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MID KNiGHT SCHOOL 深夜学校  作者: 宍冬
1/2

白い空間

『ようこそいらっしゃいました』

 どこか遠くから声が聞こえる。

 天野太一は意識の端から聞こえる声に耳を傾けた。

『ようこそいらっしゃいました』

 今度ははっきり聞こえたその声に釣られるように太一は目を開けた。


 そして、それが自然であるかのように無意識に辺りを見渡した。

 そこは真っ白な世界、壁も天井もなかった。いや、実際にはあるのかもしれない。

 ただ全てが白いこの空間では認知できなかった。

 太一にはこの空間がどこまでも続いているように見えた。


 太一は自分が一つの透明の机に座っていることに気付いた。

「なんだよこれ」

 整理ができない太一はできるだけ頭を冷静に保とうと心掛けた。

 なぜ、取り乱さなかったのか太一自身にもわからなかったが、どこかこのありえない状況を理解しようとする自分がいた。


 太一は一呼吸置くとまず透明な学習机や椅子に触れてみた。

 さらさらとしなやかな、まるでよく研磨された檜のような肌触りが指に残った。見た目からガラスのような素材を想像していた太一には違和感が残った。

 そして、太一はもう一つあることに気が付いた。


 気付けば自分は見たことのない制服を着ていた。

 それはどこか軍服のようにも見える。

 軍事学校はこういう制服を着るんだろうな、と太一は思った。


『ここは深夜学校』

 無機質な女性の声がどこからともなく聞こえてきた。

 それは無音だった白い世界によく響いた。

「深夜学校?」

 太一は聞き慣れないその言葉を復唱した。

『そうです。ここは深夜学校。あなたは選ばれました』

「選べれた?・・・何に」

『深夜学校で学ぶことです。類希なる聡明さ、勇敢さ。凡人には備わらないであろう恵まれた人間を我が校は探していました。この学校は選ばれた者が学ぶ場所。それでは、他の方々の準備も整ったようです』

 声は淡々と言葉を並べた。

 愛想が一つくらいあれば太一も鼻で笑ったかもしれない。


「他の方々?」

 途端に太一の周りに人が出現した。

 それはあたかも初めから、そこにいたかのように自然であった。

 太一はとにかく現れた人数に息を飲んだ。百や千どころではない。

 太一と同じ机に着席し、同じ制服を着た人間が見渡す限りに現れたのだ。

 その席は規則正しく揃えられ、どこまでも続いて見えた。


『入学おめでとうございます。皆様は深夜学校への入学資格を見事得ました。ここは夢の世界。皆様は現実では、今もベッドの上で眠っています。ここは皆様の夢の中なのです。皆様が毎晩夜になって眠ると、この学校で目覚める。この学校で一日を過ごし、眠ると現実で目が覚める。簡単に説明致しますとこのような仕組みとなっております。皆様はこれから卒業または退学するまでの間、現実の世界と深夜学校、二つの世界を生活することとなります』


 相も変わらず淡々と流れる愛想のない声。

『ここにいる皆様は全員が全員、この深夜学校という【共通の夢】をみているのです。深夜学校とは皆様が夢を共有できる場なのです。ですから、今、皆様の隣いる人も現実に存在している人間なのです。現在、この空間には世界中から召集された15~18歳の生徒、5万人がいます。そして、この深夜学校には常に100万人の子供が在籍しているのです』


