第八話
本日二回目の投稿です。
長編作品の合間に書いてます。
短めの連載予定です。
最後まで読んで頂けると幸いです。
こうして、双方の想いが届いたシオラとエル。
今朝、目が覚めると胸元に何やら違和感があった。
それもキラキラと光る素敵な違和感だ。
(ん? なん… え? これって… ?)
「ネックレス!?」
シオラは慌ててその身を起こすと、鏡のある方へと向かった。
「綺麗… 」
(エル様よね? ふふふ、こんな洒落たことするなんて… ふっふふふふふふふふ… 後でお礼を言わなくちゃ)
シオラは朝から、幸せ全開の不気味な笑いを浮かべていた。
その後のシオラはというと、いつも通りメイドとして働いていた。
しかし、以前までとは違い、王宮中に既に顔は割れていた。
にも関わらず、それはいまだに継続中だった。
彼女の性格上、すぐには切り替えられなかった。
厨房には、エルのための安全な食事作りをするので、頻繁に出入りしていた。
それを含め、折角慣れ親しんできた厨房と工房通いは止められなかったのだ。
「シオラ… あなたがまさかソエルリード殿下のファーストレディだったなんて… もう、シオラ様とお呼びすべきね」
(異名が変わってる… )
遠慮しながらそう言うのは、工房長であるメイドのミレーである。
彼の事はこの王宮メイドの中で、シオラが一番信頼している人だ。
「いいんですいいんです! 本当まさか過ぎますよねぇ。ふふふ、私もつい最近知ったくらいですもの。それに今まで通り、 ’シオラ’ でお願いします!」
「そう… ? ではシオラ、改めてよろしくね? はぁ〜それにしても楽しみねぇ。楽しみすぎて、私達今から練ってるのよ?」
「ん? 何をですか?」
「あらやだっ! ドレスに決まってるじゃないっ! ソエルリード殿下の御眼鏡にかなったのよ? 王太子妃になるんだもの! それはもうとびっきりの式でしょうに! それにね! あなたの事は、ここの皆がよぉく知ってるの。大好きなのよ、あなたが。もちろんここに来て、日が浅いから知らない事もたくさんあるわ。だからね、教えてちょうだい! ふふ… これからが大変よぉ… じっくり細かく聞き出すからね?」
「な、何をですか… ?」
「決まってるじゃない! ドレスの好みよ! それに色や装飾品っ! この国で一番広い工房よ! 何百もの種類があるのを、あなたも良く知ってるわよね!?」
ミレーは張り切りすぎて、目が血走っていた。
「えっ!? ちょっ、私そんなに豪華でなくとも… っ!? ひっ!」
「ふ、ふふ… さぁっこれからが忙しくなるわっ、よっ!」
そう言われ、ミレーの本来の力強さを確認させられるように、シオラは肩をガシッと掴まれた。
(なんて力… エネルギーが凄い)
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エルの部屋へ戻ると、そこでも同じような光景が繰り広げられていた。
エルはもう既に、意気消沈している模様。
その相手は、シオラの時とは比にならない人数であった。
五人だ。
そう、彼の姉君達である。
シオラ同様、弟を愛する気持ちが大き過ぎるゆえだ。
だからと言って、婚約者であるシオラに意地悪などで手を出したり、嫉妬したりはして来ない。
とても性格が良いのだ。
(ここでもか… エル様、心ここにないよ?)
