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ニジュウ面相 対 赤ずきん(2)

 マユミは、キョトンとした表情で、部屋の入り口に現われた少女のことを見つめた。

「あなた、なぜ、ここにいるの?ここは、これから事件が起こる特別なお店なのよ。警察の人か、あたしのような名探偵しか入ってはいけない場所なのよ」と、マユミは少女に言った。

 しかし、その少女は、そんなマユミの忠告にはお構いなしに、つかつかと応接室の中まで入ってきたのだった。

 こんな幼いのに、少女は、キッと睨みつけるような目をしていた。とっても可愛い顔立ちだったのに。どこか日本人っぽくない顔の作りであり、どうやら、白人の少女らしいのであった。

 だが、その事以上に、彼女の目立っていた点として、この子は、体をも覆うほどの大きな赤い頭巾を、頭から被っていたのである。だから、彼女が動くと、そのまま、真っ赤な色が移動したように、目には焼きついたのだった。

「大変だよ。ここにオオカミが逃げてこなかった?」と、その少女は、パッチリした目を光らせて、真剣な顔つきで、マユミに尋ねてきた。

「オオカミ?」ソファに座った状態のままで、マユミは、つい、聞き返した。

「そうだよ、オオカミだよ。それも、とても恐ろしいオオカミなの。100年以上も生きていて、魔法だって使えるようになってるんだから!人間に化けたりもするのよ。私は、そのオオカミを探している途中だったの」

 少女の話を聞いているうちに、マユミは、ハッと、この少女が何かに似ている事に気が付いたのだった。

 そう。この少女は、童話に出てくる赤ずきんにそっくりだったのである。マユミは、小さな頃にママに読んでもらった絵本の「赤ずきん」の挿絵を思い出していた。

「とにかく、オオカミを見たら、気を付けなよ。お姉ちゃんみたいな女の子だったら、一口でパクリと食べられてしまうから。そうなる前に、私も、一生懸命に、オオカミを探すね!」

 それだけ告げると、赤い頭巾の少女は、さっとマユミに背中を向けたのだった。そして、再び、入り口の方へと駆け出したのだ。

「あ、待って!もしかして、あなた、赤ずきん?」マユミが、慌てて、尋ねた。

 すると、少女は、静かに振り返って、にっこりと笑顔だけを見せてくれたのだった。そして、彼女は、無言で、ドアをくぐり、この部屋から素早く出て行ってしまったのである。

 マユミは、まだ合点のいかない表情を浮かべていた。そりゃあ、こんな場所に、いきなり赤ずきんが出現するなんて、子供のマユミであっても、すぐに納得できるはずがないのだ。

 やっぱり、気になって仕方のなかったマユミは、ソファから下りると、ゆっくりとドアの方に近づいていった。

 開けっ放しのドアから、マユミが外を覗こうとした、その矢先である。

「わあ、マユミちゃん!ダメじゃないか。部屋の外に出ようとしたりして!」と、マユミは、いきなり怒鳴られてしまったのだった。

 ちょうど、この応接室に入ってこようとしたコバヤシ青年と、マユミは鉢合わせになってしまったのである。

 マユミの方も、驚いて、後ずさりした。

「違うのよ。今、赤ずきんを見たの」マユミは、うろたえながら、訴えた。

「赤ずきん?」

「そう。オオカミが逃げたと言ってたわ。とっても危険なんだって。女の子も簡単に食べちゃうそうよ」

「え?オオカミが赤ずきんを食べてしまうのは、物語どおりだろう?」

 あまりに話が飛びすぎているせいか、コバヤシ青年もピンと来てないのだ。マユミの言いたい事がまるで伝わっていないし、きちんと聞いてもいないのである。

 そのコバヤシ青年は、マユミの手を握ると、すぐ、応接室の外へと連れ出したのだった。

「マユミちゃんの両親は、今は迎えに来れないんだって。だから、僕が家まで送ってあげる事にしたよ。まあ、どうせ、放火の予告状の方は、ガセだろうしね。少しぐらい、僕が持ち場から離れていたって、支障はないさ」コバヤシ青年はそう告げて、廊下を歩きだした。

「えええ!それって、思い切り、マズいわ。ニジュウ面相はズル賢いのよ。名探偵が二人も現場から居なくなっていたら、その間に、犯行の為の細工をされてしまうかもしれないわ」マユミは、慌てて、言い返したのである。

