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ニジュウ面相 対 赤ずきん(1)

本作は、「夏のホラー2018 和ホラーvs.洋ホラー」のお題を使用して、

イベントとは関係なく、書かせていただきました。

 午後6時。

 東京都心部にある江戸川宝石店の店内は、不穏な空気にと包まれていた。

 と言うのも、この店には、三日前、犯罪予告の手紙が届いていたからだ。その犯罪決行の時間が、この予告状では、今日の夜10時にと指定されていたのである。

 江戸川宝石店は、都内でも有数の宝石店の一つだったから、これだけで、上を下への大騒ぎとなった。今日は、朝から、本庁の警官たちが大人数で警備に来ており、より物騒な雰囲気を醸し出していたのである。

 店の中心にある展示場では、きらめく宝石を収納したガラスのショーケースにと囲まれて、総支配人のエドガワ店長が、おびえながら、待機していた。他に、たくましい体格をした中年の制服警官もいる。警視庁から来たナカムラ警部だ。彼が、この警備の指揮官なのである。また、それ以外にも、複数の制服警官と、まだ若い20歳ぐらいの私服姿の青年が、この場には同席していた。

「本当に大丈夫なんでしょうね?うちの店は、国の多くの要人とも繋がりがあるのです。万一の事があれば、弁償だけでは済まない事にもなります」エドガワ店長は、不安そうに言った。

 彼は、丸眼鏡をかけて、頭が禿げている、背の高い老人だった。まるで老猾な紳士そのものの風貌だった彼も、今だけは、顔に深いシワを寄せて、すっかり憔悴しきっていたようにも見えるのである。

「ご安心ください。我が警視庁としましても、今回の件については、一応、念には念を入れて、捜査第一課と第三課の共同作戦で当たっております。もし、想定外の事態があったとしても、すぐに態勢を整えて、取り組む事ができるでしょう。手抜かりはありません」ナカムラ警部は、威勢よく、エドガワ店長の言葉に返した。

 しかし、ナカムラ警部には、ちょっと自信過剰な一面もあったのだ。

「ああ!せめて、この場にアケチ探偵もいらしてくれたら、きっと、もっと大船に乗った気持ちでいられたはずなのに!」エドガワ店長が、大きくため息をついて、そう嘆いた。

「本当にすみません。アケチ先生は、今は、海外に出張なされていて、ここには来られなかったのです。代わりに、僕が、先生によおく言いつかって、ここに派遣されました。どうか、心配なさらないで下さい。先生の分も、僕が必ず頑張ってみせますから!」あの若い青年が言った。

 この好青年こそは、かの名探偵アケチコゴロウの一番助手であるコバヤシ青年だったのだ。リンゴのような頰をした、見た目は平凡な、優しそうなムードの青年なのである。

「それは信用できるのかね?君が、アケチ探偵ほどの腕利きだとでも?とても、そうは思えないのだがね」エドガワ店長が、やや嫌味っぽく、口にした。

「その点は、わしが保証しますよ。わしも、このコバヤシ君とは、これまでにも何度も一緒に仕事をしてきたが、アケチ君にも負けない有能さだった。きっと、今回も、納得のいく活躍を見せてくれるでしょう」ナカムラ警部が、笑って、太鼓判を押してくれたのだった。

 それでも、エドガワ店長は、まだ疑った表情を浮かべていたのである。

 そんな時だった。

 すぐ外の廊下から、騒がしい音と声が聞こえてきた。皆がそれに注視すると、間もなく、展示場の入り口から、一人の警官が入ってきたのだった。その両手で、可愛らしい10歳ぐらいの女の子を押さえつけている。

「君。どうしたのかね。そんな小さな子を、ここに連れてきたりして」驚いた顔のナカムラ警部が、その警官のことをたしなめた。

「それが、この子が、どうしても、言う事を聞かなかったのです。なんでも、こちらにいるコバヤシさんに、大事な用事があるとか言って。やむを得ないので、連れてきてしまいました」警官が、弱りながら弁解した。

 言われてみたら、確かに、コバヤシ青年と謎の女の子は、お互いの姿を見合っているのである。コバヤシ青年が気まずそうなのに対して、女の子の方はニコニコしていた。どうやら、知らぬ間柄ではなさそうなのだ。

 警官が手を離すと、女の子は、嬉しそうに、コバヤシ青年の元に走り寄った。

「ヨシオお兄ちゃん、探したのよ!もう、どこに行ってたのよ!」女の子は叫んだ。

「マユミちゃん!駄目だよ、こんな所にまで来たら!僕は、今、仕事中なんだよ」と、コバヤシ青年も、女の子に強く言い返したのだった。

「おいおい。コバヤシ君、この子は誰かね?」呆気にとられていたナカムラ警部が、コバヤシ青年に尋ねた。

 すると、コバヤシ青年に抱きついていた少女が、バッとナカムラ警部たちの方に振り返って、元気よく胸を張ったのだった。

「あたしは、マユミよ!あたしの叔父は、あのアケチコゴロウなんだから!あたしにも、名探偵の血が流れているのよ!」

 彼女がそんな事を言ったものだから、ナカムラ警部もエドガワ店長も、びっくりした表情になったのである。

「あのう。この子の言ってる事は本当です。ハナザキマユミさん。アケチ先生の奥さんの兄弟の娘さんなんです」コバヤシ青年が、申し訳なさげに、説明した。

「ハナザキだと?もしかすると、花崎俊夫氏の・・・」と、ナカムラ警部。

「はい、その通りです。父親は、ナカムラさんもご存知の、あの花崎検事です」コバヤシ青年が答えた。

 そう言われてみたら、このマユミなる少女は、さりげなく上品さを身にまとっているのである。着ていた白のワンピースも高級品だったし、頭につけたリボンも庶民向けのものではない。明らかに、上流社会の子なのだ。今はまだ、お転婆な小学生でも、やがては、美しい令嬢になるであろう事が、今の可愛らしい顔からも、うっすらと想像できたのだった。