シオラの姿を見るや否や、彼女達はすぐ様反応した。
「あっ! シオラちゃん! どこ行ってたの!?」
「ねぇ! これ似合うと思わない!?」
「わたくしは、この大きさの方がいいと思うんだけど?」
「これじゃ足りないわね? もう少し持って来させようかしら?」
「エルッ!? ねぇ? 聞いてるの? もうこの子ったら! 人生で一度きりなのに」
(女性のこのエネルギーは、一体どこから湧いてくるのかしら? あれ? でもミレーさんは男性だし、私は女性… あるけどないし… )
答えは簡単である。
’乙女心’ だ。
ミレーには、大いなる乙女心がある。
シオラには、それが少しばかり欠けている。
もちろん王女様方はたっぷりある。
それにより、世の女性の憧れでもある ’結婚式’ への熱意が、これほどまでにも違ってくるのだ。
彼女達のおかげで壮大になりそうな儀式の中、二人は愛を誓うのだ。
そう、それはまだまだ当分先の話である。
大変で豪華な儀式のための準備が今、始まろうとしていた。
「お姉様方、ご機嫌よう? えぇとこれは?」
これが何かはわかってはいたが、一応聞いてみたシオラ。
「もちろんっ、あなた達の結婚式の準備よ?」
(ですよねぇ… )
「そう… ですか… あ、でもそれはまだ先の話で… 」
「ダメよ! 人生で一番最高な日にするためだもの!」
(あぁ… 確かに素敵だし、憧れもあるけど… 誰しもが結婚式がその頂点とは思ってないんじゃ… )
「なのに、エルったら全然興味がなさそうなんだもの」
「あ… いえ、そういうわけではないんじゃないかと… 」
代わる代わる王女様が、見えない程の言葉のパスを出してくる。
「この子、昔から無口で何も言って来ないんだもの! こういう時こそ、ちゃんとしないといけないのに」
「エル様にはエル様の… 」
「だからここは私達がっ… 」
「あっ! あのっ!!」
王女達が少し驚いた表情で、シオラの方を一斉に見た。
エルもその声に反応し、ゆっくりと顔を上げる。
「あの… 少しお話よろしいでしょうか? 王女様方の愛が溢れてるのはとてもわかります。でも少しばかり過保護すぎませんか? エル様にはエル様のお考えがございます… なはずです。何を考えてるか全くわからない時もございますが… 現に顔は無表情だし、言動は人道から外れているし… 」
(また少し悪口になってきてるぞ)
そう思いながらもエルは、シオラの言葉に耳を傾けた。
エルだけではない。
そこにいた王女達も静かに聞き入った。
「でも、実はとても人の事を考えている立派なお方です。もちろん、私の事を一番にも考えてくれ… てると思います。わかりにくいですが… エル様の事を愛でたくなる気持ちもわかります。なんだが… ほっとけませんものね」
(え… ? 俺の事を愛でたくなっていたのか… ? 許そう)
「それに実は、とんでもなく寝相が悪かったりとか… 意外な一面もありますし… 」
(話がズレてきてないか?)
すると今度は、王女達が思い思いの旨を伝える。
「ふふふ。そうね、でも私達、別に過保護にしているつもりはないのよ? ちょっと愛情を注ぎ過ぎちゃってるかもしれないけど」
(ちょっと?)
「エルにはレールを歩かせてしまっているように、感じちゃったのね。そのせいで少し性格が捻られちゃったけど」
(少し?)
「でもその曲がっちゃった性格を… そのレールまでも壊して戻してくれたのはあなたね、シオラちゃん」
「本当に感謝してる。これは私達には、決して出来なかったと思うわ」
「だから… これからもソエルの事よろしくね。私達の可愛い妹ちゃん!」
「あぁ、わかってくれ… 」
「はぁ… それにしても、あんなに白くてぷにぷにだったソエルが、こんなに大人になってしまって… 姉さんちょっぴり寂しいわ」
「わかります! あの時は、本当にマシュマロみたいにふわふわでしたものね!」
「えっ!? 何故その時の姿を!?」
「まさか! シオラちゃんが!?」
「エルの初恋の子!?」
「キャーーーーっ! なんて素敵なの!?」
「えっ!? ちょっ… 初恋の子って、どういう事でしょうか!?」
「あら!? 言ってなかったの!? エル?」
シオラはエルの方を見ると、目をガッツリ見開いてこちらを見ていた。
「ふふ、あの時計塔であなた達、出会ったのでしょう? それがエルの… 」
「あっ姉上っ! 良いですからっ… もう… これ以上は… 」
そう言うエルの顔は、とても赤くなっていた。
(ほほう… 初恋とな… )
「ふふふ、そうとわかればさらに気合いが入るわね!」
「もっと考えを練らないとっ!」
(あれ? なんか話が戻ってる気が… 軌道修正ね… )
「あ、あの、その件ですが、もちろん私達の意見もございます。しかし、まずはお姉様方の意見を大事にしたいとも思っております」
(え? 本当か?)