 しかし、コバヤシ青年の方は、そんな言葉には聞く耳を持たず、マユミの体をグイグイと引っ張って、とうとう、二人は、宝石店の入り口にまでたどり着いてしまったのだった。

 外に出ると、町には、すでに夜の帳が下り始めていた。全体が、もう薄暗くなりだしていて、小学生の子供を一人だけで帰宅させるには、確かに危なそうなのである。

 勝ち気なマユミも、さすがに不安げな表情を浮かべていた。そのせいか、コバヤシ青年が歩き出すと、マユミも、素直に、その横について、歩き始めたのである。

「マユミちゃん。さっきから、ニジュウ面相、ニジュウ面相と言ってるけど、いい事を教えてあげるよ」と、穏やかな口調で、コバヤシ青年がマユミに話しかけた。

 マユミは、何も言わずに、コバヤシ青年の顔をじっと見上げている。

「ほら、あれを見てごらん」

 コバヤシ青年は、東の方の空を指さした。そこでは、月が昇り始めたところだった。紺色の夜空の中に、丸い月の形が綺麗に浮かび上がっているのだ。

「今日は、満月なんだよ。とっても明るいだろう?天気予報では、曇る事もないらしいから、今夜は闇夜になる事もない。こんな夜は、暗闇を利用して逃げる事もできないので、悪い奴らも、とっても仕事がしづらいんだ。このような日に、わざわざ、盗みを働こうとするマヌケな怪盗なんて居ないよ。だから、今夜は、宝石店に泥棒が入るはずもないのさ。どうだい、分かったかい。名探偵らしく、ちょっと賢くなれただろう?」

 コバヤシ青年は、得意げに、そう説明し続けたのであった。

 ところが、マユミは、すでに、コバヤシ青年の方を見ていなかったのである。彼女は立ち止まり、その目は別の方角に向いていた。彼女は、ひどく険しい顔もしているのである。

「どうしたの?」マユミの様子に気が付いたコバヤシ青年が尋ねた。

「あれ」と、マユミは短く言葉を返した。

 二人は、ちょうど、江戸川宝石店の店舗と隣のビルの境のあたりまで、通りを歩いて来ていた。マユミは、宝石店と隣のビルの間にある、細い隙間の部分を見ていたのである。正式な小路ではないが、それでも、人が通り抜けられる幅の空間だった。もちろん、そこには明かりなどなかったが、それでも、まだ、シルエットぐらいならば目視できた。すなわち、その場所には、人影らしきものが動いていたのが確認できたのである。

 コバヤシ青年も、足を止めて、目を見開いた。

「な、なんだ、アイツは!ヤバいよ。ただの嫌がらせの犯罪予告かと思ったのに、ほんとに不審者がいやがったよ!」コバヤシ青年は、小声で口走った。

 それから、彼は、真剣な顔で、マユミの方にと向き合ったのだった。

「マユミちゃん。いいかい、ここを動くんじゃないよ。僕は、あの怪しい奴の事をナカムラ警部に知らせに行ってくる。すぐ戻ってくるから、ここでおとなしくしているんだよ」

 そう言って、コバヤシ青年は、マユミの頭を優しく撫でると、今来た道を、急いで走って、引き返してしまったのだった。

「ち、ちょっとぉ!」と、マユミは言いかけたが、すでにコバヤシ青年は遠くまで走り去っていた。

 マユミは、オロオロしながら、再び、謎の怪人の方に目をやった。

「こういう場合はぁ、警察を呼びに行くんじゃなくて、怪しい人を先に捕まえるのが、名探偵ってものなんじゃないのかしら」マユミはつぶやいた。

 彼女は、ソワソワしながら、怪人物の様子を伺い続けた。さいわい、怪人物の方は、自分が見られていた事に気付いてはいないようなのである。

 しかし、もう少し経つと、とうとう、謎の人物は動き出してしまったのだった。黒いシルエットしか見えなかったものの、それでも、その影がどんどん小さくなっていくのが分かった。怪人物は、マユミのいる側に背を向けて、反対の側へと歩き始めているのである。

「あ〜、もう!逃げられちゃう!」マユミは、イラつきながら、その場で地団駄を踏んだ。

 これ以上は、彼女も自分を抑えられそうにはなかった。

「こうなったら!」と、マユミは、ワンピースのポケットから小さな虫眼鏡を取り出した。彼女は、探偵道具のつもりで、日頃から、この虫眼鏡を持ち歩いていたのである。

 とうとう、彼女は、自ら、謎の人物を追跡する事を心に決めたのだった。


 つづく

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