35:今日も今日とて
……なんだろう。昨日来た時よりも、空気がよどんでいるように感じる。
足を踏み入れるな。そう言われているようにも感じる。
そして、奥の方からかすかに聞こえるうめき声と何かがぶつかる音。
……すでに戦闘中だろうか。私も輪に加われば、即刻巻き込まれるだろうな。少し離れて様子を見ながら、しれっと参戦しようか。
そう思いながら、奥へと踏み入れ、足音を立てないように、音がする方へと急ぐ。
そっと近づき、光が漏れているところから外れて、草むらに身体を隠す。
……状況は正対。パーティなんだと思うけど、背中を向けている人数は3人。そして、ウルフは、確かに数は数えられないくらいいるね。で、ウルフたちはご丁寧にピラミッド型を作っている感じか。
こうなったら、下手に私が出ると、かえって襲われる対象になるかもしれないな……。こういった草むらの影から水系の魔法で倒していく方がよさそうだな。
「アクアライン」
そうつぶやいた後に、静かに一本の線を張るイメージで一番端にいるレッドウルフの足に向かって魔法を伸ばす。
……よしよし。気づかれていない。このまま足を結んで、そこからボールにしてみるか。
私の水魔法は、静かに伸びていき、気づかれることなくレッドウルフの足にまで届いた。
ただ、足に水を感じたのか、ウルフが振りほどこうと暴れだす。
まずいな。このままだといろんなところに被害が連鎖しそう。一気にあのウルフだけ囲ってしまうか。
「アクアボール!」
少し予定外のため、急遽ボール状にして、ウルフを包み上げる。
もちろん、あわてるウルフは逃げ出そうと浮き上がった状態にもかかわらず、手足をばたつかせて暴れまわる。
これがまぁ、厄介なことはわかっているんだけど、それでもしっかりと、水球をイメージして形と強度を保つ。
暴れまわることで、酸素を消費してしまうウルフは、だんだんと弱り、3分も格闘していれば、動かなくなる。
いつもなら、たぶん、死んでいるだろうけど、今回は、周りを恐怖に落とすために、少し長めに。それに、完全に息の根を止めたいというのもある。
元の世界でこんなことをすると、極悪非道なんていわれるかもだけど、この世界で魔獣相手だと、そういう感情も何一つない。私も感覚が狂いだしたかな。なんて思いながらも、レッドウルフの体高2つ分まで水球を持ち上げる。
何体かのウルフは持ち上げられているウルフと目の前にいる冒険者を交互に見ている。ある程度の知能はあるみたいね。
それなら、もうまとめて行っちゃってもいいかな。でも、さすがに後ろからきて全部横取りは私でも気が引ける。何十匹いるなら、1匹くらい貰ってもいいだろうけど。
とりあえず、このまま身分を明かさないのは、やりにくいだろうから、このウルフだけやってしまって、前にいるパーティと合流するか。
そう思うと、水球をもう少し持ち上げ、だいたい高さは5メートルほど。
周りの木々よりも少し高いくらい。そこから、息をしていないウルフを落として、少しけん制。その間に合流を試みる。
「ブレイク!」
その声と同時に、魔力の供給を切って、水の球が破裂。重力に負けるように、ウルフは地面にたたきつけられる。
そのウルフにほかのウルフたちが目を奪われている間に、しれっと合流。
「ウォール!」
合流したと同時に、水の壁を作り、向こう側を棘だらけにしてシールド代わりで、つかの間の休憩を与える。
「ごめんなさいね、いきなり。ギルドのクエストを受けてきたミネコっていいます。共闘できたらうれしいです」
「そういうことか。助かるよ。いきなり水の球がウルフを包み込んで持ち上げるからびっくりしたよ。おっと、俺は、このパーティのリーダーをしているルイスだ。ミネコちゃんだっけ、よろしくね」
「私はチェイス、まぁ、見た目通り魔導士よ。力は弱いけど、攻撃もできるし、誰かがけがをしたら傷をふさぐことくらいはできるわ」
「ウォルトだ。にらみ合いで精神的に疲れてきていたから助かる」
だと思った。衣服に汚れがすごくついているし、ウォルトさんに関しては、噛まれたのか、一部破けている。血が出ていないのは、チェイスさんに傷をふさいでもらったからだろう。
「今のうちに回復できるなら回復してください。あいにく私は回復魔法を持ってないからそれだけ了承してください」
「こうやってブレイクできる時間があるだけありがたいよ。それにしても、ほかのパーティメンバーは?」
「私は単独よ。さっきの見てもわからなかった?水魔法で一応倒せるからってことで、ギルドのクエストに参加させられているって言った方がいいのかしら。まぁ、単独でクエストに参加よ」
「単独か珍しいね。基本的には、どこもパーティで参加することが基本なんだけど」
「まぁ、職業が冒険者じゃないからね~。パーティを組むのも初めて聞いたし」
「冒険者じゃない?どういうことだ?」
「悪いけど、私、芸者なの。レッドウルフを数体倒した実績を買われて、クエストのメンバーに入れられたって感じかな」
「なんだか、災難というべきか、当然じゃない?というべきか、悩むところね」
「でも、実績がある冒険者が来てくれて助かるよ。Cランクの僕たちでも、ここまで持ち込むのがやっとだったから」
思わず、人数の差なんじゃないかといいそうになったけど、グッとこらえて愛想笑いでごまかす。
「とりあえず、数は?」
「数えている余裕はないよ」