 太一は再度周りを見渡してみた。

 確かに周囲に日本人は一人も見つけられなかった。

 白人、黒人、アジア人など、太一にとってこれだけの数の外国人を見るのは初めてのことだった。


『なお、この深夜学校での言語は全て共通です。全ての言葉が統一されており、普段違う言語同士の方とも会話が可能です。試しにお隣の方と話してみてください』


 アナウンスが終わると辺りはしばらく沈黙した。

 そして、ぽつりぽつりと雨が降る様にどこかで会話が始まると、その空間はすぐに会話で一杯になった。


「君はどこ出身だ、日本か?」

 隣に座る背の高い白人が太一に話しかけてきた。

 太一は急に話しかけられたことよりも、器用に日本語を話す外人がおかしく目を見開いた。

 そして、つい何秒か前の無機質なアナウンスを思い出す。


「あ、ああ、日本だよ。よくわかったな」

「見た目でなんとなく。俺はドイツ出身、ディートハルト・ベーレンス。ディートでいい。よろしく」

 ドイツ人のディートハルトはぐいと太一に手を差し出した。

 これが外国流のコミュニケーションなのかと太一は一人感心し、併せてよくできた自分の夢にも感心した。


「俺は天野太一。よろしく、ディート」

 太一はしっかりと握手を返した。日本人とは違う骨格に太一は感心した。

「これってマジの話だと思うか?」


「さあな。だが、もし、本当に全員が現実で生きていて、共通の夢をみているとしたら、どんな原理だと思う?」

 ディートは考え込んでいる。

「さあ、わかんねえ」

 太一は肩をすくめた。



『わかって頂けたと思います。みなさんにはこれから、この深夜学校で学び、己を鍛えることで【騎士】となって頂きます。我々は現在、各惑星に点在する異星人と戦争をしています。皆さんはここで授業を受け、訓練を積み、力をつけるのです。そして、各惑星を制圧するためのミッションを行ってもらいます。ミッションの難易度に合わせ、皆さんにはポイントが支給され、そのポイントにより皆さんには個人順位がつきます。ポイント獲得にはミッション以外にも幾つか方法があるので入学後、各自で把握してください。それでは、これより佩剣の儀を執り行います』


「ハイケンノギ?何のことかわかるかディート」

「騎士になる時に剣をもらう儀式のことだ。映画とかゲームで見たことないか?騎士がしゃがんで王様が首に剣を当てるヤツ」

 ディートが身振りを真似して言った。


「ああ〜、あるある。あれか。かっこいいじゃん。というか、ドイツにもテレビゲームってあんの?」

「そりゃあるだろ」

「いや、まああるだろうね」

「じゃあ聞くなよ!」


『儀式はグループで行います。今からみなさんをランダムに転送致します。転送先で皆さんを待っているのは四人の同級生です。それでは1分後転送を行います。しばらくそのままでお待ちください』


「何もかもが突然過ぎる」

 ディートは頭を掻きながら言った。

「まあ、夢だからな。脈略がなくて当然じゃないか?」

「夢でも何でもしっくりこないものはこない」

「お堅いヤツだな」

「お前は、気楽過ぎだろ!」

 ディートが興奮したツッコんだ。



「それより、毎晩寝る度にここで、目が覚めるってことの方が変じゃないか?できんのかよ、そんなこと」

「確かに。そんな技術どこの国で開発さたんだ」

 ディートは顎に手を当てる。

「真面目なヤツだな」

「お前、さっきからなんなんだよ!」


「ディート、お前面白いヤツだな」

「さっきから、俺を馬鹿にしているのか?」

 ディートは太一を睨んだ。


「おいおい、熱くなるなって。俺は、ただ感心したんだよ。日本人には、そんな風に考える奴は少ないんだよ。ドイツ人はみんなそういう風に考えるのか?」

 太一はにこりと笑った。


「・・・さあ、どうだろうな。俺も日本人と話をするのは初めてだから、わからないないが、太一が適当なヤツだというのはわかったよ」

 ディートは両手をあげた。

「ディートは、お堅過ぎるけどな」

「お前よりマシだよ!」


 そのとき、無機質な声が『残り十秒です』と空間の中に響いた。


「なんだか、よくわからんけど、また会えたら、よろしくなディート」

「なんでよくわからないんだよ!まあ、いい、こちらこそよろしく、太一」


『転送を始めます』

 無機質な声のあと、太一の視界は真っ白になった。



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