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第五話

長編作品の合間に書いてます。

短めの連載予定です。

最後まで読んで頂けると幸いです。



シオラは、日々誰かに見られているような視線を感じていた。


しかしそれは、嫌な視線ではなく、何か見守られているようなそんな気がした。


言わずもがな、その視線は代わる代わるの王女達であった。

中々癖の強い王女達。


しかし決してシオラには危害を加える事はなく、むしろかなり好意的に思われていた。


それはまだ本人達は知らない。


そんな中、シオラは着々と王宮での仕事を覚えていた。


シオラのメイド業としてのやる事はあまり変わりなかったが、問題は場所や勝手が違う事だった。


なんせこの広大な王宮である。

一日やそこらで覚えられる広さではなかった。


そしてある日、縫い物の為、裁縫道具を借りに洋裁工房へと赴いていた。


(えぇと、確かここなはず… )


扉を開くと、その広さに圧倒された。


シオラの聞き慣れないその機械の音が、工房中に鳴り響く。


その場にいたメイド達は各々、布を切ったり、熱した錘で服の皺を伸ばしたりしていた。


見慣れない機械を使って、布を何やら補修したりしている者もいた。


「すごい… 」


シオラは、思わず言葉を漏らしていた。


すぐに頭を切り替え、近くにいたメイドに訊ねた。


(男の人? だよね? メイドさんなんて珍しいな… )


「すみません。服の補修用の糸と針をお借りしたいのですが… 」


そう言いながら、手元に持っていた数枚の服を見せた。


「あなた… それを手で縫うつもり? これ全て?」


「え? あ、はい! でも不器用なので、時間もかかりますし、よく手に怪我しちゃうんですけどね… 」


すると何か思うことがあったのか、そのメイドはシオラを工房の奥の方へと案内した。


「… こちらへ」


ある音のする方へと足を進める。


それは先程シオラも気になっていた、見慣れない機械であった。


それを扱う時は、足にあるペダルのような物を踏むと連動して動いているようだった。


「ここでは、様々な織り物を補修したり見繕ったりするので、毎日とても膨大な量をこなさなければならないの。だから、この ‘ミシン‘ という機械を使って作業をしているわ」


(ん? 話し方がなんか… それにしてもこれ… そうだ! ミシン! そういえば養成所で一度見たことがあったわ… でも何故か私だけ使わせてもらえなかったのよね… ここで再会するなんてっ!)


使う事のできなかったその機械は、シオラの記憶の片隅に放り出されていた。


そしてその理由はすぐにわかる。


「試してみる?」


そう王宮メイドに言われ、早速使ってみることにした。


軽く説明を受け、持ってきた服をセットする。


「アガガガガガガガッ!」


振動と共に、シオラの声が工房中に響き渡る。


周りの者はその奇妙な声に、若干引き始めていた。


(怖い! これ間違ったら、手も一緒に縫われちゃう! でも慣れよ慣れ!)


「やだっ! あなた大丈夫!?」


その後、何度も下の糸と上の糸が絡まった。

それを試させたメイドは、すぐに後悔することになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それから、厨房や工房にて色んな王宮メイドと接触するにつれ、知り合いも増えていった。


エル専属の世話のみなので、シオラは他のメイドに比べ仕事は少なかった。


なので、あの日から頻繁に厨房や工房へと足を運ぶようになっていたのだ。


湖畔近くの屋敷にいた時には、知り得なかった料理や服飾等のあしらい方を大いに学んでいた。


エルもそれは目に見えて上達していると感じていた。

しかし彼は少し複雑な思いも抱えていた。


(うーむ、何だか ‘ファースト‘ から遠ざかっている気がするが… まぁ王宮内で顔を広げて行くのはいい事だしな。何より本人が楽しそうだから… )


そして本日も、シオラは工房へと来ていた。


「シオラ! 倉庫からミシン糸の箱があるから、それをひとセット持って来てくれない?」


そう言うのは、初めて工房に来た時にお世話になったメイドであった。


 ’彼’ はここの工房長であるという。


名はミレー。

本名はミレーダム。

そう、男性である。


シオラがここまでミシンを扱えるようになったのは、彼のおかげでもあった。


彼は何よりも衣服を愛し、装飾を愛し、ありとあらゆる布を愛していた。


まさに工房長に相応しい人物である。


そんな彼の言葉に、シオラは快く返事をした。


「わかりました!」


少し離れたところにある工房用の倉庫。


そこに向かうシオラは、倉庫内をキョロキョロと見回した。


「あ! あれかな?」


(随分高いところにあるな。あの台を使って… )


そう思い、近くにあった足台を持ってきたシオラ。


台に乗り、背伸びをして手を伸ばす。


(… っと… ん? と、届かない… あともう少しなんだけ… っど)


グラ…


「あっ… !」


その瞬間、上に積んであった箱達が崩れ落ちた。


共に、ホコリ達と色とりどりの糸達が舞った。


しかし、なぜか痛くはなかった。

それどころか、何か温かい肌がシオラに触れていたのだ。


「あ… ぶなかった… 大丈夫? 痛いところはない?」


(え? 天使?)


