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11 少女と嵌められた罠

 目を覚ますと、見たこのない天井。次いで、割れるほどの頭痛が襲いかかった。

 その痛みに、意識を失う前の状況を一瞬で思い出す。

 ――オーネットへ心理操作の魔法をかけていた物、それはオーネットの愛用する剣だった。

 だが、なぜベッドの下に隠されていたのか。

 剣であれば、わざわざ隠す必要はない。それに、オーネット自身は剣にかけられた魔法には気付いていないはず――いや、本当にそうなのか。最初から私は、何かを見落としていたのではないか。

「目を覚ましたか。早かったな」

 床に寝転がったハルの頭上から、オーネットの声がする。振り向こうとして、自分の体が寸分も動かせなくなっていることに気がついた。

 オーネットの魔法によって、両腕両足が拘束されているようだった。

「オーネット様! 目を覚ましてください! あの剣には、オーネット様を心理操作する魔法がかけられています!」

「私が、操られる?……はははっ」

 オーネットは突然笑いだすと、大の字に拘束されたハルの脇腹を、思い切り蹴り飛ばした。

「あがっ!?」

 少しも体を動かせないせいで、蹴られた衝撃をまともに受ける。関節がミシミシと悲鳴をあげた。

「言い逃れか? 無様だな」

「ぐっ……こんな事したら、セシリア様だって……があっ!?」

 セシリアの名前を出した途端、今度は顔面にオーネットの蹴りが飛んでくる。

「咎人の癖に、よくセシリアの名前を呼べるなっ! これだからあいつは甘いんだ! こんな人間の屑にッ! 情けなどッ! いらないだろうがッ!」

 オーネットは怒鳴りながら、何度もハルの足、腹、顔を思いきり蹴りつける。

 鼻の骨が折れただろうか。血が止まらない。

 オーネットはぐったりと呻くハルの隣にしゃがむと、髪を掴み、血で汚れた顔を、自分の方へと向かせた。

「甘いから、貴様のような咎人が、自分にも人権があると勘違いするんだ。貴様は道具だ。私の方が貴様の力を、セシリアより有効に活用できる。」

 ――何をするつもりだ。

 痛みと出血で耳が遠く、視界が濁る。

 オーネットはハルに跨ると、制服を乱暴に脱がし始めた。

 ハルはオーネットが今から行おうとしている事に気がつき、体を必死で動かし、叫ぶ。

「やめて下さいっ……オーネット様っ!」

 だが、強力なオーネットの拘束魔法によって、ハルの手足は少しも動かなかった。破るようにハルの下着を脱がせると、その指で乱暴にハルを甚振り始める。

「痛っ、いやっ……!」

「煩い」

 途端に走る、体を内側から引き裂くような激痛。

 しかし、そんなハルの必死の訴えも無視して、オーネットは指を乱暴に動かした。

「いやだ、はなしてっ……あああ!」

 ハルは声を枯らして、必死に叫ぶ。その姿が煩わしかったのか、オーネットはハルの額を指で突くと、魔法をかけた。

 途端に、ハルの口から音が消える。いから叫んでも、何かに吸い込まれるように、掠れた息だけが漏れた。

 これでは、外へ助けを呼ぶこともできない。

「これが魔力の味が。悪くはないな」

 暴力的に押し付けられる快楽。ハルの意思に反して、自らの中で眠る魔力は、確かにオーネットへと渡り始めていた。

「お前の魔力は全て私が貰う。私の役に立て。ハル=リースリング」



 何度も意識を失った。

 その度に、魔法によって強制的に覚醒される。それは、そんな生き地獄の始まりだった。





 オーネットに体の自由を奪われたまま魔力を吸い取られ、どれくらいの時間が経過したのだろう。

 魔力を供給し尽くしたハルは喘ぐこともできず、ただ涙を流すだけの人形と化していた。あれ程暴力的に感じていた快感は麻痺し、今はただ、時折体が別の生き物になったかの様にわずかに震えるだけである。

 ――気持ち悪い。

 今も尚、体内を暴き魔力を啜り尽くされる感触が、ただただ気持ち悪かった。

 セシリアの毎日の行為も、優しさの欠片もないものではあった。だが、そのどこかには「セシリアであれば魔力を渡しても良い」と思える、信頼の様な物が確かにあったのだ。

 しかし、今の行為には、そんなものはない。

 ――気持ち悪い……助けて、セシリア様……。

 その時だった。部屋の扉を、何者かがノックする音が聞こえた。

「……誰だ?」

「オーネット様、ソフィです。聖レヴァンダ学園の従者より、オーネット様の印鑑が必要な書類がございまして……」

 オーネットは、虚や視線のまま横たわるハルを一瞥すると、短く告げた。

「すぐに行く。執務室で待っていろ」

 そして、オーネットが軽く指を振る。それは視線を奪う、目隠しの魔法だった。

「無駄な抵抗はするなよ」

 立ち去ったオーネットの気配に、ハルが必死に助けを求めて叫ぶ。

 しかし当然声は発せない。それでもハルは、拘束された体を這わせ、叫び続けた。

 ――その時だった。

「うわーすごい姿。セシリアに見せたらどんな顔するかな」

 突然の声。それはオーネットが出て行ったドアではなく、窓の方向から声が声があがった。

 ――誰!? セシリア様じゃない……!?

 すると急に、ハルの視界を遮っていた目隠しの魔法が消される。広がった視界。窓の方に顔をあげると、ハルの顔を覗き込んでいたのは、銀髪にツインテール。兎の様な真っ赤な瞳をした少女――クロエ=ウェストコリンであった。

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