教えてくれた。

 正直、今まで歌って踊ってお金を稼いでいたから、そっちの方でお金を稼ぎたいというのも事実。ただ、私のパフォーマンスがどこまで通じるかは分からない。

 なにより、貿易ギルドへの登録をしないことには、パフォーマンスはできないから、手が出せない。

 そして、浮いた服装については、いい感じのコーディネートをしてもらい、街の人たちと変わらないくらいにはなった。

 あとは、魔法のことも知りたいから、本屋か図書館が無いか聞いたけど、そんなのは王の屋敷にしか無いとキッパリ言われた。ただ、木簡を売っているところはあると言われ、そこで魔法に関することが書かれた木簡を買って、宿に戻りじっくりと読み込む。

 これだけで正直、魔法が実際に使えるのかわからず不安なところはあるが、これに関しては忘れないうちに試してみよう。

 そんなこんなで、もうそろそろ夕陽も沈みかけている。

 今日はここまでだな。なんて感じて、木簡をテーブルの上に置く。

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