その青年はシオラに覆い被さり、落下物から身を守ってくれていたのだ。


そのふわりとした髪の毛に、背後に美しく舞う糸達を含め、シオラには彼が天使に見えていた。


「え? あ、大丈夫… です! ありがとうございます! あなた様の方こそ大丈… あっ!! 血が! 首元から血が出ております!」


「え?」


そう言われ、青年は自分の首元を軽く触れた。


「あぁ、今ので少し切ったんだね。大した事ないから平気… 」


「ダメです! 血が出てるのですよ? 少しだろうが、痛くなかろうが、そこからバイ菌が入ったらどうするんです! 救急箱を持って来るので、少しお待ち下さい」


そう言うと、すぐさまシオラは部屋から出て行った。


青年は、キョトンとした顔でその後ろ姿を見ていた。


救急箱を持ってきたシオラは、青年の傷を手当てしながらチラッとその顔を見た。


(超美少年! 間近すぎて緊張するな… )


「はい、できました! 簡単ですが… 」


「ありがとう。ふふ… 」


「えと… 何か?」


「いや… あんなに怒られたの、久しぶりだなと思って」


「す、すいません! 出過ぎた事を!」


「いや、全然いいんだ、むしろ嬉しかったし」


「え? 嬉しかった… んですか?」


「うん… 君、名前は?」


「あ、申し遅れました、私、第一王子専属で身の回りのお世話をさせて頂いております、メイドのシオラと申します」


「シオラか。可愛い名だね。僕はフィンだよ。よろしくね。でも何故エル専属なんだい?」


(ん? エル?)


「それは… 最初はたまたまでした。でも色々あって、屋敷も崩壊し… 今に至ります」


シオラは端折った。


「え? あの屋敷は崩壊したのかい!? 何故!?」


「経年劣化のためだそうです。それにしても… フィン様はエル様のお屋敷を知っておられるのですか?」


「あ、うん。湖がとても綺麗な場所だよね。僕も何度か行ったことがあるよ。随分前だけどね。そうか… 確かにあの屋敷はとても古い建物だったからね。エルは… あの場所が好きだったから、さぞかし残念がっているだろうね?」


(やっぱり! 呼び捨てにした! この人一体何者?)


「えっと… フィン様? つかぬ事をお聞きしますが、エル様とはどのようなご関係で?」


「ん? エルとは小さい時からの… 知り合いかな? うちの国にも何度か来たことあるし」


「えっ!? ん? フィン様はこの国のお生まれではないのですか? あれ? では何故ここに?」


「遊びに来たんだ。それと… 他にも用事があってね!」


「そう… でしたか… 」


(お友達? にしては何だか身分なんて関係ないような… 同等の話し方だな… )


すると遠くの方から、誰かを呼ぶ声が近づいてきた。


「… ン様ーっ! フィン様っ!」


その声と共に、倉庫の扉が勢いよく開いた。


「フィン様っ! こんな所におられたんですね! いくら探しても見つからなくて困りましたよ! すぐどこかへ行かれてしま… ん? その女性は一体… えっ!? フィ、フィン様! お怪我をされたのですか!? 何事です!?」


(何だ? 何なんだ!?)


「はぁ… ロックス… 大事ないからそんなに騒ぐな。少しかすっただけだ。それをこのシオラが手当してくれたんだ。礼を言う、シオラ」


「えっ! あ、いえ! とんでもございません! と言いますかそもそもこれはわたっ… 」


シオラが弁明しようとしたその唇に、フィンは優しい人差し指をそっと置いた。


「… しぃー。それはまた今度。その時に返してくれればいいから」


(え? 返す? 何を?)


