32:不愛想なおじさん
「何を探しとる?」
「あっ、えっと、少し大きい鏡を探してまして~」
「鏡か。あることはあるな。どれくらいのサイズだ?」
「あっ、えっと、縦が2メートルくらいで、横が4メートルほどのものがあればうれしいんですけど~……」
「そうか。少し待っとれ。似たようなサイズのものがあったはずだ」
背の低いおじさんは、怪訝な顔のまま店の奥へと姿を消した。
……っていうか、今、私の希望するサイズの鏡があるって言った!?
無茶なサイズだから、少し小さくても妥協しようと思っていたんだけど、今、あるって言ったよね?しばらくしてからかなり驚いた。
「ほらよ。あんたが言うのはこれくらいのことか?今は、2メートル四方の鏡を2つ横に並べているだけだが、これくらいなら文句はねぇか?」
待って。ドンピシャすぎる。こういうことってあっていいの?本来ならさ、特注で作ってもらったりさ、あきらめたりするところじゃん?なんでこうも願いが叶っちゃうわけ?
「昔な、うちの女房が、地元の村での伝統祭で舞を披露することになってな。そのためにひとりで練習したいから作ってくれとせがまれてしまってな。その女房も、地元の村に帰れば、そこで別の男を作りそれっきりさ。だから、俺が作ったものなんだが、負の遺産ってやつでもあるんだ。あんな女房のことは早く忘れてしまいたい。嬢ちゃん、どうか持って行ってくれないか?持てねぇっていうなら、アイテム袋に入れてやるからよ」
なんだかこのおじさん、少しかわいそうだな。怪訝そうな顔は変わっていないんだけど、その中に悲しみが浮かぶようになった。
人の感情って、こうも簡単に移るものなんだね。なんて思いながら、金貨3枚を取り出し、おじさんに渡そうとする。
「金はいい。俺が捨てたくて嬢ちゃんに渡すものだ。嬢ちゃんがほしけりゃ、ただでくれてやるさ」
「わかりました。それじゃあ、お言葉に甘えていただきますね。アイテム袋は持っているし、入ると思うんで大丈夫です」
「悪いな。押し付けるようなことをしちまって。で、特に理由を聞いていなかったんだが、なぜそんなに大きな鏡がいる?」
まぁ、普通の質問よね。普通でもこんなに大きな鏡なんていらないよね。
「私の職業柄と言いますか、仕事に必要なものと言いますか~」
「そういうことか。まぁ、深追いはせん。人には隠したいことの一つや二つはあるものだろうからな。まぁ、嘘をつかずに至極真っ当に生きていればいいこともあるさ。俺はそう信じている」
なんだろう。人生経験は語るなんて言うけどさ、言葉の一つひとつが重いのよ。このおじさん。でも、ためになることもあるだろうし、人生相談に来てもいいかもね。
「私もそうだと思います。嘘で塗り固めた壁はどこか崩れさえすれば一瞬で崩壊しますし」
私がそういうと、おじさんは「うん」と大きくうなずき、店のカウンターに入っていった。
そして、2メートル四方の大きな鏡を2枚アイテム袋にしまうと、目的のものを手に入れることができた私は、ルンルン気分で家に向かい、さっき考えていた場所に鏡を設置。
いい感じにダンススタジオ感がでてきていて、ちょっと嬉しい。
あとは、ベッドも買いに行かないといけないな。と思っちゃったけど、すでに外は夕暮れ時。
続きは明日にして、今日は宿に戻ろうか。
そう思いながら、一度2階にあがり、窓の外を見る。
西日がきれいに入って、部屋の奥まで私の影が伸びている。外観は狭くてぼろい感じはするけど、内装はきれいだし、文句はないね。
結婚を拒否した姫がここに逃げて隠れていた。って言われてもおかしくはないかな。これくらいの内装と広さなら。
そんなことを思いながら、家に鍵をかけて、自分の宿に向かう。
まだ時間が浅いこともあるのか、宿はまだ静かで、メイランちゃんが言うには、お風呂もすいているみたい。
人がいないうちにお風呂に入っちゃうか。昨日も入れていないし。
そう思うと、いつも通りですね。なんてメイランちゃんに言われて、私は「そうだね」と返し、お風呂に向かう。
たぶん、これからは、いろいろ忙しくなるから、ゆっくりとお風呂に入る時間すら取れなくなるんだろうな。なんて思いながら、しっかりと体を洗い、湯船につかる。
こういう湯船につかっているときが一番極楽だよね~。いつも思うけど。でも、活動を始めてからでも絶対大事な時間だと思う。どれだけ疲れていようと、この時間だけはちゃんととりたいな。なんて思いながら、湯船の中で大きく伸びる。
さて。明日は、ルーイさんに活動届を出して、寝具や必要な日用品を買いそろえて、ゆっくりした日常を過ごしますか。




