第2話 弓の腕前
「ようリリア。お前も食うか?」
「わわっ! こんな貴重な物、投げ渡さないでくださいよっ!」
文句を言いながらもリリアは渡した黄金リンゴを食べ、美味しそうに頬を緩める。
小動物みたいでかわいい奴だ。
「……ん? 今日は珍しいものを持っているんだな」
リリアの背にかけているものを指差すと、リリアはそれを外して手に持つ。
それは木製の『弓』であった。俺の家にそれを持ってきたのは初めてだ。
「この前話してましたよね。弓に興味があるって」
「あー、そんなこと話したかもな。わざわざ持ってきてくれたのか」
「はい! 私のいいところもお見せしたいので!」
ふんす! と意気込むリリアと共に場所を畑から森の中に移す。
リリアは立ち止まると少し遠くを指差す。
「リックさん、あっちになっている木の実が見えますか?」
「おいおい誰に言ってるんだ。実の上を這っている虫の毛穴まで見えるぞ」
「……そこまで見えるんですか」
ちょっと引いた感じになるリリア。
聞いといて失礼な奴だ。
「では見ててくださいね」
リリアは矢を弓につがえ、引く。
ギリリ……という音を立てながら、静かに的を狙う。
「へえ、様になっているな」
さすがエルフ、まだ若いのに弓の扱いはお手のものというわけだ。
俺は的となっている木の実を左目で捉えたまま、右目でリリアの動作をしっかりと観察する。
「――――はっ!」
シュン、という風切り音とともに放たれる矢。
その数秒後に遠くからタン、という音が聞こえる。
矢は見事に木の実の中心を捉え、貫通していた。あの距離で当てるとはたいしたもんだ。
「凄いじゃないか。こんなに上手かったんだな」
「えへへ。あ、リックさんもやってみますか?」
嬉しそうに照れた後、リリアは俺に弓を渡してくる。
ふむ、思ったより軽いな。威力より携行性を重視しているみたいだ。思い切り引いたら折れてしまいそうだな。
「よし、やってみるか」
リリアから矢を貰い、弓を引く。
狙いはリリアが落とした木の実より、更に先になっている木の実だ。
「――――ここ」
深く集中した後、俺は手を離し矢を放つ。
弓が折れるギリギリまで引いたせいか、矢は先ほどよりも速く放たれる。
「きゃ!」
その音と風に驚いたリリアが可愛らしい悲鳴を上げる。
そして次の瞬間、矢は木の実を貫き……更にその奥に生えている木を木っ端微塵に消しとばした。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が流れる。
あそこまでやるつもりはなかったのだが……初めてなので威力の調整が出来なかった。
「はは、弓ってあんな威力が出るんだな」
「そんなわけないじゃないですか! 私がいいところ見せようとしましたのにー!」
頬を膨らますリリアを宥めるのには、少しだけ時間がかかった。
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