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97:不穏な空気

 すごいね、この力。普通の栄養ドリンクはこうもいかないけど、この世界の栄養ドリンクはすごい。一瞬で倦怠感が飛んでいくんだから。


「ありがとう。ものすごく楽になった。これで貸しはチャラかな」

「そんなわけねえだろ。あれだけの数を討伐してもらっていて、それがこの1本とか笑わせるなよ。そんなに安い男でもねぇよ」


 煽ったつもりはないのに、なんだか、煽り返されたようにも感じる。だけど、それは仕方のないことなのかもしれない。

 冒険者はいつだって命懸けだ。まさにこの瞬間も。

 今は、なんとか私のアクアボールでどうにか道をふさいで周りをけん制しているけど、このアクアボールを解除したとたん、襲われることだってある。そう考えると、あのとき、ウェルメンさんとたった2人で群れの半分を討伐したことは、借りに含まれているのだろう。なんて思いながらも、次の作戦を思いつき、私は目をそらさず話す。


「いったん様子を見たいから、アクアボールを解除したい。できれば、臨戦態勢に入って、いつでも立ち向かえるようにしておいて」

「嬢ちゃんのいうことなら合点承知の助だよ。任せな」


 ルイスさんがそういうと、ウォルトさんとともに少しだけ私の前に出る。もし襲い掛かってきたとしても、返り討ちを打てるという状況なのだろう。


「準備はいいね。行くよ!」


 カウントダウンをしたあと、「ゼロ!」といった瞬間にアクアボールを解除。どれくらいの量の水かわからないけど、一気にあふれ出し、思わず、ルイスさんたちの前から、私やチェイスさんを覆うように、アクアウォールを張って、水圧で流されないようにする。

 コントロールを失った水は四方八方に勢いよく流れる。

 私のアクアウォールに当たると、鋭いしぶきを上げて跳ね返る。

 これ、アクアウォールを張っていなかったら、確実に流されていた。解除する方法を間違えるだけでこれだけ危険になるんだ。と初めて思ってしまった。


「ヒュ~。すっごい勢い。前って、こんな勢いだったっけ」

「いつもは弾けるように解放するんだけど、今日は間違えちゃった。はじけさせるのも忘れるくらいいっぱいいっぱいだったのかもね」


 私も苦笑いで答えるけど、正直、ここまで威力があると思わなかった。

 秘密の話にするけど、耐えているだけで少しだけ魔力を持って行かれる感覚に陥った。


「さてと。流されてしまったウルフは、どれだけ生き残ってるかってところだな」


 気にするところはそこよね。たぶん、最初に突っ込んできたウルフに関しては、長時間水の中だったから、さすがに息絶えているだろう。そこからどんどんと突っ込んできていた感覚はあって、どこまで息絶えているのかがわからない。

 もし、生き残っているのであれば、私たちのほうに向けて足を向けてくるだろう。


「大きいな。しかも1匹じゃなさそうだぞ」


 ルイスさんは何を思ってそう言っているのかわからないけど、それくらいの緊張感が張り詰めるのは私でもわかる。


 そして、1分も数えなかったと思う。大きい何かは姿を現した。


「また大きなレッドウルフ。……人が乗ってる!?オイ!お前!何してんだよ!」


 ルイスさんが驚くのにも無理はない。3匹もいる大きなレッドウルフのうち、1匹の背中に人間が腰かけていたから。

「な~んだ。まだ死んでなかったんだ。面白くないわね。芸者のミネコもドブネズミみたいなあんたたちも」


 ルイスさんの声掛けに反抗するかのように、その人はつまんなさそうな声を出す。

 何者だ?私のことを知っている?それも、私の職業が芸者だということも。

 私のことはそう広まっていない。私のことを同業者だと思っている冒険者もいれば、広場で顔を合わせるちびっこたちやその親からは芸者だと思われているところを考えると、芸者でもあり、冒険者であるということを知っているのは、ギルドにいる人間と、ここでともに戦ったルイスさんたち、そして、キルシュちゃんたちのパーティ、そして、南門のおっちゃんくらい。

 ……あともうひとりいた。

 ウェルメンさんだ。

 そしてこの声。ウェルメンさんにそっくり。最近は、一緒になることが少なかったから、声や顔を忘れかけていたけど、今のこの声でしっかりと戻ってきた。


「あんたはそこで何してる!目的を言え!」


 すでに好戦的なのはルイスさん。少し喧嘩っ早いところが出てしまっている。


「そうね~。私の目的は、オーガル帝国のウォルンっていう街を破壊することかな」

「ウォルン……この先の街じゃないか!何が目的なんだ!」

「う~ん。ただただ暇つぶし?まぁ、はっきりとした意図はここでしゃべることはできないんだけどねぇ。まぁ、あんたらにはここで死んでもらうつもりだし、今のうちに言いたいこと言えば?私がちゃんとウォルンの街に届けてやるよ」


 まだまだルイスさんとウェルメンさんの言葉の応酬は続く。

 そこに、無理やり私が首を突っ込む。


「ウェルメンさん!何してるのよ!目を覚ましてよ!優しい時のあなたはなんだったの?」

「ふん。馬鹿なことをいう小娘だ。あたいが優しい?そりゃそうよ。邪魔をする人間の力量を計るには優しくしないと実力を見せてくれないからね」


 ということは、私はまんまと騙されていたということ?

 ……駄目だ。私、この世で一番嫌いなタイプの人間だ。あの時と同じで今すぐにでも殴ってしまいそう。


「おっ、人柄が重要な芸者がブチぎれるのか?そんなことしちゃ、人気に影響が出るんじゃないのか?」


 ふぅ。煽られちゃダメ。もっと落ち着かないと。あとで人が見てないところで存分に殴ってやるんだから。


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