シオラはその思わずの行動に、顔が赤くなった。


「ロックス参るぞ。シオラ、一緒に片付けられなくてごめんね。またね」


そう言って、フィンはその場を後にした。

疑問が残るままシオラは、一旦茫然としていたが、すぐに我に返り後片付けをした。


そしてその中から頼まれていたミシン糸を持ち出し、作業場へと戻った。


夕刻前、そろそろ夕餉の支度をしようと工房を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その帰り道。

ある高貴な一行とすれ違った。


シオラは端っこに寄って、一行が通り過ぎるまで頭を下げていた。


王宮という場所は、色んな人々と至る所ですれ違う。


それが位の高い貴族でもあれば、出入りしている得意先の商人、はたまた稀に王族の方の場合もある。


しかし、シオラはそんな事はどうでも良かった。

と言うよりは、誰が誰なのかの区別がついていなかったのだ。


何故なら、湖畔近くの屋敷からこの王宮に来たことによる環境の大幅な変化についていくのがやっとであったからだ。

今はまだ仕事で手がいっぱいであった。


そして、また次々へと高貴な一行とすれ違う。


(今日は何だか多いな? あぁ、こんなんいちいちやってたら、一生目的地へ着かんわ… )


そして、次の瞬間、周りの空気が変わった。


いつも以上に、ざわつき始めたのだ。


貴族らしき人達も端へと寄る。

もちろんシオラも寄る。


いつもと様子が違うので、一体誰が通るのかと気になり少しだけチラッと見た。


(んなっ! こ、国王陛下!!? 嘘でしょ!? こんな間近を通るなんて! あぁ… 変な汗かいてきた… )


すると、一行が通り過ぎるのを待つ中、一つの人影がシオラの前を覆った。


その人物は、国王陛下の少し後ろにいた。


「…… てる?」


(え? 誰? 何だ?)


状況が読み込めないまま、とりあえずペコっと軽く会釈するシオラ。


「おい。聞いてるのか?」


シオラは何だか聞き覚えがある、その低い声に反応した。


「え! あらやだエル様っ!? 随分と見違えましたね? 一体誰かと… 」


しかしいつも通りに発したその言葉に、側近の男が声を上げた。


「なっ! その者! 頭が高いぞ! お前、この方を誰だとっ… 」


「いい」


エルがそれを制する。


彼は屋敷仕様とは違い、立派な殿下としての身なりをしていた。


それ相応の服装を纏っていたが為に、シオラは彼に気が付くことができなかったのだ。


更には髪型も違い顔を露わにしていた為、その姿がキラキラと眩しく見えていた。


側近の一人が、更に驚くように口にする。


「ハッ! 殿下… ! もしや、この方が!? 例の!?」


(え!? えっ!? 何!?)


すると、その様子に気が付いた国王陛下が振り向き、シオラの方へと近づいて来た。


シオラの事を凝視する。


(う、うわぁ〜陛下… 陛下だ… めっちゃ見とる… )


「其方… もしや、あの時の ‘ファースト‘ か?」


「え? あの… 時の? あ、あ、えぇと… 」


(挨拶っ! 挨拶っ!)


「お、お初にお目にかかりますっ! わたくっしっ、ソエルリード様の元で、身の回りをさばっ… 」


その瞬間、シオラの口を大きな手が覆った。

余計な事を言わせまいと言う様な表情で、エルが見ている。


「こんな所にいたのか! シオラ! 探したぞ? 慣れない王宮で迷ったのか? そうか、仕方がないな? 服まで間違えて、本当に困った子だな?」


そう言うエルは、シオラを愛でる様な仕草で、腰に手も回していた。


顔が引き攣っている。


慣れない笑顔を、無理矢理顔面に貼り付けていたからだ。


(えっ!? 何言ってるんすか!? 困った子って誰の事っすか!? 私の事!? てか手っ! 手ぇ!)


シオラの目は、驚く程ひん剥いていた。


「父上、御無礼をお許し下さい。シオラはまだ王宮生活に慣れていないということもあり、緊張しておられるのです。このわたくしがちゃんと言い聞かせますゆえ」


「… そうか… シオラと言ったな? 今度ゆっくり話でもしようぞ。それまでにこの場に慣れるといい」


陛下のその言葉に、シオラはそのまとわりついていた手を振り解き、精一杯のお辞儀をした。


「もったいなきお言葉。真摯に受け止めます陛下」


陛下は口元の立派な髭から、柔らかい笑みを浮かべてその場を後にした。


(エルディアよ… 嘘が下手だな… いつもより饒舌だったぞ)


そう思いながら、陛下は ‘その日‘ が来るのを楽しみにしていた。


そして、エルもそのまま陛下の後ろをついて行き、その場から姿を消した。


しかし、その場に残されたシオラは、たまったもんじゃなかった。


今の一件を見ていた者達が、シオラから一線を置く。


陛下とその息子に話しかけられたと言うだけでもたいそうな事なのに、仲睦まじそうな接触をしたが為に、周りからの注目がエグかった。


この件がきっかけで、瞬く間に王宮中にシオラの顔と存在が知れ渡ってしまったことは、言うまでもない。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

長編作品も継続で書いてます。

宜しければそちらも読んでいただけると嬉しいです。


また、大変恐れ入りますが、評価等していただけると励みになります。

よろしくお願いします。

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