「ここで提案なのですが、ま、まずは工房長であるミレーさんとお話されては如何でしょう? 彼もとてもこの式を楽しみされています。そのため、只今花嫁用のドレス(だけじゃないと思うけど)にとても熱心に取り組んでおられますので… 」
「ハッ! そう言うことね!」
「それなら、一刻も早く打ち合わせをしないとっ!」
「早速、ミレーのとこへ行きましょう!」
「彼なら、とびきりの提案をしてくれるわ!」
「ふふふ、はい、そういう事です。じっくり、ゆっくりと練ってみて下さい。私達にはそれからでいいですから」
そう言って、シオラは足早に去る王女達を見送った。
「ん? どう言うことだ?」
(あ、生き返った)
あっという間のことに、理解が追いついていないエルは、シオラに問いた。
「つまり、情熱のある者同士をくっつけさせたんです! 王女様達はエル様の衣装、ミレーさんは私のドレスを。双方の意見を擦り合わせてもらえれば一石二鳥だし、その情熱も半分になって返ってくるのでは?」
「なるほど… ?」
シオラは勘違いしていた。
その情熱が近いうちに二倍にも、いや何倍にもなって返ってくることを… 二人はまだ知らない。
(ミレー… ダムと言ったか? あの工房長の事か… 少し苦手だ。でもシオラは懐いてるみたいだな… ん? でもあいつ… 男ではないか!)
エルは少しモヤがかかり始めたが、婚約者である自信を胸に気を取り直した。
「それにしても助かった… 凄いな! シオラは! あの姉上達を物の足らずで、この部屋から捌けさせるなんて」
弟である自身が、今まで一度も丸め込めなかった彼女達に、道を作ってあげたことに感嘆したエル。
しかし、そんなことよりシオラは非常に羨ましかった。
「はぁ… それにしても本っ当に幸せ者ですね! 贅沢過ぎます。素敵なお姉様達。羨ましい! 私もあんなお姉様達が欲しかった」
「そうか? … そうだな… でもまぁそれ叶うからな?」
「え?」
「いや、もう全て叶ってるようなもんだな」
(あ、そうか… 確かに… でもあの方達を… お姉様として迎え入れるには、出会ってまだ日が浅いからな。心の準備が… 大準備が必要ね)
シオラは強い精神を身に付けようと、心に誓った。
その反面嬉しくもあった。
「そうだっ! エル様! このネックレス… ふふ、ありがとうございます!」
シオラは、その胸元につけていたネックレスを触れながら言う。
その言葉に、エルは照れるように応えた。
「よくわからないが… それで良かったのか?」
「はいっ! もちろんっ大切にしますね!」
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それから二日後、シオラは久しぶりに城下町へと降り立っていた。
一応王太子の婚約者である身。
護衛を二人、お供につけていた。
いや、つけさせられていた。
シオラは断ったのだが、エルが断固として譲らなかった。
(なんだかなぁ… これからずっとこういう形になるんだろうなぁ… でも慣れないと… )
そして、久しぶりに絵の具屋へと足を運んでいた。
エルの絵に触発されたシオラは、久しぶりにキャンパスに筆を振ってみたくなったのだ。
(ふふ、エル様驚くかな?)
そうして今まで働いたお金を、自分の為に初めて使った。
好きな色、好きな硬さの筆、大きなキャンパス。
これらを胸いっぱいに抱えて店を出た。
自分で持つと言ったのだが、護衛の者がそうさせてくれなかったのだ。
このまま帰るのも、勿体無いと思ってしまったシオラ。
美味しそうな匂いのする方へと、足が向いていた。
匂いが近づくにつれて、人の数も多くなっていく。
その香ばしい匂いの方に辿り着いた時には、既に一人になっていた。
そう、逸れてしまったのだ。
護衛の者が側にいない。
シオラはマズイと思いながらも、とりあえずその美味しそうな物を口にほうばった。
(食べながら探すか… そんなに遠くに離れてないはず… )
そう思いながら、シオラは街を彷徨う。
すると、何者かがシオラのその口を塞いだ。
持っていた食料達が落ちる。
そのまま、人混みから外れ、裏の路地へと引き摺り込まれた。
(誰っ… !?)
