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第3話 約束

「だ、誰ですかこの人は……!?」


 後ろからやってきたリリアたちが、アンリを見て立ち止まる。

 結界を攻撃していたことは見て分かる。リリアとヨルは警戒し戦闘態勢に入る。


 まずい、このまま戦闘に入ったら絶対に怪我人が出る。


「二人とも落ち着いてくれ。彼女は敵じゃない、俺の知り合いだ」

「ほ、本当ですか?」

「……リックがそういうなら、信じる」


 俺の言葉を聞いて二人はひとまず警戒心を緩める。

 しかし、


「知り合いとはよそよそしいなリッカード。お前の嫁……つがいとは紹介してくれんのか?」

「な、なんですって!?」


 火に油を注いだことで、二人は俺に詰め寄ってくる。


「聞き捨てなりません!! どういうことですかリックさん!」

「ん、説明を求める」

「ちょ、ちょっと落ち着け!」


 なんとか二人をなだめ、落ち着かせる。

 ひとまずアンリのことを説明しないとな。


「彼女はアンリ=マルユ、見ての通り竜人だ。」


 竜人はその名の通り、竜の特徴を持った亜人だ。

 頭には角が生え、背中には翼、そしてお尻からは太い尻尾が生えている。その力は人間を遥かに超え、竜クラスと言って差し支えない。種族の強さで見たら亜人の中でもトップクラス。中には火を吹く者もいるというから驚きだ。


「アンリは俺が王都にいた時、縁あって兵士として働いてくれていた。“竜姫アンリ”の名前は敵国の兵士は誰もが知っていた」

「ふふ、照れるじゃないか」


 アンリは幼い見た目とは対象的に暴力的なまでに大きな胸を張って照れる。

 そういえば武勲を褒められるのは竜人にとってなによりの誉れだと言っていたことがあったな。


「そうだったんですね。でも竜人さんは滅多に人前に姿を現さないですよね? 人とも友好的じゃないと聞いたことがあります。それなのになんで王国の兵士になったんですか?」

「ふふ、いいことを聞いたなエルフの女」


 リリアの問いに、アンリが得意げに返事をする。

 どうやら自ら説明してくれるみたいだ。


「あれはまだ私が一人で世界を放浪していた時の話だ。私は強いがお金を稼ぐのが苦手でな、恥ずかしながら空腹で行き倒れてしまった! そこを王国兵士に見つかって捕まってしまったのだ!」

「は、はあ」


 アンリの情けない話を聞き、リリアは困ったように相槌を打つ。


「王国の人間どもは竜人である私を恐れ、処理しようとした。しかしリッカードだけはそうではなかった! 私のことを庇いたて、温かい飯を用意してくれたのだ。人間は愚かであるが、リッカードだけは違ったのだ」


 アンリがそう言うと、リリアとヨルは「うんうん」となぜか納得したようにうなずく。

 見ればソラとベルも真似をしている。同調してどうするんだ……。


 アンリは確かに『処理』されかけていた。

 竜人は人に懐かないというのは知られた話。いくら強くても懐かない獣を使役しようとは父も兄も思わなかった。

 しかし俺はアンリが悪者には見えなかった。ちゃんと接すれば仲良くなれると思ったんだ。


 今にして思えばそれが分かったのも『神の目』の力のおかげかもしれないな。


「リッカードは元気になった私に頼んできた。『今王都は魔物の群れに苦戦している。力を貸してくれないか……』とな。人間に力を貸すなど論外だが、リッカードの頼みであれば無下にはできぬ。私はある約束・・を結び、それを承諾した」

「約束、ですか?」

「ああ。『戦が終わったら私の願いを一つなんでも聞く』という約束だ」

「「なん、でも……!」」


 リリアとヨルがシンクロして驚く。

 なぜか羨ましそうな表情をしているけど、二人の頼みなら基本的に聞いてるんだけどな。


 アンリとしたその約束自体は覚えている。

 なんでも、というのは少し怖かったがあの時王都はかなりの危機に瀕していた。猫の手も借りたい状況で竜人の手が借りられるとなったら、多少の条件には目を瞑らざるを得ない。


 そしてアンリは俺が期待していた以上の戦果を出してくれた。もし彼女がいなかったら周辺の街がいくつは消えてなくなっていただろう。


「今こそ約束を果たす時。まさか忘れたとか言わないだろうな!」

「いや、約束は覚えているけど……まさかそれが『結婚』とは思わなかった」

「なんだと!? あんなにアピールしていたというのに!」


 アンリはショックを受けたような顔をする。

 ……思い返してみたら、アンリはよく俺につきまとっていた。そして決まって角や尻尾を俺の体にこすりつけていた。

 もしかしたらあれは愛情表現だったのかもしれない。てっきり竜人同士ではよくやる行為なのかと思っていた。


「ぐぬぬ……だ、だが約束をしたのは事実っ! 私とともに竜の里に行き、両親に挨拶してもらうぞ!」


 アンリはあくまでそう主張する。

 しかし彼女の主張には気になるところがあった。


「ところでアンリ、もう北の戦線での戦いは終わったのか?」

「ん? 終わっているわけないじゃないか。軟弱な兵士ばかりで全然攻めに転じれてないからな」

「じゃあなんで戦線を離脱したんだ?」

「それはリッカードが処刑されたと聞いたからだ。ま、私はお前がそう簡単にくたばるような奴とは思わなかったから全然慌てなかったけどな」


 絶対に嘘だ。

 きっと兵士を何人かしばき倒して俺が森に転送されたことを聞き出したんだろう。じゃなければこの森にたどり着くのも不可能だったはずだ。


 しかし……今の話が本当ならば、アンリの話は穴だらけだ。

 申し訳ないけど遠慮なく指摘させてもらおう。


「アンリ。確か約束は『戦が終わったら』だったな。だけどアンリの話だと戦はまだ終わっていない。これじゃあ約束は果たせていないんじゃないか?」

「ん? ……あれ? そう、なるのか?」


 頭の上に?マークを出して首を傾げるアンリ。

 やっぱり気づいてなかったみたいだ。相変わらず直感で生きてるな……。

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