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20:ブルーウルフ

「ロッカ、アーシャ。何か魔法って使えるの?」


 近距離線はいくら何でも危なすぎる。何かしらの形で遠くから攻撃するほうが安全なんだけど、返ってきた答えは「なにも使えない」と残念な答えだった。


「それじゃあ下がって、キルシュちゃんたちと一緒に逃げて!そして、門番の人に伝えてほしい!それまでなんとか食い止めるから」

「そんなことできるわけねぇだろうが!馬鹿じゃねぇのか!」

「そんなこと言ってる暇なんてない!今はひとりでも多くの人が残ることが先決よ!それに、アーシャの足の速さなら早馬を飛ばすのと同じくらいでしょ!いいから早く!」


 そんなことをいって素直に引き下がるとは思えない。だけど、できるだけ犠牲者は少ないほうがいい。それなら、遠距離から魔法が使える私たち2人で対処して時間をかけるほうがいいに決まっている。


「……アーシャ、お前は門番に知らせてこい。ここはミネコに任せよう」

「ロッカ……」

「大丈夫。守ってくれるさ。俺の癪には触るがな」


 どうやらいうことを聞いてくれるみたいだ。アーシャは一気に加速して、北の方角に向かう。それだけでもありがたい。


「ウェルメンさん、そのぶるーうるふだっけ?姿を見せたら足元を狙ってほしい。外れてもいい。私が炎魔法で燃やし尽くす」

「わかったわ。くれぐれも無茶しないでよ。今の頭脳はあなたよ」

「わかってる。ロッカ!後ろでキルシュちゃんたちを守るように流れ弾を受け流してほしい。私たちが前線に行ったら後ろががら空きになるから」

「承知。いつでもこいや!」


 いや、こられたら困るんだけどね。


「キルシュちゃん、治療が終わったら、少しずつゆっくりと後退していって。大丈夫。あなただったらできるから」

「わかりました。お願いします」


 キルシュちゃんの声は今にも泣きそうだ。まぁ、無理もないか。


「ミネコ、来るよ」

「了解。それじゃあ、頼むね」


 とりあえず、私は同じようなところに水魔法かな。理想は関節が凍れば完璧だ。まぁ、早々うまく行くとは思えない。

 そう思っていると、静かにかつ、どっしりと大きな身体が月明りに浮かぶ。

 レッドウルフの1周りくらい大きいだろうか。感覚で言えば、雌豹が雄ライオンに変わった感じ。


「ウェルメンさん、お願い」

「了解。アイスアロー」


 静かに言って魔法技を飛ばしたウェルメンさん。その氷の矢を追い越すイメージで速い水の矢を飛ばす。

 わずかに私の矢のほうが速かったのか、ピシャンという割れる音がした後に、カツっと堅いなにかがあった音がした。


 グオオォォォォ。


 耳をふさぎたくなるほどの不協和音を夜空にこだまさせ、私たちの方を見る。

 幸い、草むらに身体を隠しているせいか、まだ見つかっていないはず。


「ウェルメンさん、もう一度行ける?」

「了解」

「できれば、何発か連続で顔あたりにお願いしたい。狙えそう?」

「やってみるわ。アイスアロー」

「アクアアロー」


 声をかぶせるようにして私ももう一度同じ技を繰り出す。

 これは北海道にいたときに実際に前のマネージャーがやらかした事件を再現したもの。


 ホテルから車でライブ会場に向かおうとしたとき、ドアが凍ったからお湯で溶かそうとして、余計に厚い氷になってしまったときのこと。

 今回はうまく行くかわからないけど、それの応用のつもりだ。

 多少凍ればいいと思っているくらいで、動かせる範囲を小さくすれば、水魔法でどうにかなると思っている。


 ただ、これだと範囲が狭いな。もっと何かできないか。

 ……?雨?かどうかはわからないけど、こりゃ、足元も悪くなるし、早めに決着をつけたほうがいいな。

 ……そっか。凍らせるならそうしたほうがいいのか。


「アクアボール!」


 いきなり大きな水の塊を放った私にびっくりしたのか、ウェルメンさんは攻撃をやめてしまった。


「撃ち続けて!まだ足りない!みだり打てない⁉」


 無茶なお願いなのはわかってる。だけど、それほど時間が惜しい。攻撃を当てられているのか、少しずつ凶暴になってきている。


「あたいも手伝うよ。氷魔法を出せばいいんだね?」


 後ろからどうやって来たのかわからないけど、人手があるほうが断然いいに決まっている。


「さっきは助かったよ。お礼だと思って受け取ってほしい。氷のつぶて!」


 どうやら、助けたパーティのメンバーらしい。でも、これだけでも手が増えるとありがたいな。


 手が増えたおかげで、一応、顔のあたりは氷漬けにすることができた。

 ただ、もがいているのか、怒っているのかわからないけど、とにかく暴れる。ただ凍っているだけだと、割られたときが面倒だ。

 ここはもうとどめを刺しに行くか。


「アクアボール!」


 これで氷が割れても呼吸をすることはできないだろう。もう少し様子を見てみようか。


「これでいいわけ?」

「少し様子見したい。どうでるかわからないから。とりあえず、いつでも技を出せるようにしておいてほしい。あと、助かりました。かなりダメージをうけているはずなのに、ありがとうございます」

「いいのよ。私はメルティね。さっきは本当に助かったわ。ロッカが全部教えてくれたわ。あなたの作戦のおかげだってね」


 正直、やりやすいように動いただけ。たまたまうまく行っただけだ。

 ウルフが3匹同時に向かってきたら危なかっただろう。


「ラッキーが重なっただけだよ。あの大きいウルフも大半はラッキーだから」


 そんな話をしていると、ブルーウルフは静かになっていた。どうやら、討伐完了したみたい。


「とりあえず、あのブルーウルフはどうする?あんな大きい獲物、私のアイテム袋には入らないわよ」


 私も正直微妙だな。


「ただ、こんな超高級食材、こんなところに置いておくのはもったいないわね。誰かアイテム袋に入れられない?」


 誰も手を上げない。それもそうか。ブルーウルフなんてとんでもない獲物なんだから。


「私も余裕があれば入るかもしれないんだけど……。今はレッドウルフ2体が限界かもね」


 ウェルメンさんは自分のアイテム袋を覗き込みながらつぶやく。

 レッドウルフなら入るのか。……あっ、そうか。私も容量がいっぱいだけど、そうしたらいいのか。


「ウェルメンさん、今私のアイテム袋に入っているレッドウルフを預かってくれません?あと、1匹誰か預かってほしいんだけど……」

「それならあたいが預かろうか?」


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