そして、その瞬間、強い衝撃と共に口元が解放される。
その方に目をやると誰かが、何者かに馬乗りになって殴り倒していた。
シオラは、衝撃で倒れたその腰を起き上がらせた。
殴られている方は、既に無抵抗であった。
シオラは恐る恐る近寄った。
上に乗っている者はそれでも続ける。
その顔を見たシオラは驚きで声を上げた。
「フィン様っ!?」
シオラはその姿を見て、少しゾッとした。
(顔が… 笑ってる… あぁこれか… 前にエル様が言ってたフィン様の悪魔の顔… )
シオラの声に、やっと手を止めたフィン。
「シオラ? 大丈夫?」
何事もなかったように、フィンはいつも通りの笑顔を見せた。
彼の笑顔は天使にもなり、悪魔にもなる。
騒動に気が付いた護衛がやっと到着した。
シオラを襲った男を取り押さえた。
フィンの安否の言葉に、シオラは応える。
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
(顔と手に血飛沫が付いてるよ… 痛そう)
「フィン様、お顔に… 」
そう言って、シオラはフィンの顔をハンカチで拭う。
「手もお怪我されてますね。そこの… お店で手当させてもらいましょう」
辺りを見渡しながらそう言うと、二人はその店へと入って行った。
シオラは店の者にお湯を借り、フィンに付いていた血をできる限り拭ってあげる。
「ありがとう」
「いえ、こちらこそ助けていただきありがとうございます。フィン様、お強いんですね?」
「あ、見かけによらずって思った? ふふ、顔が正直だね。まぁ… 一応訓練は受けてるからね。自分の身は自分でも守れるようにとね」
「訓練? そんなに狙われるような事態に、備えなければならない程なのですか?」
(この人って一体… )
「そうだね。エルだってそうでしょ? 食事も自分で管理して身を守ってるよね? それと一緒… 」
「ん? でもエル様は王族で… 継承者の… ん? 一緒?」
「うん、一緒。僕も王族だから」
「…… えっ!? お、王族!? 殿下!?」
「うん? あれ? でも知ってるものかと… 」
(エル様お得意の… ’聞かれなかったから’ だな… )
「ということは、隣国の王族という事ですか? だから、エル様とあんなに… 仲良さそうに接していたのですね?」
「うん。でも僕は四番目の継承者だから、エルよりかはまだ気楽だけどねぇ」
「そ、そうでしたか… 知らなかったとはいえ… これまでの無礼をどうか… 」
「ふふ、何言ってるのさ。そんな風に思った事は、一度もないから安心して。それに… 」
フィンの瞳が優しくなり、シオラに向けられる。
「シオラの事は気に入ってるから… これほどないまでにね」
(これほどないまでに… ?)
「そ、それは… 広い心痛み入ります… それにしても、先程の者って… 」
「あぁそうだね… 」
(おそらくシオラを狙ってた? でも何故? やはりエル絡みか?)
「ん? 如何されました? フィン様?」
「あ、いや… きっと君が可愛かったからかな? 攫われなくてよかったね!」
「えっ! まっまさかっ! そんなの天地がひっくり返ってもあり得ませんよ!」
「そんな事ないよ… だって君はこんなにも魅力的だからね」
そう言って、フィンはシオラの髪を優しく撫でた。
シオラは思わずその身を離した。
顔が赤いのが自分でもわかる。
しかしフィンは、すぐに真剣な眼差しへと変わった。
「シオラ気を付けてね。君の存在は、既に国中に知れ渡っている。それに何だか嫌な予感がするんだ。必ず一人では歩かないで」
「は、はい… 」
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しかし、フィンのその心配は的中した。
数日も経たないうちに、同じようなことが起こったのだ。
護衛を増やされたのにも関わらずだった。
フィンと同じように、エルからも一人には決してならないようにと念を押されていた。
しかし、いくらそう言われていても一人になる時もある。
ある晩のことだ。
就寝する為、自室の前まで来ると護衛を部屋の前に置いてきたシオラ。
部屋に入るや否や、それは起こった。
口元を布で覆われ、ツンとした臭いがしたかと思えばすぐに意識が遠のいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
明日完結予定です。
引き続き宜しくお願い致します。
長編作品も継続で書いてます。
宜しければそちらも読んでいただけると嬉しいです。
また、大変恐れ入りますが、評価等していただけると励みになります。
よろしくお願いします。




