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第20話 宰相は今日もいそがしい

 ――――アガスティア王国、王都アルガード。

 その王城の廊下を一人の男が歩いていた。


「あの件は部下に頼むとして……やはり問題は北の戦線か……。せめて“竜姫りゅうき”さえ残ってくれていれば……いや、それを考えても仕方ないか。リッカード殿下が戻りでもしない限りあれが帰ってくることはありえない。陛下がご乱心なさらなければこんなことには……」


 あごヒゲをイジりながら初老の人物はぶつぶつと呟く。

彼の名前はバフォート・ラ・カウエット・ミグルロット。

 アガスティア王国の侯爵の一人である彼は、この国の宰相もを務めている。


 宰相と言えば聞こえはいいが、行うのはもっぱら王国各地で起きている問題の対処。そのどれもが頭を抱えるような案件であり、抱え過ぎて彼の頭は日を追うごとに髪が抜け落ちていた。


 いったい何日家に帰っていないだろうか。そんなことを考えながら歩いていると前から歩いてきた人物とぶつかりそうになる。

 バフォートは慌てて横に避け、前から歩いてきた人物に目を向ける。貴族ではなく兵士であれば一発怒鳴りつけてやろうかと思っていたが、その人物はとんでもない人物であった。


「おや、ずいぶん熱心に考え事をしていたみたいですね。ミグルロット候」

「ふぃ、フィリップス殿下!? 申し訳ございません!」


 バフォートは慌てて頭を下げる。

 なんとぶつかりそうになった相手はこの国の第一王子フィリップス・フォン・アガスティアであった。

 柔和な笑みを浮かべるフィリップスだが、その笑顔の裏では何を考えているか分からない恐ろしさがある。


 まだ怒鳴り散らす国王のほうが分かりやすくていい。

 立場が下のはずの自分に敬語まで使う彼を薄気味悪く思っていた。


「構いませんよ。ミグルロット候は父の無理難題をよくこなしておられる。貴方がいなければ私の仕事ももっと増えていたでしょう」

「もったいなきお言葉です殿下。殿下のご期待に応えられるよう一層精進いたします」


 そう頭を下げ、その場を去ろうとする。

 しかしそんな彼にフィリップスは言葉を投げかける。


「気になっているのではありませんか? なぜ父上がリッカードを追い出したのか」

「――――ッ!?」


 その言葉にバフォートは立ち止まる。

 リックが家を追われた時、バフォートはその場におらず、事の顛末は後から聞いた。

 確かにその時彼は思った。


 ――――何も殺すほどのことではないのではないか。と


「……なぜ私にそのような話を?」

「私が王位を継いだ後も、貴方には宰相を務めていただきたい。今から仲良くしてもいいと思いましてね」


 読めない。

 バフォートは心のなかで警戒する。この王子がただ仲良くなるためだけにこのような話をするとは思えなかった。

 しかし警戒してもなお、その情報は聞きたかった。

 それほどまでに目の前にぶら下げられた餌は彼にとって魅力的だったのだ。


「……教えていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろん。では少し散歩に付き合っていただいてもよろしいでしょうか?」


 歩き出す王子の後ろを、バフォートはゆっくりとついていくのだった。


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