「でも、もし、この子が花崎さんの娘だと言うのならば、アケチ君とは血は繋がっていない事に・・・」

 ナカムラ警部はそう言いかけたが、コバヤシ青年が口に指を当てて、シーッとジェスチャーしたので、警部はその先の言葉を濁した。どうやら、マユミにとっては、アケチ探偵と親戚である事は、何よりも自慢だったようなのだ。

「さてと、マユミちゃん。話を戻すよ。お兄ちゃんはね、今は大事なお仕事の最中なんだ。今日は、遊んではあげられないんだよ」コバヤシ青年が、マユミの方に顔を向けて、あらためて、厳しい口調で言った。

「あら。あたしだって、そんな事は知ってるわ。だから、お兄ちゃんを助けてあげるつもりで来たのよ」マユミも、負けずに、すました顔で言い返したのだった。

「マユミちゃん。あのね、これは探偵ごっこじゃないんだ。本物の事件なんだ。大人の邪魔をしちゃいけないよ」

「邪魔なんてしないわ。あたしも、叔父さんの代わりに、活躍してあげると言ってるのよ。このお店で、どんな事件が起きてるのかも、ちゃんと分かってるのよ。ニジュウ面相から盗みの予告状が届いたんでしょう?隠したって、あたしには、全て、お見通しよ。だって、あたしも、名探偵の姪なんだから」

「ニジュウ面相なんかじゃないよ。匿名の放火予告だ。それも、狂言の、ただの嫌がらせだった可能性が強い。それでも、万が一の場合のことを考えて、僕たちは警備に当たっているんだよ」

「うそ!叔父さんのところに依頼が来るぐらいの事件だもの。ニジュウ面相が犯人に決まってるわよ!」

「だからね、マユミちゃん。ニジュウ面相なんてのはね、世間の大げさな噂で・・・」

 コバヤシ青年がそこまで言いかけた時、呆れ顔のナカムラ警部が口を挟んできたのだった。

「コバヤシ君。悪いが、よそでやってくれないかね。ここは、子供の遊び場所じゃないんだからね」

「す、すみません」コバヤシ青年は、バツが悪そうに、深々と頭を下げた。

 それから、彼は、まだ喋り足りなさそうなマユミの手を引っ張って、急いで、この展示場の外に出たのだった。

 少し離れた場所に、この店舗の応接室がある。コバヤシ青年は、マユミを連れて、そこへ向かったのだ。

 でも、応接室に着いても、マユミは、なおも口を閉じようとはしなかった。

「お兄ちゃん。あたしの才能を信用してないの?あたし、これまでだって、いろんな怪現象を見事に解決してきたんだから!ここの事件でも、きっと、役に立てるわよ!」

 マユミは、応接室のソファに座らされながらも、まだ、そう言い張り続けていたのだった。ちなみに、彼女は、アケチ探偵の親戚である事を自負しているせいか、会話の随所で、大人びた言葉や難しい単語も使いたがるのである。

「こないだだってさ、人面犬を目撃したのよ。これって、世紀の大発見よ!だって、人面犬が本当にいる事を確認したんだから」

「人面犬も、どうせ、小学校で流行っている、ただの都市伝説でしょ?ほんとに困っちゃうなあ。アケチ先生の姪御さんだったばかりに、こんなに想像力が豊かになっちゃって」コバヤシ青年が、頭をかいた。

「もう、本当なんだってば!いいわ!だったら、今度、人面犬と出会えたら、必ず証拠写真を撮っておくから。それを見せたら、お兄ちゃんも信じてくれるでしょう?」

「はいはい、分かったから。今は、とりあえず、この部屋でおとなしくしていてね。家族に連絡しておくから、あとで迎えに来させるよ。そしたら、一緒に素直に帰るんだよ。お兄ちゃんはね、今日は、マユミちゃんの遊び相手はしてあげられないんだ。また時間が取れたら、マユミちゃんとも、いっぱい遊んであげるから、今日のところは、お願いだから、言う通りにしてね」

 コバヤシ青年は、ひどく真面目な態度で、マユミをそう言い含めると、さっさと応接室から出て行ったのだった。

 あとには、マユミだけが残された。彼女は、不服げな表情のまま、ソファに座り続けているのである。

 いつもは、尊敬する師匠の姪という事で、とても優しく付き合ってくれるコバヤシ青年なのであるが、今は勤務中と言う事もあって、さすがに、マユミへの態度もひどく味気なくて、冷たいのだった。

「ふん、いいわよ。だったら、あたしがさ、この事件だって、絶対に、見事に解決してみせて、皆をアッと言わせてやるんだから!」マユミは、ふくれっ面で、足をバタバタさせながら、つぶやいた。彼女個人の意志としては、まだ、この場から帰る気はさらさら無いようなのであった。

 それにしても、この何もない応接室の中では、する事が、ほんと、何もないのだ。今までは、事件を捜査しようと張り切っていて、興奮していたマユミであったが、急に気が緩んできた。彼女が、体の凝りを和らげようと、ちょっと伸びをしてみると、一緒にあくびも出てしまったのだった。

 その時、外の廊下の方で、激しく駆ける足音が聞こえてきた。音の響き具合から、大人が走っている足音ではなさそうだ。

 マユミがその足音に気を取られていると、次の瞬間、応接室の入り口のドアがバタンと開いたのである。

 やはり、足音の主は大人ではなかった。ドアを開けて、この部屋の中に入ってきたのは、マユミよりも、さらに歳が下らしい、小さな女の子だったのである。


 つづく

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