13:芸者としての1歩
「いらっしゃい。見ない顔だね何がほしいんだい?」
店の奥にいたのは年配の女性。なにかをいじっているようにも見える。
「あっ、いや。素敵な音が聞こえたので、なにかなって思って」
「あんた、これがなにか知ってんのかい?」
詳しいことはよく見てみないとわかんないけど、たぶんスピーカーに似たなにかだとは思う。
「音を出すことができるものだと思いますけど……。ただ、私も田舎から出てきたばっかりなんでよくわかんないですけど」
「どんなものかは知っているんだね。私も、海の向こうの商人からいくつかもらったんだけど、ひとつ使うのでいっぱいいっぱいで、他を売りに出そうと思ったんだが、誰も使うあてがないからね。ずっと残ってんだ。よかったら持ってくかい?向こうの商人は『スピッカ』って呼んでいたよ」
どうやら、この人は早くこの音の出る機械を処分したいみたい。
それなら、どうやって使うかわからないけど、もらっておいて損はないかな。
「それじゃあ、遠慮なくもらっていこうかな」
そういうと、女性は私に向けて、無機質な銀色のはこのようなものを投げてきた。
とりあえずこれをアイテム袋に入れて、お代を払おうと、カウンターに近づく。
「なんだい?」
「おいくらですか?あんなもの、ただでもらうわけにはいきません」
私の目を見ると、女性はフンと鼻をならし、視線をずらした。
「それじゃあ、銀貨1枚だけもらっておこうかね」
たぶん、スピーカーの性質上、銀貨1枚だけって言うのはありえない。
ここは、嫌がられるだろうけど、銀貨3枚を渡しておくか。そのほうが無難な気がする。後でトラブルになるのも面倒だし。
そう思って、アイテム袋から銀貨3枚を取り出し、おばあさんに渡そうとする。
「……そんなには受け取れないよ」
そういうと、銀貨1枚を手元にとり、残り2枚は私に返された。
「あとであのときの代金をよこせとか言われるのが嫌だからこうしてるんだけど」
「気にせんでいい。もうわしも年じゃ。そんなに金には執着せんよ」
そこからも少しやり取りは続いたけど、頑なに自分が提示した金額以上を受け取らないおばあさんに私が根負けし、結局、代金はおばあさんが渋々提示した銀貨1枚だけを支払い、私は宿に戻る。
宿に戻った私は、メイランちゃんにさらに5泊したいことを伝えると、もちろんオッケーです。と満面の笑みで答えてくれた。
まだこれで雨をしのぐ場所の心配をする必要はない。幸いにも、手元にはお金が増えたから。
それに、この世界のお金の価値はだいたい分かった。それをふまえての5泊延長だ。
そして、部屋に戻った私は、さっきおばあさんから買った『スピッカ』を手に取り、じっくりと眺める。
すると、あることに気づいた。
……これ、衣装のポケットに忍ばせていたスマホの端子に似てる。もしかして、これで流すことってできたりして?……そんなわけないか。
なんて思いつつも、この世界に飛ばされたときに着ていた衣装のポケットからスマホを取り出し、スピッカにつなげてみる。
……形は一緒。あとは、音が鳴るかどうかだけ。お願い。なってほしい。
そんな願いを込めながら、自分の魔力を当ててみる。
これは、去り際におばあさんが「魔力を込めれば音が鳴るらしいよ」と言ったから。まぁ、おばあさんは、魔力がなくて音が出せなかったみたいだけど。
そして、かろうじて電池が残っていたスマホを操作し、一番好きな曲を小さな音量で流してみる。
『派手にけりだして深い 心の傷を消し去りたい』
私が負けそうになった時に流す曲で、一番力のもらえる曲を少しだけ流す。
流した感じ、音もクリア、どこまで大きな音を出すことができるかわからないけど、意外と優良かも。これでちょっとは私のやりたいことに進めそう。
後の課題は充電だな。それさえどうにかクリアしたら歌って踊る芸者としての職業を肩書だけじゃないことを証明できるかもしれない。
あとは、どこまで大きな音を出すことができるかというのと、このスマホの充電だよね。どうにかして電気を作らないと、スマホ自体が使えない。
……ん?スマホの充電がわずかに増えてる?なんでだろう。普通、使ったら減るはずなのに……。
もしかして、スピッカにつないで、魔力を流したことで、充電をしながら、音楽を流していたということなのかな。……そういうことだと思っておこう。
それなら、このスマホをスピッカにつないで、魔力を当てたままのほうがよさそうだね。
そう思うと、スマホとスピッカはそのままにして、魔力を当てるのを一時的にやめる。
ここから少し出かけるからだ。
行く先は、貿易ギルド。芸者活動をするにあたっての注意事項とか聞いておこうと思ってね。行く先々でトラブルになるのはごめんだし。
「あら、ミネコさん、本日はどうされました?」
私の姿を見つけると、受付嬢のルーイさんが私に声をかけてきてくれる。
「ちょっとききたいことがあってね」
「それなら、こちらにどうぞ」
そう言って連れられた近くのテーブル。
私の表情を見て、長くなるのかもと思われたのかもしれない。
私もたいしたことを聞く用事じゃないと思うんだけどなぁ。なんて思いながらも、椅子に腰を掛け、ルーイさんと面と向かう。
「で、お話とは?」
「この前さ、雑技団が広場でパフォーマンスしていたのって知ってます?」
「えぇ。噂程度には聞いているわ。あの人たちまた来たのね。懲りないわね」
ルーイさんの口調から見ると、どうやら、ギルドとしてはあまりよく見ていないようね。
「ギルドからは冒険者に対して、貨幣類は投げないように達しが出ているから、そんなことはしないんだけど、街の人たちは面白半分で銅貨を投げているの。もちろん、貿易ギルドに届けてくれているなら、かまわないわ。いつもあの人たち届けてくれないのよ。届けたら売り上げからいくらかを税としてギルドに納めないといけないからというのがあるから、それを嫌がっているんだろうけど」
どうやら、ギルド側としても手を焼いているみたいね。それなら、私も敵を作りたくないし、あまり出しゃばったことはしないでおこうか。




