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16:暇な夜に

 浴場はまだ混んでいない。泊まるつもりの冒険者たちはまだ戻ってきていないのだろうな。なんて思いながら、一番風呂をゆっくりと楽しむ。


「あら、先客?……あなた、生きていたのね」


 湯船につかってしばらくすると、聞き覚えのある声がした。

 ……えっと。名前は忘れたけど、昨日湯船で一緒になった人だ。


「生きていたのねって、失礼ですね」

「だってあなた、芸者でしょ?それにレッドウルフににらまれて動けなくなっていたじゃない。それで私が門番の人に、レッドウルフに襲われそうになっている芸者がいるって伝えてあげたのに」


 この人だったのか、あの門番の人たちを混乱に陥れたのは。……いや、元凶は私か。

 私が調子に乗って芸者だと言いふらさないだけで変わっていたのかもしれない。


「一応、魔法は使えるんでね。追い払うくらいなら」

「そうなのね。それなら、心配するほどでもなかったんだ」


 どうやら、まだ私がレッドウルフを倒したことは公にされていないようだ。それなら、まだ安心かな。


「でも、心配してくれたもんね。この借りはいつか返すよ」

「義理堅いのね。そんなことしなくて構わないのに。それに、私はそんなつもりで助けたんじゃないし」


 彼女、少しツンデレだな。感謝されて少し照れているけど、それを無理に隠そうとしている。そんなことしなくていいのに。なんて思うけど、私も人のことを言えないや。と思い、口にするのを思いとどまる。


「どうかした?私の顔に何かついてる?」


 じっと顔を見すぎたのだろうか。ふいに彼女が私の顔を見て不思議そうに言った。


「あっ、ううん。なんでもない。気にしないで。さて、私は上がって活動の準備でもしようかな」

「なにかするつもり?」


 いろいろ気になって仕方ないんだろうな。芸者という仕事もそうだし、私個人に対しても。

 私とすれば、芸者は芸者らしくミステリーなままでいたいとは思っているけどね。


「それはちょっと言えないかな。仕事のことだし。私にしかできてほしくないことだし」

「そう。それなら深追いはしないでおくわ」


 彼女にそう返されると、私は湯船から上がり、タオルで身体に付いた水気を取って、脱衣所に。

 すでに、ほかの冒険者なのかはわからないけど、数人が衣を脱いで、たわわな実がいくつも実って、私の目には神秘的な光景が映る。

 私もこんな風になれたらよかったなぁ。なんて思うけど、ないものはねだれない。だけど、ここで見るのは自由。なんて変なことを思っていると、風邪を引く。せっかく温めた体を冷やすのはもったいない。

 そう思い、目の保養はほどほどにし、さっさと自分の衣をまとう。


 そして、食堂に顔を出した私に気づいたメイランちゃんがタイミングよく食事を持ってきてくれる。

 本当に周りがよく見えているよね、この子。私だったら呼ばれてはじめて気づく。なんてことはざらなのに。

 そんなことを思いながらも、この後さらに食堂が混むことを予感して、食事もさっさと食べてしまう。


「今日もおいしかったよ、ごちそうさま」

「ありがとうございます。今日はもうお休みですか?」


 食事が終わってから、自分の食べた食器をもっていくとき、いつも少しだけメイランちゃんと話すようになっている。これはたぶん、ここにお世話になりだしてからだろうか。

 でも、ほかの冒険者さんや宿泊している人たちと話している姿を見たことがないよね。私がしゃべりかけていなくても、メイランちゃんは話しかけてくれるし、なんだか、私にだけなついているようにも感じてしまう。

 まぁそれでもいいか。かわいい妹みたいなものだし。


「うん。今日はもうどこにも行かないよ。こんなに外も暗いのに、出歩くほうが怖いよ」

「ですよね。今日も一日お疲れ様でした」

「メイランちゃんもお疲れさま。また明日もよろしくね」

「はい。お互い様です」


 かわすのは一言二言だけど、この時間もメイランちゃんは楽しいみたいで、にっこにこの笑顔で私と話す。

 こういう子がアイドルに向いているんだろうなぁ。なんて思った時でもあったし、私ももっと自然にこうできるようにならないとなぁ。なんて思ってしまった。


 芸者として活動する前なのに、すでに気づいたことがあるってどういうことなのよ……。でも、活動する前に気づいてよかったな。

 そう思いながら、部屋の中をぬらさないように気を付けながら水魔法を浮かべ少しだけ遊ぶ。

 スマホはあるのにゲームができない、テレビなんてあるわけない、退屈な時間を過ごすのには、魔法を使って遊ぶしかないよね。

 イメージひとつでモノの大きさや、形を変えることができる。この魔法を使って遊ぶしか他がない。

 ただ、それも一瞬で飽きてきちゃうんだよな。今までずっと夜遅くまでダンスレッスンだったり、歌のレッスンだったり、アイドル活動に関することばかりでいつも動いていたから、なんか、時間の使い方がわからない。

 とりあえず、明日も一狩りして、もう少しお金を貯めようかな。

 こういった宿じゃなくて、ダンスをしても歌っても誰にも迷惑にならないような部屋が欲しい。

 あと、振り付けを確認するために、大きい鏡も欲しい。となってくると、到底私の手持ちじゃ足りないはず。もっと稼いで今を楽にしたい。

 となると、今日は、レッドウルフが2体で金貨20枚だったら、1体金貨10枚か。あと、ミニチュアウルフが1体いくらか。なのと、あと、どれくらいのサイズなのかも見ておきたいな。

 よく考えたら、食卓にも出るようなミニチュアウルフの肉は一般的なんだろうけど、私、生の姿を見たことがない……。こういうのって、遭遇率が高いんじゃないの?

 と思う上に、私の初めて倒した魔獣が中位種のレッドウルフということにも少しビビっている。


 さすがに、レッドウルフは、私の身長くらいの体高があったけど、ミニチュアっていうくらいだから、その半分くらいなのかな。……それでもでかいな!

 言っていいなら、セント・バーナードくらい。……いや、でかいよ!?

 レッドウルフを倒したからこそ小さく感じていたけど、セント・バーナードが襲ってくると思うと、なんか、怖いな……。

 ……セント・バーナードが喜ぶようにして飛んでくるならいいんだけど、同じ大きさの狼か……。考えるのはやめよう。


 それにしても、なんだか、外が騒がしい気がする。気のせいだと思いたいんだけど、そうでもないみたい。


 情報を仕入れようとして、階下に降りると、どうも、食堂も少し騒がしい。

 なんとかして情報を仕入れようとしても、周りにいる宿泊者たちのせいで、階段を下りても、中央のほうに向かうことができなかった。


「あなたもおりてきたの?」

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