30:内覧
……本来は逆じゃん!物件の内見に行ってから契約をするのが普通じゃないの!?やられた。静かそうな場所だと思って即決しちゃった。やらかしたな。
そんなことを思いながら、カトレアさんについていくけど、思ったより、いい場所なのかな。そんな雰囲気のところに着いた。
半径100メートルに民家らしきものなし。家も十分な広さ。庭は何か植えてもいいかなって思えるかな。あと、日当たりもいいし、市場から少し遠いのが難点だけど、まぁ、許容範囲かな。
でも、これだけ町が広がっている中で、ここだけぽつんと空いていたのかは謎だな。
「ここって、なんでこんなに立地が悪いんですか?」
「う~ん。私も聞いた話でしかないんだけど、昔、この道が西門に続いていたらしいんだけど、それの関係もあるのかな。百何十年か前に、前の国が滅ぼされて、この国ができたときに、新しく城を作り変えて、その時に、直線になるように、東西南北の門を立て替えたって聞いているわ。そのときに、いらなくなった門は、壁になって、道が閉ざされたとか。で、この周辺に立ち並んでいた家たちは、都合が悪くなったから、更地にして人が町の中心部に集まった。っていうような感じなのかな」
なるほどね。そういうことか。それなら、立地が悪くても納得はできる。で、借り手を見つけたいから安くなるってわけね。そういうことなら、私は気にしないよ。
もっと芸者として稼いで、もっといいところに住めたらそれでいい。ここはあくまでも準備場所としての機能を持たせるだけ。まぁ、住むことになるんだろうけどね。
「大丈夫そう?ここで」
「はい。人が少ないほうが私としても都合がいいので」
それに、見せたくない機械だってあるわけだし。なんて言えるわけもなく、黙って中に入る。
しばらく放置されているように見えたのは、外装だけで、内装は意外にもしっかりとして、きれいだった。これなら、軽く掃除して、今日からでも住めそうなんて思っているけど、今日はこのままメイランちゃんの宿に戻るか。
間取りは、1階に吹き抜けのような感じで、16畳ほどのフロア、右のドアに入ればトイレ、正面右手にキッチンと正面左手に上に登る階段。左側は何もなく、ここに全身鏡を何枚か立ててもいいかなって思えるね。
2階に上がると、ベッドルームかな。ひとつと、押入れがあるくらい。まぁ、シンプルだよね。でも、ひとりで暮らす分には何ら問題はなさそう。
唯一、課題だと思うのが、照明類かな。夜になると真っ暗になりそうだし、ちょっと怖いな。ここは、魔法でカバーする?だとしても、夜に炎を使うのは少し気が引けるな。
「どう?問題なさそう?」
ニコニコの笑顔で聞いてくるカトレアさん。その表情は「何も問題ないでしょ?」と言いたげな表情を隠しきれていない。
「一つだけいいですか?」
「なにかしら?」
「夜って皆さん、どうやって照明を焚いているんですか?」
「……へっ?」
「えっ?」
私の質問がとても方向性が間違えているのか、それとも、私がばかなのか?メイランちゃんの宿では、布団に乗るだけだったら電気はついていて、布団にもぐると自動的に消えていた気がする。それはここにあるのかどうか。
「えっと~、ミネコさん、普段はどうやって生活をしてきたの?」
「どうって……田舎から出てきたけど、その前は普通に外で火をつけて明りにしていましたけど……」
私がそういうと、カトレアさんは「そうだった」と頭を抱えていた。
「えっと~。まぁ、簡単に言えば、ミニチュアウルフやレッドバードの魔石で魔力を送って照明をつける感じね。この家も、しばらくほったらかしにされていたけど、魔石がついたままのはず……。あった、ここね。ちょうど、ミネコさんの目の高さにうっすらと透明ななにかがあるのがわかるかしら?」
そういわれて、じっと目を凝らすと、確かにクリスタルみたいなものが埋め込まれている。
「これが魔石で、だいたい20年はもつかな。1匹の魔石で。ほかにも、魔石は水を出すのにも、温めるのにも使えるから、冒険者ギルドでは、常時クエストとして年がら年中依頼リストに載っているはずよ。初心者なら、そういったこともするけど……。あなたはレッドウルフをもう狩っているから、ミニチュアウルフやレッドバードは楽勝だと思うわ。それでも、ミニチュアウルフやレッドバードを狩ったらギルドに持ってきてほしいわ。それを貿易ギルドが買い取って、それを商人に流すから」
なるほどね~。貿易ギルドと冒険者ギルドって、そんな手の取り合いがあるんだ。知らなかった。
昨日、ドシアンさんが貿易ギルドに来たこともびっくりしたけど、そういう関係性があるからこそ成り立っているのかもしれないね。
「もちろん、そのほかにも、冒険者ギルドに卸したものは、貿易ギルドが買い取って商人に流す構図がずっと続いているの。だから、レッドウルフとかブルーウルフを貿易ギルドに卸してくれたけど、それも商人の手に流れていくことになるわ」
どっちにしろ、商人の手に流れるなら、直接商人に買い取ってもらう方がいいんじゃないかなって思うのは私だけなんだろうか?
「最初はね、みんな冒険者と商人が直接やり取りしていたんだけど、力を持った商人が、ビギナー冒険者を狙って魔獣を買いたたくってことが横行したのね。で、やってられないって逃げ出した冒険者が狂暴化して盗賊になって、警備隊のお世話になるということが続発したの。で、4代前だったかな。国王陛下が街の惨状をご覧になって、改善しなければいけないと思ったのでしょうね。冒険者が買った魔物を適正価格で買い取る冒険者ギルド、商人に公正な価格で売り渡す貿易ギルドの2つが設立されたの。そこから閉鎖的だったこの国も、周りの国との連携を取り始めて、周辺国の中でも一番の治安の良さを手に入れたわ。ここ何十年間はずっと治安の良さランキングで1位を取り続けていて、『ずっと住むならオーガルで』みたいなうたい文句があったんだけど、ここ最近じゃぁね。南の森を中心に、狂暴な魔獣が姿を現すようになっちゃってね。移住者が減ってきているのも事実なんだよね。それに、交易品も、南の森から運ばれることが多くて、このルートが封鎖されると、迂回して運ばれるから、早く何とかしたいね~。って冒険者ギルドと話をしているの」
なんとな~くこの国の歴史はわかった気がする。まぁ、私の頭では理解しないだろうけど。
それにしても、治安の良さランキング1位か。そんなことを言われちゃ、離れたくなくなるけど、ほかのところも見てみたいっていう思いが出てきたり。でも、先にこの街でいろいろ実績を積まないといけないかなぁ。って思ったり。




